第1118話  大きな蟻さん

 えっと、つまりは…どゆこと?

 ボーディ達にも分かる程に管理局側に動きがあったけど、別にこの星をどうこうしようってわけじゃないって事?

 んじゃ、何でボーディ達はこんな時間に慌ててやって来たんだ?

 だって、おかしいだろ。

 緊急事態でも無いのなら、何の連絡も先触れも無しに、いきなりやって来ないよな、普通は?

「ええ…っと、誤解させてしまった様で申し訳ない。この星に危機が迫っているというわけでは分けではないのじゃ」

 んん? それって…。

「んじゃ、どっかの星に危機が迫ってるって言うのか?」

「いや、そういう事でも無いのじゃ。あ奴が動いたのは、全く別の宇宙を創り出そうとして…じゃ」


 ボーディの説明によると、どうやら管理局長は、全く新しい宇宙を創り出そうとしているとか。

 その過程で、俺の元となった…あ、いや…管理局局長も元は俺と一緒の存在だったらしいから、俺達の…って言った方が良いだろうか…その巨大なエネルギーを使おうとしているとか。

 俺と管理局長の元となったらしい、とんでもなくでっかいエネルギー体ってのは、俺の前世の存在した宇宙の元となったビッグバンの切っ掛けでもあったらしいから、そりゃ途轍もないエネルギーだってのは理解できる。

 そのエネルギー体が、幾つもに別れてあちこちの次元や宇宙に飛び散り、どこかの星の誰かに宿ったらしいってのも聞いた。    別れたエネルギー体が宿った誰かの内の1人が俺であり、管理局長である事も、随分前に教えてもらった。

 そして、管理局長が何かを企み、俺が覚醒するのを待っているとも。

 覚醒すると、どうやら管理局ではそれを察知する事が出来るらしく、そうなったら自体が大きく動くかもしれないらしいけど。


「あれ…そういえば俺って、まだ覚醒してないよな?」

「うむ、まだじゃな」

「って事は、局長って俺への興味失った…とか?」

 そうだと良いなぁ。

 もしも俺から局長の興味がそれたら、転生した時から思ってたスローライフを送れるかも、かも!

「それは…わからんのじゃ。あ奴の考えなど、妾にはさっぱりじゃ。じゃから、まだ警戒は必要じゃ」

 そんな俺の淡い思いは、ボーディの無情な一言で崩れ去った。 

「いや、だったら何で新しい宇宙を創るんだ?」

 そこが俺には理解できん。

 俺的には、局長の思った通りに動かない俺に業を煮やして、別の宇宙でこの星みたいなのを創ってる…って考えたんだけど。

「実はですね、どうやら我々が存在するこの宇宙と完全に鏡合わせになる様な宇宙を創り出そうとしておるらしいのです」

 今まで黙っていたモフリーナが話に入って来た。

「それって、呪文を唱えると悪魔が出るとか、過去とか未来とが見えるっていうアレ?」

「それは合わせ鏡ですね。鏡を二枚向かい合わせにすると起こるという…まあ、根拠が曖昧な噂話ですけれど」 

 合わせ鏡とは違うのか。

「この世界と全く左右逆転しているだけの瓜二つの世界を創り出そうとしているのです、管理局は」

 なるほど、だから鏡合わせの世界か…でも、

「何のために?」

「この世界との差異を計測したり観測したりするためでしょう。これはトールヴァルド様の覚醒が関係している可能性がございますが、それもまた確実ではありません」

 ちょーっと待てよ? この世界と完全に左右ギ逆転ている世界って事は、俺もそこに存在してるって事?

「我々が存在するこの宇宙…つまりは、この全次元とは全く別の世界を創り出そうとしております」

 モフリーナさんの説明、分からん…。

「お主に分り易く説明するとじゃな、今ある次元はボールの中の空間じゃと思え。数あるボールの中の1つに、妾達の住むこの星を含む宇宙が存在しておると考えるのじゃ」

 ほうほう、ボーディさんが説明してくれると?

「そのボールは何億個も存在するが、それらは全て大きな箱の中にまとまって入っているとでも考えよ。あ奴は、その全次元が詰まった箱を新しく作り出そうとしておるのじゃ」

 …それはまた壮大なスケールの話だなぁ。

「現在は箱を作っておる最中じゃ。これは我が解放庁で、すでに感知しておる」

「解放魂魄解放庁も存在せず、当然ですが下位組織である輪廻転生管理局すら存在しない、新たな世界の構築ですから、見つかって当然ですね」

 なるほど、ボーディの言わんとしている事も、モフリーナの言わんとしている事も、何となくは理解できる。

「でも、それって俺達に特に何かあるわけじゃないよな?」

 俺がそう言うと、2人は(モフリーナは俯いたままで表情見えません)急に神妙な顔になった。 

「大ありです」「大ありじゃ!」

 大きな蟻さんらしいです…。 

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