第1183話 調査報告
「ふむ、ではその場所にある湖は、人工的な物である可能性が高いという事か…」
最近、格好いいと思い伸ばし始めたちょび髭を撫でつけながら、グーダイド王国の国王はヴァルナルへと言葉を掛けた。
「ええ、仰る通りです。湖の外周はほぼ完全と言っても良いぐらいの真円で、湖の中心に行くにしたがって水深が深く…。水を完全に抜いて測量したわけではありませんが、この湖は半球状であることはほぼ間違いありません」
国王の言葉に、ヴァルナルがそう答えると、
「やはり、神敵の強力な武器による物…と言う事か…」
国王が手元の資料に書かれた文字を目で追い、そう呟くと、
「陛下の仰る通りかと…」
ヴァルナルがそれ以上言葉を重ねる事は無かった。
あえて説明の必要も無いだろうが、これはヴァルナルが王城に提出した例の土地の調査報告書。
主に書かれているのは、あの巨大な湖の事。
そもそも王国に危機が迫るかも? っと、調査を敢行したのだが、ヴァルナルはトールヴァルドやダンジョンマスター達からある程度の情報は得ていたので、そう危なく無い事は知っていた。
完全に安全かと言われると、その保証は無い。
だが、湖とは全く別の所にある巨大な魔法陣の様な物よりは安全である。
その問題の魔法陣は、先だってナディア、アーデ、アーム、アーフェンが、遥か洋上に飛ばされて一大事となった代物。
どうやら輪廻転生管理局という、この世界の怨敵を撃退するための物であり、それを守護する動物が存在しているらしいのだが、ヴァルナルには魔法陣が危険であること以外、詳細は一切知らされていない。
これはトールヴァルドとダンジョンマスター達が協議した結果、ヴァルナルには危険であるため近づかない様にとだけ伝えたから。
まあ、魔法陣を守護する存在がひよこであり、それがトールヴァルドの異次元同位体であるという事を言い出し難いからだ。
魔法陣を守るひよこ達が、一体何を基準に敵味方を判別しているのかがはっきりしなかったのも原因だ。
本当は魔法陣を踏まなければ、まず安全ではあるのだが…何せその魔法陣がある場所が森の中。
しかも下草や木々のせいで、陣を構成する線が見えにくい。
うっかり踏んでしまえば、どこへ飛ばされるか分かった物じゃない。
そんな危険なトラップがある場所に、王都から100名にも及ぶ調査団を派遣できるはずもなく、だからこそ敢て安全性が非常に高いあの湖と周辺地域にだけ調査隊を派遣したのだ。
まあ、何のための調査団か? と問われれば何とも言えない所ではあるが…。
「今のところ、周辺に敵の姿は無い、出現する可能性も低い…か」
報告書の続きを読みながら、別に問うたわけでもないが自然と口から声が漏れ出た国王。
「はい、その通りでございます。周辺を調査した結果、ごく小さな集落が1つございました」
それに律儀に答えるヴァルナル。
「村人達へと持ち込んだ物資を提供した…村人達は別の土地を目指して旅立つ予定…か」
「その通りでございます」
真相はパンゲア大陸へと旅立ったわけだし、一部の若者は調査隊へと志願した部下と結婚するわけなのだが。
「まあ、危険な土地に住むのも難しかろう。安全な土地を目指すのも分からぬでもないが…。我が国でも難民として受け入れても良かったのだぞ?」
報告書へと落としていた目をヴァルナルへと向けて、そう告げた国王に、
「はい、私もその提案をしました。私の領地で受け入れても良いと、しかし、彼等は自ら安寧の地を探すのだと…」
嘘八百である。
「ふむ…そうか。まあ、彼等に移住を強制するわけにも行かぬしの…」
「まったくその通りでございます」
国王は真剣にヴァルナルの報告を聞き、また真剣にその報告書を読んでいる。
だが、これはヴァルナルにとっては、完全な茶番。
無論、調査隊一同にも、危険な魔法陣の事は話していないし、村人達がパンゲア大陸へと移住する事も話していない。
そして村人達には、パンゲア大陸への移住に関しては口止めを行っている。
唯一、このパンゲア大陸への移住の事が漏れる可能性があるとすれば、調査隊と結婚する者達。
当然口止めはしてあるが、それでもふとした事から結婚相手に漏れるかもしれない。
なので、もしもパンゲア大陸への移住がばれた場合は、移住した村人達…つまりは家族達はパンゲア大陸を追い出され、元の村へと放り出されると伝えてある。
そんな事は実際にはしないが、そう言われた全員が口を揃えて『この秘密は墓の中まで持って行く』と固く誓ったそうだ。
はぁ…早く終わらんかなぁ…。
国王陛下への調査報告というこの場において、そうぼへ~っと考えていたヴァルナルは、やはりトールヴァルドの父親といえよう。
今日は早く帰って、ウルリーカとエドワード君と、一緒に風呂に入りたいんだがなあ…。
もう良い歳だというのに、ラブラブ夫婦である侯爵家は、今日も平和だった。
「それで、ヴァルナルよ…。この報告書のこの部分なのじゃが…」
そんなヴァルナルの心のうちなどお構いなしに、国王は真剣な顔つきでヴァルナルに次々と質問を浴びせ続けた。
面倒くせえおっさんだなぁ…っと、ヴァルナルは思いながらも、
「ああ、その部分に関しましては…」
そんな内心は一切表情に出さず、真面目な表情を崩さず国王の質問に答えるのであった。
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