第1034話 秒速7km
空へ舞い上がった時は、あっと言う間の事で、周囲を見る余裕も無かった。
いや、気付いたらもう宇宙って感じだったってのが、本当のところかもしれない。
帰りはゆっくりと大気圏突入なので、しっかりと風景を楽しもうでは無いか!
な~んて、ミヤが帰ろうって言ってた時は思ってましたよ。
でもね、最初は背中から落下…つまりは宇宙を見ながら落ちてゆく風景を、これがバリュートによる大気圏突入か…とか、昔見たアニメの1シーンを体験できた事に感激したりしたけど、気付くと俺の周囲が赤く染まっていたんだ。
つまり、俺の背中側の空気が断熱圧縮という現象が起きているって事だ。
ナニそれ? って考える人も多いだろ?
多くの人が大気圏突入する時、物体が高温になるってのは聞いた事があると思う。
大気との摩擦熱で高温になる! とか書いてある小説も見た事があるけど、厳密に言えばそれは間違い。
正解は、先に述べた通り、俺(シールドで囲まれてるけど)による大気の断熱圧縮による発熱によるもの。
俺が大気圏突入するって事は、要は大気を俺が押し退けて地球に落ちるって事だ。
突入速度がゆっくりであれば、俺の身体が大気を押し退けるのも地上と変わらないで、ただ俺の周りの空気が移動するだけだ。
だが、速度が上がれば、身体の移動速度に空気の移動速度が間に合わなくなる。
つまり、戦闘機の様な飛行機が速度を上げれば上げるほど、空気が移動する速度が間に合わなくなるんだ。
音速を超える時のドーン! っていう衝撃波も、結局はこの大気を切り裂く速度よりも戦闘機の速度が速くなるために起きる現象なんだ。
んで、この時…要は空気を押し退ける速度を超えるとどうなるか?
戦闘機だったら、その機首の前にある空気を圧縮してしまう。
圧縮された空気はどうなるでしょう? 答えは加熱される…だ。
詳しく説明するのは省くが、この原理を応用したものがディーゼルエンジンだな。
んじゃ、大気圏突入速度を遅くすれば加熱しないのかって事だけど、答えはYESなのだが、実はそれは超難しい。
地球の重力の軛から逃げる事は出来ないのだ。
って事は、大気に落下している物体が重力を制御して速度を落とさなくてはいけないって事になるんだが、そんな技術は無い。
かのスペースシャトルだって、空気抵抗を最大限利用して突入速度を落としているのだ。
惑星の重力を制御出来るんだったら、もっと簡単に宇宙旅行とか出来るはずだ。
まあ、軌道エレベーターなんて夢の設備が出来たら、こんな事を考えないでも宇宙に行けるんだろうけど。
さてさて、現在の俺の大気圏突入速度は、秒速7km程だとミヤが教えてくれた。
1秒間に7kmも落下って、無茶苦茶じゃないか。
俺の背中側のシールドが大気を圧縮した結果、1700~2000度近くまで加熱しているという。
んで、加熱された空気が真っ赤になって流れて行く…大地から見たら、俺は流れ星と一緒で、むっちゃ光ってる事だろう。
そんな光景を見せられて、落ち着いていられるわけが無い!
「お、おい、ミヤ!」
『何? 今、ちょっと忙しい』
ああ、うんそうですか…じゃなくて!
「本当に大丈夫なのか?」
『大丈夫って何が?』
えっと、ちゃんと言わなきゃ分からないかな。
「この速度で突入して平気なのか? ほら、背中側のシールドとかの熱の影響は…」
『3500度までは問題ない。それ以上にならない様に、速度調整する』
どうやって調整するのか知らないけど、大気圏脱出時の速度を考えたら、もしかして重力を制御とか出来るのかな?
『もう少し大気が濃くなったら、シールドを直径5mぐらいまで平らに広げる。これで空気抵抗が増えて減速出来る』
…別に重力の制御ができるわけでは無いようです。
確かに減速すれば、これ以上加熱しないだろうけど…なんだかなぁ…。
『マスターは、ただ黙って私をおんぶしてればいい』
今の状態は、ミヤをおんぶして背中側から惑星にとんでもない速度で落下しているという状態だ。
だけど、俺達を客観的に見たら、きっともの凄く緊張感の無い絵面だと思うな。
何だろうなぁ…俺のドキドキ感とか、一切考慮されてないこの異様な状況って…。
『もう少しで減速開始…3…2…1…今…』
その合図で、いきなりドンッ! と衝撃が来た。
そして、急速に落下速度が下がったのがはっきりと分かった。
『もう、前を向いてもいい』
ミヤがそう俺の頭に語り掛けたのと同時に、俺の体勢が180°引っくり返って、スカイダイビング(ただしタンデム)みたいな格好になった。
そして俺の目の前に広がった迫りくる雄大な光景は、とてもとても美しかったとだけ、記しておこう。
※ 妖精女王の騎士 ヴィー ≪Knight of the Fairy Queen、Vee ≫ 改訂版
https://kakuyomu.jp/works/16817330657187983790
旧作品の設定・文章等を見直して、再投稿始めました
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