第973話  禅?

「ですから、ひよこ達はトールヴァルド様のエネルギーの残滓を強く感じさせるナディア様達を、確実な死が待つ世界へと送るのを躊躇い、中半端な海へと放り出したのでしょう。完全な敵と認識されなかっただけ良かったかと」

 なるほどね…俺が死んでると思ってたなら、そういう風に考えてしまうか。

「それほどにトールヴァルド様の情報は、管理局では最重要情報として秘匿されている様です。いずれ全宇宙にその存在がばれる時が来るとすると、それはトールヴァルド様が悟りを開き解脱した時ではないでしょうか」

 真面目な表情を崩さないモフリーナがそう告げてきたが、その中に忘れてはいけない一言が混じっていた。

「あ、解脱! モークシャマールガ!」

 そうだ、思い出した! いや、忘れてたわけじゃないけど、ダンジョンマスター達に考えないようにしろって言われたから…。

 いえ、嘘です。

 最近のドタバタで完全に忘れてました。

「そうです、よく覚えておいでで」

 微妙にモフリーナの視線がきつくなった気がする…。

「モフリーナ、こ奴は完全に忘れておったぞ」

 いらん事を言うな、ボーディ!

「まぁ、そこは忘れていても構いません。ですが、貴方がひよこ達と直接顔を合わすためには、まずは完全な解脱を成し遂げる必要があります」

「完全な…って、どういう意味?」

「お主にも分かる様に説明するとだな、ひよことの会談の為には、まずは悟りを開けという意味じゃ」

「ええ。悟りを開き、輪廻転生システムの輪から外れる事が最優先課題です」

 ボーディとモフリーナの2人掛かりでの説明を受けるも、いまいちチンプンカンプンなんですが。

「えっとさ…悟りを開くって、お釈迦様の事だろ?」

 他は…えっと、ジャイナ教のマハーヴィーラだっけ? あとは…キリスト様とかだっけ?

「ふむ…流石にそれは知っているか。じゃがの、妾達は何も釈迦と同じ方法でお主に悟りを開けとは言っておらぬ」

「ふぇ?」 

「では、お主に質問じゃ。釈迦はどのような方法で悟りを開いた?」

「菩提樹の下で坐禅を組んで瞑想をして、雑念を取り除き無我の境地に…じゃ無かった?」

 いくらマニアックな男だとはいえ、これ以上は詳しくは知らんぞ?

「そうじゃな。無論、その時にどの様な事を考えながら瞑想したかなどはこの際置いておくが、その方法を妾達は【静禅】と呼んでおる。つまりは静かな禅じゃ」

 静かな? 

「んじゃ、五月蠅い禅とかあるのか?」

「その方法も存在します。貴方が推し進めている政策ですか? 人魚達の肉欲の狂乱も、また悟りへと続く道の1つです」

 マジですか、モフリーナさん! 

 つうー事は、まさか人魚さん達が悟りを開いたりは…?

「しかし残念なことに、人魚達やそのお相手となる者達の中から悟りの境地に至った者はおりません。中途半端に肉欲におぼれていただけですから、これは仕方ありません」

 あ、そですか。

 あれで中途半端なんですか…そうですか…。

「まあ、モフリーナが言っておるのは、魔宴とかサバトと言われている物じゃな。お主の記憶にもあったぞ…確か、漫画版でサバトに参加しておった不動〇が、デーモンに憑依されてデビ〇マンとなった…ではなかったかや?」

「何でそんなマニアックな事知ってんだよ!」

 漫画版なんて誰も知らんぞ! 

 アニメ版だとちょっと違うんだよな…て、マニアックすぎるわ!

 俺の記憶の奥底なんて覗くなよ!

「そうではなく、【動禅】という方法がありますが、ご存知では無いですか?」

 そんな事ぐらい知ってますよ、モフリーナさん。

「どうせい…って、結婚前の男と女が一緒に住むっていう? それなら、メリルとかミルシェとか…いや、嫁ーず全員と…」

「ちゃうわい! それは同棲じゃ!」

「同じ性別…」

「それは同性じゃ!」

「名字が一緒…「それは同姓じゃ!」…最後まで言わせろよ…」

 全く、日との話を遮るんじゃないよ、ボーディ君。

 俺にどうせいっちゅーの!

「良いか、よく聞け! 静禅とは、その文字通り動かず静かに瞑想して無我の境地に至る禅じゃ。動禅とは、動く事によって無我の境地に至る禅の事を指すのじゃ!」

 動いてて無我の境地に?

「そんな事って出来るの?」

 動いてたら、色んなことを考えないだろうか?

 到底、無我の郷里に到るとは思えないんだが。

「出来る。いや、すでにお主はその方法を知っておるし、実行しておるし、それを体で感じておるはずじゃ」

 う~~~~ん…そんなの実行してたっけ?

「ああ、間違いなくお主は知っておる」

 またまた、ニヤリと悪人面で笑うボーディ。

 幼女のそんな顔見たって、怖くもなんともないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る