第1305話  それよりも…

 メリルがとミルシェが産んだのは、どちらも男の子だった。

 どっちも俺に似て、将来はなかなかの男前になると思う。

 え、だったらお前には似てないって? うるせーよ!


「本当に大変だったんですよ? メリルさんが産むまで、私は必死で我慢してました!」

「ええ、本当にミルシェさんには感謝しかありません。無論、私も何とか先に産もうと頑張りました」

 どうやら、メリルに第一子を産んでもらうため、ミルシェは逆に先に産まない様に踏ん張ったらしい。

 そんな事できるの? あ、出来るんですか…そですか。

 でも、この世界で第一子…つまりは嫡男でも爵位って簡単には継げないよね?

 なのに、何でそこまで順番に拘ったの?

「メリルさんが第一夫人だからです。それに私は元は平民。元平民の私が元王女殿下よりも先に子を産むなんて問題です」

「私は順番など関係ないと、ずっと前から話してたのですが…ミルシェさんがこの様に言い張りまして…」

 どうやら拘ったのはミルシェだった様だ。

「そんなの当然です! 長子を元王女殿下が産んだという事こそが大事なのです! 私の立場だと、本当は愛人か妾になっていてもおかしくありません! なのに正妻にして頂いただけでなく、先に子を産んだなどという事になれば、間違いなく世間の人々…いえ、王家の皆さんの印象は最悪になるのは必然です!」

「お、おう…なるほど…」

 ベッドに横になっているはずのミルシェの圧がすごい…。

 正直に言うと、ちょと怖い。

「ミルシェさんの言いたい事が判らないでもありませんから、私も強く言えませんでした。あと、長男を産む事が出来てほっとしたのも事実ですし…」

 長男? メリルは何を言ってるんだ?

「ですねぇ…。まさか私が男児を出産して、メリルさんが女児だったと思うと…」

 ミルシェも何言ってんだ?

「いや、だから男女関係なく母子共に健康に生まれてくれれば…」

「「そういう問題では無いのです!」」

 ひぃぃぃ! どうないせいっちゅーんじゃ!

「まあ、爵位を継ぐとか継がないとかは、今後の本人の努力次第ですが、やはり長男と長女では将来的に大きな差があります」

「本当に…。爵位は別としても、我が家の財産である商会では間違いなく長男を跡継ぎに推すでしょう。もしも元平民の私が長男を産んでしまったら、間違いなく将来の御家騒動のも火種となりますから」

 言われて初めて気が付いた。


 爵位ってのは、要は子にの公務員的の役職と変わらない。

 無論、それに伴う権力が伴うし、領地持ちの貴族であれば領地の税収の幾割か、そうでないそれ以外の貴族であれば国から給与が出るが、それらは平民の平均的な収入を軽く凌駕する。

 よく勘違いされるのだが、爵位が高いからと言って多額の給料を得ているから優雅な生活をしている…などと言う事は無い。

 領地貴族であれば上手くやりくりすればそれも可能かもしれないが、その収入だって領地が飢饉にでもなれば全部吐き出してでも民の生活を支える必要があるので、優雅な生活とは程遠い。

 王都にいる武官や文官であれば、確かに爵位に見合った給料をもらう事が出来るが、その代わりに王都に屋敷を持たなければならないし、その維持費にはかなりの金が掛かる。

 しかも、貴族家の女性であれば社交にもの凄い金が掛かったりする。

 ドレスや装飾品だけでなく、お茶会や晩餐会の開催も金が掛かるのだ。

 そもそもお茶会や晩餐会を開催するにも、爵位に見合った見栄を張らねばならないのだ。

 無論、これは領地持ちであっても同じなのだが、女性陣が同じドレスを何度も着回すなんてあり得ないと言われる…。

 はっきり言って、爵位を持ったもしくは昇爵したがため、普段の食事などは徹底して倹約していたりするのだ。

 豪華な晩餐? 優雅な生活? 伯爵位を持ってる俺を見てみろ! どこが優雅なんだよ! 仕事に追われる毎日だよ!

 まあ、俺には金になる街もあるし商会もあるから、かなり収入は多いとは思うよ。

 父さんだって、どんどん拡大し続ける領地のおかげで王都でも比較的裕福な生活をしているけど…他の貴族はねぇ…。

 だからこそ、俺の財産とも言えるアルテアン商会の跡継ぎ問題を考えると、確かにメリルの言う事も一理ある。

 平民は長男が家を継ぐのが普通。

 アルテアン商会は職員が平民がほとんど…つまりは、長男を次代の商会長に推すという事か。


「そういう考えもるのか…」

 ミルシェはよく考えてるなぁ…俺なんて全然そんな事まで気が回らなかったよ。

「いえ、それ以外に考えられませんけど?」

 またミルシェが睨んだよ。メリルはただ微笑んでるだけなんだけど、視線がの先っぽがかなり尖がってます…。


「そう言えば、無事子供が産まれた事を、陛下(メリルの実家)やセリスさん達(ミルシェの実家)に知らせたのか?」

「はい、イネスが連絡してくれたはずです」

「あ、私のお父さんとお母さんは、街の宿泊施設にいますので、さっきユズキが知らせに行ってくれてます」 

 あ、そりゃそうか。

 イネスは元はメリル付の騎士だし、ミルシェの両親は父さんの村…じゃない領都リーカに住んでるんだから、産気づいたって連絡したらすぐに駆け付けれるよな。

「うんうん。あとは、2人の為にはるばる来てくれて頑張ってくれた産婆さんや、今回も尽力してくれた魔族さん達には、報酬以外にも幾らか包んであげよう!」

 産婆さんなんて、俺とコルネちゃんを取り上げてくれたお婆さんだぞ? あ、エド君も面倒見てもらったな。

 そういや、あのお婆さん…俺が子供の時からお婆さんだな? 一体、何歳なんだ?  

「まあ、それはトールさまに任せますわ。それよりも…」

「ええ、それよりも…」

 メリルとミルシェが何か言いたそうだけど、何だべ?

「「さっさと子供の名前の候補を決めてください!」」 

 ああああああ! また忘れてたーーーー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る