第1201話  そう考えると…(呼び出し前夜)

「どう思う、リリア?」

 自室のベッドに腰かけたサラは、シャワーを浴びて出て来たリリアに声を掛けた。

「どうって…何を?」

 サラの質問の意味が分からず、問い返すリリア。

「そりゃぁ、あの猫耳おっぱい達の言ってた事っす」

 猫耳おっぱいというのがモフリーナを指す言葉だという事にはすぐに気付いたのだが、言ってた事という点に関して特定できない。

「言ってた事って、色々あったと思うけど…どれ?」

「えっと…全部?」

 サラの返事は、あまりにも曖昧な答えであった。

「何で疑問形なのよ。そもそも、全部って…彼女達が言ってた事が、全く信じられないって事なの?」

「いやぁ、そう言うわけでも無いんすけど…」

 何だかサラの言葉は歯切れが悪い。

「それじゃ、一番信じられない部分は?」

「ん~~そうっすねぇ…。あ、魂が実はここにあるって事っす!」

 そう言うと、サラは自分の頭を指さした。

「ああ、そこですか。なるほど、確かに私もそこは気になりました。ですが、今の状態では魂を自分の目で見る事は出来ません。まあ、輪廻転生システムの前に並んでくれたら見えるんですけれど…サラ、1回死んでみますか?」

「あ、あほかー! んな事できるか!」

 サラがぷんすか怒るのも当然…いや、無理もない事だ。

「まあ、それは半分ぐらい冗談です」

「半分は本気なのかよ!」

 その半分というのも、そもそもリリアの冗談なのかもしれないが。

「まあ、彼女達はダンジョンマスターです」

「おぉ…急に真面目な声でどうした、リリア?」

 いきなりリリアの雰囲気が変わって、ちょっと引き気味になるサラ。

「いえ、彼女袋はダンジョンという特殊な施設の運営主です。ダンジョンでは多くのモンスターを生み出しておりますよね」

「それはそうだけど…それで?」

 当然の事なので、同意を示しつつ、話しの続きを促すサラ。

「モンスターの数は、どんどん増えてますし、新型のモンスターも生み出してます。中には知性を持ち会話をするモンスターも」

 リリアは、改めてダンジョンという特殊な場所について考えていた。

「それらのモンスターには、魂は無いのでしょうか?」

「へっ?」

 今まで考えもしなかったその事実に、思わず間抜けな声をあげるサラ。

「もふりんとカジマギーなど、どう見ても普通の子供の獣人じゃないですか。それにトールヴァルド伯爵の新しい装備としてやって来たミヤとヒナなど、どうみても普通の幼女です。まぁ、誰もが特殊な能力を持っている様ですが、それでもどう見ても魂を持つ生命体としか思えませんよね?」

「…………」


 リリアのその話を聞いたサラは、思わず黙り込んでしまった。

 言葉が出なかったからである。

 言われるまで全然気づかなかった事実。

 ダンジョンとはそういう物、ダンジョンマスターの能力ならば何でも出来る…っと、何故か今まで不自然だとは思えなかった。

 だが、よくよく考えてみると、確かにおかしな点が多々ある。

 ユリアーネのボディを造った時もそうだったが、基本的にあの設備はモンスターを製造するための物。

 簡単に人のボディを造り出せるのだろうか?

 無論、管理局の技術で幾分かの改造を施したのは確かだ。

 だが、そんな改造だけで、魂と精神体を移し替える事が出来る程のボディを作成できるのか?

 もしや、モンスターにも魂はあって、その形は…いや、基本的に人であろうとモンスターであろうと獣であろうと、魂の形に変わりはないのではないだろうか?

 そう考えると、あの輪廻転生システムの前に並ぶ無数の魂という物も、もしかすると人だけでなく、ありとあらゆる生命体の魂だったのではないか?

 あの、仄かに光る球状の魂…あれが全ての生命体の元?

 いや、それだけでは無い。もしかすると、ダンジョンマスター達は、魂を生み出す事も出来るのではないだろうか?

 そうでなければ、ダンジョンの中のモンスターの数を自在に増やしている事の説明がつかない。

 なれば、ダンジョンマスター達は、どんどん新しい魂を世界に提供し続けている存在なのではないか?

 

 そう言えば、この星や数多の次元世界を含んだ、真の意味での世界の始まりは、『無』であったはず。

 そこには生命体など一切存在しなかったからこその『無』であり、局長を始めとした大元となっていたエネルギー精神体とでも言うべき存在の活動により、『無』から『有』へと変化し、世界が始まったはず。

 そう考えると…おかしな点がある。

 原始のエネルギー体のほんの欠片でしかないサラやリリアではあるが、魂があるのがおかしい。

 生命体が一切居ない世界の元となった自分達に、本当に魂ってものがあるのか? 

 それは、管理局長も同じ。

 もしや、ダンジョンマスターによって新たに創られた魂を利用して、局長も自分達も生命体として存在出来ているのでは?


 そこまで考えた時、サラは背筋に冷たい汗が流れるていのに気付いた。

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