第1360話  性悪

 地上も地下も、その全てがダンジョンで構成されているパンゲア大陸。

 トール達が住む大陸とはちょうど惑星の真裏に位置ている。

 そのダンジョン島…いや、ダンジョン大陸に100基ある超巨大な塔の一画で、この大陸の実質支配者のボーディ、モフリーナ、モフレンダの3人が、ボーディの分け身であるカジマギーと向かい合っていた。


「お主の目から見て、どうじゃった?」

「はい、やはり管理局長により送り込まれた転生体であると断言できます」

「トールヴァルド様が仰っていた虹色の玉の正体は…」

「99%の確率で、魂のエネルギーを使用して性転換が出来る物かと」

「前世は…猫?」

「それも本人が証言しておりますので、間違いないかと」

 ボーディ、モフリーナ、モフレンダが立て続けに質問を投げかけるが、その全てに一切の迷いも淀みもなく答えるカジマギー。

「ふむ…。我々の検査では、現状この世界の人種の男である事は間違いない。じゃが、魂の形…在り様と言った方が正しいか…それが女の物じゃったとは…」

「はい、それには私も驚きました。前世では雄でありながら、どうやら雌の心を持っていようとは…」

 カジマギーの言葉を受けて、眉間に皺を寄せるボーディ。

「あ奴はそこまで分かったうえで、その猫の魂を転生させたのじゃろうか?」

「それは分かりませんが、性転換出来る玉を持たせたという事は、あるいはそれを事前に知っていた…のではないでしょうか」

 カジマギーに局長の考えなど分かるはずも無いので、この答えも当然といえる。

「その可能性は高い。けど…単にトールヴァルドを混乱させたかっただけという可能性も捨てきれない」

 頭脳派代表であるモフレンダにも、やはり局長の思惑は読み切れない様だ。

「まあ…どちらにせよ、関係者が状況を知ってしまったのじゃ。現状では局長の企みはのほぼ全てが潰えたと言っても良かろうのぉ」

「ええ、仰る通りです。あの局長が何を考えていたかまでは分かりませんが…」

 ボーディの言葉に、モフリーナも難しい顔をしながらも同意する。

「あれは即物的で享楽的な性悪な男。しかも目先の事しか考えれないし見れないエピキュリアン。きっと、場をかき乱してアレの覚醒を遅らせようとしてるだけ。もしかしたら、そんな魂をこの世界に送り込んだのすら忘れている可能性も大」

 珍しく長文を語るモフレンダだが、この場の全員がその内容に納得してしまった。

 ただ、エピキュリアンが何なのかは、誰も分からなかったが、うむうむ…と全員で全力で知ったかぶりをしていたのは内緒である。


「まぁ、確かにモフレンダの言っておる事が、最も正しいのかもしれぬのぉ」

 そう天を見上げながら呟くと、ボーディはカジマギーへと視線を向け、

「カジマギーよ、ご苦労であった。暫し休むが良い」

 カジマギーにとっては、別に苦労をしたなどとは感じてはいないのだが、労われて嬉しく無いはずも無く、

「ありがとうございます。では、本日は休息を取らせて頂こうかと思います。ですが下がる前に、一つお訊ねしても宜しいでしょうか」 

「何じゃ?」

 カジマギーの言葉に小首を傾げるボーディ。

「もふりんは、何処へ?」

 そう、この場には何故かモフリーナの分け身であるもふりんの姿が無い。

「ああ、もふりんか。あ奴には、少し用事を頼んでおる。すぐに戻るじゃろう」

 クックック…と笑いながら、とても悪い顔になるボーディ。

「はぁ…」

 言っている意味が理解出来ず、カジマギーは少々困惑していたが、

「まあ、待っておれ。あ奴が首尾よく目的を果たせば、色々と一気に進むはずじゃ」

 ボーディの性格が悪い事は、分け身であるボーディが一番よく知っている。

 この顔をしている時は、間違いなく何か悪だくみをしているはずだ。

「そうですか。では、帰って来るのを楽しみに待つ事にします」

 ボーディとは違い生真面目な性格のカジマギーは、これ以上言っても無駄だと考え、そう言葉を返したのであった。

 局長を性悪だと言っていたボーディだが、言った本人も十分に性悪であった。



 

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