第966話  話せるの?

 一体全体、どういうこっちゃ?

 俺自身がひよこって、俺は人だけど? 

 一応…多分…人だと思うんですが…?

「ああ、少しいい方が悪かった様じゃの。お主がひよこという分けでは無い」

 おお、そうなのか…ほっとしたよ。

 ボーディも、もう少し言葉には気を付けて欲しいもんだ、まったく。

「ひよこがお主なのじゃ」

「はぁ~~~!? さっきと、どう違うってんだよ!」 

 何も変わってねーじゃん! 

 俺は尻に殻のついたひよっこだって言う比喩なのか? 

 まさか、卵の殻を頭に被った黒いひよこに似てるとか言わないよな?

「少し落ち着け。お主の記憶には欠落が有ると話したじゃろ?」

「それと俺がひよこなのと、どう繋がるってんだよ!」

「じゃから落ち着くのじゃ。はぁ…もフレンダよ、こ奴に茶でも出してやってくれんか?」

 はぁ…とため息一つ、ボーディがモフレンダにお茶を頼んだ。

 いや、茶など飲まなくても、俺は落ち着いてるとも! ああ、冷静だとも!

 だから、早くなんでそうなるのか言え!


「まあ、取り合えず茶でも飲め。お主、冷静じゃないぞ?」

 モフレンダがどっから出したのか、すぐさま俺の目の前にお茶を出してくれた…って、デカッ!

 ビールのジョッキかよ! 普通、こんな量の茶を出すか? 

 ってか、ボーディとモフリーナと自分の分は、普通のカップ?

 もしかして、いやがらせなのか? こんなに飲んだら、腹がタプタプになるわ!

「…モフレンダよ、そんな茶器しかなかったのか?」 

 あ、流石にボーディも俺のジョッキを見て、ちょっとあきれ顔になってる。

「…面倒…」

 面倒って、どうゆ事? 1リットルぐらいのお茶を点てる方が大変じゃね?

 俺がそう考えてると、モフレンダさん…ニヤリと笑った…確かに、間違いなく!

「お、おま…今、笑ったな! 俺が困ってるの見て笑ったよな! これ絶対に嫌がらせだろ!」

 モフレンダに詰め寄るが、

「…怖い顔…被害妄想…乙…」

 モフレンダは、ささっとモフリーナの背に隠れた。 

 ぐがががぎぎぎぎぎぎぎ! 

 ちくそう! 絶対にわざとだ。

 だが、そんな嫌がらせに負けてなるものか!

 まだす少しばかり熱いお茶を、一気に半分ほど飲み干してやった。

 それを見ていたモフレンダが、驚いた顔で俺を見て呟く。

「…なかなかやりおる…」

 ふっ…勝った。

 でも、ちょっとお腹がタプッてなってるから、残りは飲むのを止めよう。


「どうじゃ、ちょっとは落ち着いたか?」

 俺を観察していたボーディが、上品にカップを持ち上げながらそう言った。

「ん? ああ、まあな」

 なんだか、モフレンダの悪戯で、ちょっと気が削がれたって言うのか、落ち着いたって言うのか。

「…作戦通り…」

 いや、モフレンダよ、絶対にそれは違うだろう!

「ふんっ、まあそれはどうでも良いわ。落ち着いたところで、先の話の続きじゃ」

 おっと、そうだった。

「お主は、輪廻転生システムのバグの所為で、この世界へと転生してきのったな?」

「ああ、そう聞いている」

 確かにそう聞いた…誰に聞いたんだったっけ?

「うむ。そして前世の記憶に欠落が有る。これも間違いないな?」

「ああ、さっき言われるまで気が付かなかったけど、冷静に自分を分析したらその通りだと思う」

 何度思い出そうとしても、やはり前世での両親や妻に子供達の名前が出てこない。

 何故か友人(ごく一部)の名前だとかネタになりそうな事だけは、しっかりと覚えているのに。

「で、あろうな。実はその情報はな、もふりんとカジマギーが接触した例のひよこからの物なのじゃ」

 へっ? ひよこ…話せるの?

「あの場におったひよこ達は、合計で9体じゃった」

「そんなに居たのか」

 せいぜい、2~3匹かと思って…匹じゃなくて体?

「正確には、この世界に同時に存在できるのが10体が限界と言う事なのじゃ」

 …んじゃ、残りの1匹? 1体? は、どこ行ったんだ?

「じゃから、それがお主なのじゃ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 どどどどどどど、どゆ事!?

「先程から言うておるが、お主は本質的に、あのひよこ達と同じなのじゃ。じゃから、9体しかこの世界に入って来ることできなかったのじゃ」

「はぁ…んで、そのラストの1匹が…俺?」

 え~っと…。

「そうじゃ。…何か疑問でもあるのかや?」

「疑問だらけだわ! そもそも。なんで俺がひよこと一緒なんだよ!」

 おかしいだろうが! この世紀のハンサム男、トール君のどこをどう見たらひよこなんだよって事だ!

「おお、なるほど!」

 どっかの漫画みたいに、手をポンッと打ち鳴らしたボーディは、俺に向かって、

「ひよこの姿は、敵を欺く為の物の被り物らしいぞ。彼奴らの中身は、お主と全く変わらぬ人族じゃ」

 …着ぐるみでこの世界に来たのかよ、そいつら…。

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