第1040話  堪忍袋の緒が切れた

 俺と父さんはチラリと視線を交わし、上手く作戦に2人が嵌った事を確認すると同時に、ほっと胸をなでおろした。


 今回の肝は、サラ&リリアさんをこの場から遠ざけつつも、その動向をどうやって監視するのか…だ。

 それを踏まえて考えるに、最も適しているのは父さん達の調査隊に同行させる事。

 そうすればこの場からは確実に遠ざける事が出来るし、直接父さんが監視できるわけでは無いかも知れないが、護衛の名目で父さんの率いる部隊の誰かしらが側に居る事になるので、間接的に監視できるって寸法だ。

 2人にとっては、管理局…いや、管理局長から俺の監視という任務を受けているはず。

 それがこの様な形で俺から離れる事になってしまったとなれば、さぞや2人は慚愧に堪えないだろう。

 悔しそうに俯く2人を見て、ちょっとざまあみろと俺が思ったのは内緒ね。

 


 さて、今後の予定も一通り話し終えてたので、晩御飯後のお茶会は解散となった。


 俺は自室の巨大なベッドの上で寝ころびながら、天上を睨みつつ考えていた。

 どうしても確認しなければならない、とある問題に関してだ。

 それは勿論、ミヤの事。

 ボーディによるミヤの説明とは大きく違い、どうにも俺の言う事を聞いてくれないんだよな、こいつ。

 しかも、おかしな知識を持っている。

 具体的には俺の前世の知識と瓜二つ…では無く、俺の前世の知識その物…かな?

 さらには、何らかの問題が起き無い限りは、俺に常時にミヤがくっ付いているという、この異様な状態。

 これを断固認めるわけにはいかないのだ…主に嫁ーずが…。


 どうやらミヤは入浴をしない、もしくは嫌っている様だ。

 しかし、俺が入浴中にはミヤが浴室の前に陣取って、誰も近づけさせない。

 それを嫁ーずは、柱の影からハンカチの端を噛みしめながら、器用にも涙を湛えて怒りに震えるていた。

 入浴を終えて寝間着に着替えた俺がベッドに入ると、すぐ横にミヤが滑り込み、何者の接近も許さない鉄壁の防御。

 さすがにベッドでシールドの展開はしていないのだが、嫁ーずが俺の横に来ようとすると、しゃー! っと猫の様に威嚇する。

 これには流石に嫁ーずの、堪忍袋の緒が切れた。

 普段から脳筋なイネスを始め、温厚なミレーラも、冷静沈着なマチルダもだ。


「ミヤ! 今からは夫婦の時間だ! そこをどけ!」

 めっちゃ怒ってるな~イネス。

「そうです! 私達は旦那様の血を残すために、今より公務に励まねばならないのです!」

 マチルダさん、公務って…え、なにそれ?

「ど、どいてください! 今日は、わ…私からなんですー!」

 えっと、ミレーラさん。順番とかあるんですか?

 あ、あるんですか、そうですか~…。

『やだ! マスターが頑張るとエネルギーが減る!』

 ミヤよ、幾ら怒鳴っても彼女達には聞こえないぞ~? ってか、俺の頭の中で怒鳴ると、めっちゃ煩いから黙れ。あと、頑張るとか言うな!


 俺に接近する嫁ーずをミヤが両手を開いて全力で阻止。

 対する嫁ーずは、がるるるるる…と、まさに猛獣のごとし。

 このにらみ合いの場において、俺が下手に口や手を突っ込む事など出来るはずも無く、ただ寝っ転がったままの状態でミヤに関して早急にボーディと話し合わねばと考える事しか出来なかった。


「そこをどけ!」「公務が最優先!」「じゅ、私の順番なのですー!」

『いーやーだー!』

 本当、どうしたらいいんだろうねえ…これ。


 その後、嫁ーず同士、嫁ーずとミヤの間において、どの様な言う話し合い(?)がなされたのかは不明だ。

 だが、何故か俺を挟み、ミヤと嫁ーずが並んで寝る事となったらしい。

 ちなみに、俺はこの状態になって指一本動かしていない。

 いや、それはちょっと言い過ぎか。

 多少は動いてはいるが、出来る限り誰にも触れない様に注意をしていた。

 だって、この状態で誰かに手を出すなんて事は勿論、触ったりしたらどんな騒動が起こるのか想像できないし、怖かったから。

 なので、十分な睡眠などとれるはずもない。

 ミヤはすやすやと眠っているようだが、嫁ーずも全然眠れない様だ。

 これって、もしかして毎夜繰り返し続くんだろうか?

 下手したら、嫁ーずが大爆発するかも…欲求不満で。

 あ、それは俺もか。

 

 はぁ…明日にでも、ボーディと話をしなきゃなぁ…。



※ 妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫ 改訂版

  https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790

  旧作品の設定・文章等を見直して、再投稿始めました

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