第1176話  そもそも不要じゃった

 トールが馬鹿な理由で寝不足になっていた頃、ボーディー達ダンジョンマスターと、サラとリリアの長い長い話し合いが、遠く惑星の裏側にあるパンゲア大陸の高い塔の中にある一室で行われていた。 


「なるほどのぉ…それがお主等が下した決断かや?」

 ボーディの問いに、リリアは小さく頷き答えた。

「はい…これがサラと話し合って決めました」


 別に難しい話をしているわけでは無い。

 もう、サラとリリアは、後が無いと考えていた。

 なので、管理局から離れ、ボーディ達に擁護を求めたのだ。

 管理局から離れるという事は、すなわち管理局に残している自らの本体を諦めるという事。

 本体には魂が残り、現在のサラとリリアは本体から分離された精神体だけが宿っている。

 魂を諦めるという事は、もし現在精神体が宿っている分身体が消滅や活動停止してしまう事があれば完全消滅してしまうと言う事。いや、その逆でも同じことが言える。

 完全消滅とは輪廻転生の輪から外れるという事。

 元々、サラとリリアは輪廻転生の枠外の存在である。

 いや、輪廻転生とは縁遠い存在と言った方が正しいかも知れない。

 彼女等は、輪廻転生システムを管理する側の存在であり、輪廻転生という概念から外れている。

 これは、覚醒し解脱した存在と言うわけでは無い。

 そもそも輪廻の輪には入っていないという意味だ。

 だが、望めば輪廻転生の輪に戻る事は出来る。

 例えば、気が遠くなる様な時間の果て、魂のエネルギーがすり減り、その存在を維持できなくなりそうになった時などは、自ら輪廻転生の輪に戻り、もう一度別の存在としてこの世界に戻って来る事が出来るという事だ。

 ただ、その為には、魂と精神体が一体化しているのが条件だ。

 普通の生命体であれば、それは当たり前の事。

 だが、サラとリリアは、現地活動用のボディ…つまりは分身体に精神体を移し替えている。

 精神体自体は、管理局と通信さえ確立できていれば、何時でも管理局に残して来た本体に戻る事が出来るので、彼女達はこれまでそう気にしてこなかった。

 だが、管理局との通信が途絶してしまった今、精神体が魂の宿る本体に戻れる可能性は限りなく0に近い。

 そして、現在サラとリリアが使用しているボディの寿命は、そう遠くない。

 なので…。


「私達のボディを、貴女方の技術で造りあげて欲しいのです」

 リリアとサラが、そう願ったのも当然かもしれない。

「ふむ。確かに、我が解放魂魄統轄庁の技術力であれば、それは可能じゃ」

 リリアに対し、ボーディが声をあげ、

「実際には、お主等が、あの…恐怖の大王の魂の欠片を宿した…ヒミカじゃったか? の魂と精神体を、トールヴァルドの妹ユリアーネとして再生するために我らに齎した技術や素材など、妾達にはそもそも不要じゃった」

 発する言葉を吟味するかの様に、ゆっくりと言葉を続けた。

「妾達の持つテクノロジーは、輪廻転生管理局の物より数世代先を行っておる」

 だが、これにはリリアもサラも信じられないという顔をした。

「…数世代?」「んな、馬鹿な…」

「信じられぬかや? まあ、驚くのも無理はない。管理局は目の前にその証拠があるにもかかわらず、理解出来てなかった様じゃからのぉ。お主等、妾達をどう見る?」

 ぎろりと睨み付ける様な目で、リリアとサラにそう問いかけるボーディ。

 今まで発言こそしなかったが、黙ってボーディの左右に控え座っていたモフリーナとモフレンダの顔にも表情は無かった。

「どうって…ロリババァ…」 

「あぁ~ん!?」

 サラが暴言(言ってる事は正しい)を吐いた瞬間、ボーディの目が吊り上がった。

「ダンジョンマスター達をどう見るか…? ………………はっ!」

 サラとボーディのアホなやり取りを無視して思考に耽っていたリリアが何かに気付いた。

「お、そっちは気付いた様じゃのぉ」

「!?」

 怒った猫の様に威嚇し合うサラとボーディであったが、リリアが何かに気付いた事を察知し、同時にリリアに視線を向けた。

「はい。ダンジョンマスターのボディは、もしかして…寿命が無いのではないでしょうか?」

 少々自らの考えついた結論に自信なさげにリリアがボーディにそう答えると、

「その通りじゃ」

 ボーディがそう返し、モフレンダがニッコリと笑った。

 モフレンダは、何時の間にやらこっくりこっくりと船をこいでいたが…。

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