第1037話 みんな、ただいま
俺にはさっぱり分からなかったのだが、ミヤが通常飛行モードとやらに移行してからは、優雅な遊覧飛行を満喫できた。
あのまま真っすぐに落下したらと思うとぞっとしたが、当たり前だがそんな事にはならなかった。
ミヤも、ちゃんと着地まで考えてはいた様だ。
遊覧飛行は、俺の邸を中心に大きく弧を描きながら旋回してくれた。
遠くにある海上を飛んだかと思うと、そのまま時計回りに深い森の頭上を飛び、やがて父さんの領地との境にある高い山脈の上も飛んだ。
山脈の向こうにモフリーナの第9番ダンジョンの高い塔も見えたのだが、実はこれは宇宙からも見えてはいた。
あの高い塔の最上階には、ボスである黒竜が居ると思うと、ちょっとびっくりだ。
何たって、塔の天辺は雲の上まで伸びている。
あそこって、空気薄いんじゃね? 何度か俺も行った事あるけど、塔の中って気圧とか調整されてたんだろうか?
とっても不思議だ。
まあ、不思議と言えば、このミヤの能力も不思議だらけだ。
宇宙にまでほとんどGを感じさせないで一瞬で飛んで行った方法なんて、全然俺には理解できない。
シールドを張った状態から、あの巨大なマスケット銃を撃つ事が出来るって事にも驚きだ。
物理攻撃とかを防ぐ事が出来るシールドの中から攻撃できるって、そりゃ反則じゃね?
よく異世界物の小説なんかで、そんな物理とか魔法の結界ってのが出てくるのを見た事ある。
主人公とかが結界の中から敵を攻撃とかしてるのを見た事もあるけど、そりゃ反則だろう…って思ってた。
でも、実際に俺にも(ミヤにも)出来ちゃったってのは驚きで、これでいよいよ俺も理不尽なチート野郎になったんだと感じる。
…一万二千年後…。
もう人類は…何て事があるはずも無く。
時間的には、実は数十分経ったかどうかって程度で、そう長く家族の元を離れてたわけではない。
遊覧飛行の旋回する弧がゆっくり小さくなってくると、我が邸もはっきりと視認できる様になってきた。
キラキラと陽の光を反射する美しいネス湖と温泉街、そしてネス湖に飛び出た陸地に立つ俺の邸。
そして邸の裏で空を見上げる、我が家族達。
ほんの少しだけ宇宙に行ってただけなのだが、なんだか懐かしくさえ感じる。
ミヤによると、すでにシールドは張っておらず、飛行能力もパワーを絞っているらしいのだが、俺には全然そんな事分からない。
いや、理解できないって言った方が正しいかな?
もう、ミヤが何をしてもそんなもんだと、俺の皺の少ない脳ミソは受け入れてしまっている様だ。
やがて、この優雅な空中散歩も終わりが近づいて来た。
高度も下がり、家族の表情までもがはっきりと見えるようになったことで、終わりの時が近づいたのだと気づいた。
『着陸態勢に移る』
頭の中でミヤの声がそう伝えてくると、今までほぼ真横を向いていた身体が、ミヤによって頭が上で足が下…つまりは地面に対して直角にと体勢を変えられた。
どっちにせよ俺が空の上で何もする事も出来ないので、ナスがママでママならキュウリがパパ状態だ。
あれ? 何か違う気がする…けど、まぁ、いっか。
そのままの態勢で屋敷の裏庭に降下を続けていくので、何となく両手を真っすぐに上げてみた。
もちろん、特に深い意味は無い。
子供のころに見た、赤銀の巨人の着陸姿勢ってこんな感じだったっけ…などと考えたりはしていない…よ?
ミヤによる降下速度の調整は完璧で、俺に減速Gすら感じさせない。
そして、そのまま並んで俺を出迎えている(?)家族の目の前に、俺は小さな砂埃を立てただけで、ゆっくりと着地した。
俺の両足の裏が、しっかりと大地を感じた瞬間、ミヤが飛行能力をカットした…らしい。
完全に予想外の出来事だ。
いきなり俺の体重(+ミヤの体重)が両ひざに圧し掛かり、思わずずっこけて倒れてしまった。
漫画みたいに、ミヤをおんぶして万歳したたまま、顔からベチャッと地面へと。
「だ、大丈夫ですか!?」
俺が倒れたと同時に、メリルがが駆け寄ってきた。
「どこかに負担が…?」
あ、いや…マチルダさん…違うんです…。
「お兄さま! 誰かに攻撃されたんですか!?」
コルネちゃん…それも違うんです…。
「まさか…ミヤに生命エネルギーを…吸われて…」
ミレーラも落ち着いて。
俺を心配して駆け寄る家族にむかって、「ちょっとドジっちゃっただけだから」と説明しながら起き上がった。
そして、そんな家族に向けて、こう言った。
「みんな、ただいま」
うん…、すっごく締まらん帰宅になったな…。
※ 妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫ 改訂版
https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790
旧作品の設定・文章等を見直して、再投稿始めました
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