第1285話  嫌な予感しかしねぇ!

『って事なのよ、トールちゃん』

「…………………えっ?」

 通信の呪法具がずらっと並んだ通信室で、その中の1つの受話器を手にして、俺は母さんと話していた。

『まさか、この…わ・た・し…の話を聞いて無かったとか言わないわよねぇ…トールちゃん?』

 思わず聞き返しただけだと言うのに、受話器から聞こえる母さんの声が…ブルブルガクガク…。

「も、もちろん聞いているであります、マム!」

 母さんが見ている分けでも無いのに、ビシっと背筋を伸ばして返事をしてしまう。

『そう? なら、この先どうしたらいいのかの案も当然あるわよね?』

「えっと…その件につきましては非常に対応の難しい問題でありますので私の一存で即座にお答えする事は難しいかと感じますれば、現在問題に関しましては十分に関係者一同にて精査協議を行いまして適切に対応するためにも今少しお時間を頂戴したく存じます。また後程方針や対応方法などが決まりましたならば早急にご連絡をさせて頂き良き報告が出来れる様いたしますとしか現在の私にはお答えできませんので悪しからずご了承いただきお願い申し上げる所存です」

 頑張って丁寧に(但し早口で)お返事いたしました。

『…トールちゃん。お母さん、貴方が貴族として立派に成長した事を誇りに思うわ。でもね…誰がそんな回りくどくも早口で返事をしろと教えましたか? しかも話の内容は、どう聞いても誤魔化しか時間稼ぎか逃げの答えよね?』

 ギクリッ!

「あ…いえ、その様な認識は毛頭ございませんでした。一部に誤解を招くような表現や混乱を招くような言動がございましたら、謝罪いたします…」

『トールちゃん…貴方、わざとやっているのかしら?』

 あ…しまった!

「ちゃ、ちゃうねん! わざとや無いねん! どう答えたらええか分かへんかってん! なーんも決まってへんさかい!」

 なんか、東京の漫才師が無理やり関西弁を真似た時みたいになってもーた!

『ああ、そう…そうだったのね…。トールちゃんは、お母さんを馬鹿にしていると…? そう、そうなのね…うふふふふふふふ…』

「いや、マジで違うから! 何か俺も混乱してるだけだから! 決して母さんが怖くて緊張しているとかじゃ…あっ…」

 言い間違えたーーーーー!

『そうなのね。トールちゃんは、この私が怖いと? この見目麗しくも慈愛に満ちた母さんの事が怖いですって~?』

「あ…マジでちゃうねん! 信じてぇ~~~~なぁ~~~~~~!」 

 この後、滅茶苦茶説教された。


 いや、お前何言ってんだ? って思う方も大勢いるかと思います。

 実は俺が母さんと通信していた内容は、王都でも観測されたあの地球の幻の事と国王陛下とのやり取りの事。

 まあ、こっちであの大事変を目の当たりにしてた時、ナディアから念話が来たんであの地球の姿に関して話をしたのは確か。

 ナディアに伝えれば、当然両親やコルネちゃん、場合によってはユリアちゃんにも伝わるとは思ってたけど、まさか国王陛下にまで伝わるとは思っても見なかった。

 いや、よくよく考えればそれも当然かもしれない。

 俺の領地で見えたんだから、少なくともこのオーゼン王国の国民の大多数は目にして騒いでいたはずだ。

 ならば、そんな国民を落ち着けるためにも、国を挙げて素早い対応をするためにも会議を行うだろう。

 となれば、王都で軍の大隊を率いている父さんだって、その対策や対応会議に呼ばれて当然だ。

 会議に出席する父さんが、何の手土産も無しに参加するわけもなく、ナディアが俺から念話で聞いた話を、多分ネスからの神託だとか宣託だとか、上手い事言って伝えているに違いない。

 うん、それは別にいいし、想定の範囲内の事。


 俺が我を失い、どこぞの政治家の様な言訳&誤魔化し答弁みたいな口調になった原因は、実は別のところにある。

 コルネちゃんとユリアちゃんが参加した、有望な若者を集めた大お見合い大会が、俺の知らぬ間に介されていた事だ。

 何で俺に知らせなかったのかと母さんに問いただすと、『絶対に反対するから』の一言だけだった。

 そりゃ反対するよね? 可愛い可愛い超ラヴリーなシスターズがお見合い大会だとぉ?

 あの2人を大勢の男共が取り囲んで上から下まで舐めまわす様に見てただとぉ?

 俺がそんな事に賛成するわきゃ無いだろうが! 絶対にそんな大会の開催は阻止する!

 いや、参加予定の男共を、闇から闇へと葬り去ってやる!

 などと考えていたため、母さんの話に身が入って無かったので、あんな適当な言葉を並べてしまったのだ。

 まあ、結局のところ、大お見合い大会とやらは有耶無耶の内に閉幕したらしいし、大変喜ばしい事に最愛のマイ・シスターズには婚約者どころか気の合った野郎も出来なかったらしいので、ひとまず安心なのだが。

 まあ、2人が無事ならば今回は良しとしする。

 次回は絶対に事前に報告する様にと、後できつくナディア達に命令をしておこう。

 

 んで、問題は…母さんの言う様に、この先どうしたらいいか…か…。

 どうしたらよかんべ?

『うぉ~~い!』

 んが! 誰だ…ってサラか? いきなり頭の中で叫ぶな!

『もちょっとしたら、最終兵器を連れて帰りますよ~~!』

 え、帰って来るの? ってか、最終兵器を連れて?

『そっ! 光子力〇ネルギーと縮退炉を持つ恒星間航行汎用人型決戦兵器のエリアムのサラちゃんです!』

 …待ってくれ。なんか、色々と混じっている気がしないでもない事ないか?

『まあ、それは見てのお楽しみです! あ、リリアちゃんも連れて帰ります!』

 いや、リリアと一緒に帰って来るのは分かるんだが…ちゃん? 

 ちゃんって言ったか? 今江、普段はリリアさんの事を呼び捨てにしてるだろ?

 もしかして、そっちもおかしなのなんじゃ無いだろうな?

『へへへ~。それも見てのお楽しみです!』

 うっわ~! 嫌な予感しかしねぇ!

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