第1338話 こんばんわ
夕食の席は、エド君に関して謎が謎を呼んでいる状況としては、意外なほどに賑やかだった。
何故なら、急遽父さんが雇い入れる事になった乳母さんが同席したからだ。
これは彼女に余計な不安を与えない為に、出来る限り普通通りにしようという、母さんの深い考えによるものだった。
狙い通り、オシンという乳母さん(フルネームは聞いた気もするけど忘れた)は、終始笑顔だった。
元々どこぞの貴族家の使用人をしていたらしく、結婚&出産を機に退職していたそうで、礼儀作法も家事関係もばっちりらしい。
よくもまあ、こんなに早く乳母となる女性を見つけて連れてきたもんだ。
ちなみにオシンというと、どうしてもNHKの大ヒット連続テレビ小説を思い出すのは、俺が昭和も生きた男だからだろうか?
いや…まぁ、全く発音が違うんだけど…。
そのオシンさんだが、生後10カ月の男の赤ちゃんを抱っこしている。
まあ、母乳が出るんだから赤ちゃんがいても不思議じゃない。
旦那さんの同意を得て、今日から泊まり込みでエド君の面倒を見てくれるそうだ。
さすがに乳母さんを一人だけってわけにも行かないので、引き続き乳母となってくれる人を探しているんだって。
少なくとも3人は雇いたいって言ってたから、あと2人…見つかるのかなぁ?
「わ、私…侯爵様のお邸で働けるだけでなく、まさか御子息の乳母になる事が出来るなんて…幸せです」
妙にやる気を漲らせているオシンさんは頼もしく感じたけど、やっぱ24時間ずっと彼女だけに面倒見させるわけにも行かないから、頑張って探して貰うしかないな。
さてさて、そんなこんなで賑やかな夕食が終ってティータイムに突入する前。
オシンさんには一旦体質してもらい、それ以外の全員の前で、
「カジマギーやリリアさんの言葉が正しいのだと仮定して、今から俺は少しだけエド君とサシで話をしようと思う。まあ、彼はまだ話せはしないだろうが、意思疎通の手段は色々とある。なので、俺がエド君の部屋から出て来るまで、誰も入って来ないで欲しい」
そう切り出すと、家族全員が自分も立ち会わせろと五月蠅かったが、きっちりとお断りさせていただいた。
「あ、もしもの為にナディアは着いて来て。アーデ、アーム、アーフェンは、いつでもナディアと連絡を取れるようにしておいてね」
これは、エド君に何か途轍もない能力が有ったりした時の為の用心。
これと言って能力を持たないチートな俺をナディアのに守ってもらいつつ、念話でアーデ達に連絡を取ってもらう為だ。
そういった説明も交えた俺の説得に全員が応じてくれたので、早速俺はナディアを伴ってエド君の部屋へと向かった。
エド君の部屋の中には、メイドさんが2人待機していた。
どうやら今の彼は寝ている様だが…怪しい。
あれって、狸寝入りなんじゃ無いかなぁ? だって微妙にこっちに意識向けてる感じがビンビン伝わってくる。
「あ~、君達。暫くの間席を外してくれたまえ」
俺の言葉に首を傾げながら顔を見合わす2人のメイドさんだったが、俺が父さんの息子であり伯爵位を持つ貴族だからだろう、小さく頷くと俺に向かって深々と礼をした後、そっと扉を開けて部屋を出て行った。
視線で入り口の扉が閉まり切るのを確認した俺は、ナディアにむかって、
「ナディア、結界を」
俺の言葉にナディアが「はい」と返事をし、両手を肩の高さで左右に広げた。
すると、この部屋の壁に沿って透明な何かが広がったのが感覚で分かる。
流石ナディアたん! この展開速度…なかなかやりおる!
「これで外に音は漏れない? 誰も入って来れない?」
確かめる様に訊ねると、
「はい、マスター。但し、換気用にごく小さな穴を何か所か開けておりますので、そこから音を拾われたり、ガスを流し込まれる可能性はありますが…」
「いや、それは気にしないでもいい。ナディアの事だから、聞き耳を立てられる様な場所には穴をあけて無いんだろう?」
多分、部屋の四隅とかに空気穴開けてるんだろうし。
そういや、前世でガキの頃に、プラスチックのパックにプスプス穴開けてクワガタ飼ってた事あったなぁ…俺って、今はあのクワガタと同じ立場だな。
「勿論です」
「だったら構わない」
鼻息荒くナディアが断言したんで、これ以上は言わない。
結構ドジな所も多いけど、こういう時のナディアは信用できるからね。
さて、準備は整った。
今まで狸寝入り決め込んでた(と思う)エド君も、何かを感じたのかお目々ぱっちりでモゾモゾと動いて周囲を見回している。
こんな状況でも無き叫ばないのは、もう中身が赤ん坊じゃない事がバレタので開き直ったからか?
「さて、エドワード君。どうも、こんばんわ。俺が君の兄のトールヴァルド・デ・アルテアンだ。今から君に質問をするので、正直に答えてもらおうか」
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