第954話  (閑話)ルーツ

 俺達の住むこの大陸は、ほぼ円形であり、大陸の周囲は海に囲まれている。

 大陸の周囲の海岸は、そのほとんどが切り立った崖となっている。

 まるで、どっかの曜日のサスペンスドラマで誰かが自殺したり、刑事が犯人が追い詰めるような感じの崖がほとんどであり、大陸に上陸できる場所はとても少ない。

 日本だと断崖絶壁スポットとかで、人気の観光地になりそうだ。

 あと、島…とは呼べないが、大陸の周囲には岩礁の様な物は多少なりともある。

 砂浜などがある海岸の沖合にそういった岩礁地帯があるらしく、一見すると上陸するのに良さそうなポイントに見えるのだが、岩礁の影には無数の暗礁が隠れているため、そうそう船などで接岸する事は困難である。

 とは言え、そういった砂浜や湾を持つ国では、その岩礁や暗礁に住む魚を狙う漁が盛んらしい。

 小型の漁船であれば、暗礁や岩礁のせいで複雑になっている海流の中でも、何とか漁が出来るそうだ。

 まあ、操船する者の技量と海中の状態を良く知る者がセットになって、初めて海流を乗り越えれるわけなのだが…。

 そんなわけで、この大陸では海上で波を切って走る様な大型帆船は無い。

 海上交通が発達しなかったので、この世界の人々は陸上輸送に頼らざるを得ない。

 この大陸のどっかで誰かが巨大船を造ろうと考える事があるかもしないが、そもそも寄港できない。

 寄港できないのであれば大型船の建造は意味がない。

 まあ、それは実際に海に出なければ分からない事だし、新大陸を求めて大海原に挑戦する国が出たっておかしくない。

 俺の創ったパンゲア達陸は、完全にこの星の真裏にあるんだから、そこまで長い航海に耐える事が出来るだけの物資…つまり、水や食料を積み込むか、途中で補給するための島でもあれば…だが。

 大海原の大冒険といっても、補給が出来ないのであれば、間違いなく挫折する。

 それだけならいいが、下手をすると多くの犠牲者を出す事となるだろう。

 

 んで、俺が長々と何でこんなどうでも良い話を長々しているのかというと、それはこの大陸が実は絶海の孤島と変わりないという事を、知ってもらいだけなのである。

 孤島という言い方は、若干語弊がある気がしないでもないが、この大陸以外に陸地が無いのであれば、言葉としては間違ってないと思う。

 パンゲア大陸はこの大陸で認識されてないから、まあ感覚的には間違ってない?

 でも孤島っていう概念は、そもそも他の大陸や島から遠く離れて孤立している島って意味だから、この大陸という事を考慮すると孤島じゃないかな?

 オーストラリア大陸の3倍程も広い面積を持つ大陸なんだから、島って表現は変かもしれないから…孤立大陸? って感じかな?


 実際問題として、この大陸に住む人々にとって、自分が住んでいるこの陸地が(秘密にしているパンゲア大陸を除き)この星唯一の大陸であるとか気したりすることはまず無いだろう。 

 前世で、日本という国に住んでた時だって、他の大陸の存在とかあんま気にした事が無かった。

 まあ、ネットやTVとかで他国の情報とかはバンバン入っては来るけれど、もしも平安時代とかの人々だったら、きっと遥か海の先の大陸や国なんて、大して気にしなかっただろうし、それよりも自分の生活圏の事ばっかり考えてたに違いない。

 俺は前世で関西地方に住んでいたが、普段の生活では関東地方の事なんてあんまり気にしてなかったしな。

 東京で雪が降ったってニュースで見たって、『へ~、寒いんだなあ~』ぐらいしか感想無かったし、沖縄で桜の開花が…とか聞いても、『沖縄って暖かいんだ~』程度の認識。

 ま、一般ぴーぽーだと、その程度だろう。


 だが、この大海原に挑戦する勇者が居たのだ。

 それが人魚さん達から、多くの話を聞いた某国のアホな偉いさん。

 

 人魚さんは、何度もこのアホな国の偉いさんに話したものだ。

 この大陸の周囲には、船なんかで辿り着ける位置に島も大陸も無い…と。

 だが、夢を見てしまったんだろうなあ、その人は。

 彼は国に戻ると、必死に王様に頼みこみ、大型船を建造する許可と援助を受ける事に成功した。

 え、国に戻るってどういう事かって? そりゃ…人魚さんに拉致…えっと…つまり何だ…人魚さん達の子孫繁栄の為に力を貸したのち、数年後に解放…国に送り届けてもらったって事です、うん。

 無事に海から生還した彼に国王様はとても喜んだのだが、海から数年も戻れなかった事には、少々不安はあったそうだが。

 行方不明であった数年間の出来事を彼が話さなかった事も、王様が不安になる原因ではあったのだが。


 とにかく、彼は夢中で大型船の建造にのめり込み、何度も失敗を繰り返し、試行錯誤の末に、とうとうそれを完成させた。

 その船の名は、タイダー・ニック号と名付けられた。

 初代船長は、この大型船の建造に深くかかわり、大海原の遥か先を夢見た彼…つまり、エドワース・ラ・スミーズが任命され、とある日の午後、多くの人々に見送られて大海原へと旅立った。

 そしてその後、船は一切の消息を絶った。

巨額の建造費をかけた船も2百人にもなる乗務員も積み込んだ物資も、二度と国には帰らなかった。

 国王は激しい後悔に苛まれた…航海の失敗だけに…。

 そして、その座を息子に譲り、隠居したそうだ。

 息子は、海を睨み付けながら、二度とこの大海原に挑戦などしないと、民に誓ったという。

 それが数百年前の事だったそうだ。


 さて、そんな行方不明となった大型船なのだが…実は乗務員は全員生きていた。

 彼等にしては大型船ではあったのだが、実は人族にとってはせいぜい中型船といったところだろう。

 大海原で海流にもまれ、長く海を漂流していたタイダーニック号は、上陸して物資の補給ができそうな砂浜を発見したので、接近しようとして暗礁に乗り上げて座礁し、浸水してしまい沈没したらしい。

 しかし、沈没前に多数の小型艇を海に降ろし、全員が乗り込む事で難を逃れた彼等は、必死にオールを動かして奇跡的に1人の脱落者なく砂浜へとたどり着いた。

 たどり着いた先が、まさか旅立った同じ大陸のとある地方であった事など知らず。

 そして、彼等はその砂浜近くで村を築き、長い長い時を過ごした。


「それで、ドワーフさん達はあの砂浜の近くに住んでるの?」

「そうだてし。苦労したんだて!」

 うん、我が家でちょこまかとよく働くドワーフメイド衆の1人が教えてくれた。

 勿論、今のドワーフさん達は、過去に大海原に旅立った大型船が、この大陸のとある国から出発した事も知っている。

 まあ、俺の家に居るんだから色んな情報入るからね…パンゲア大陸の事とか、この星の事とか…ね。

 そっかぁ、ドワーフ族の国って、元々はこの大陸のどっか遠くに存在したのかあ。

「祖国に戻りたいとか思わなかったの?」

「いっそ考えだごどねぇだ!」

 考えた事も無いって事かな? 

 ドワーフさん曰く、風の噂でドワーフの国は滅んだと聞いたとか。

 確かにナディア達が作成した大陸の地図にも、ドワーフの国なんてどこにもなかったけど…祖国が滅んだって、寂しくないの?

「今の生活も悪ぐねぇだに!」

 ニカッと笑うドワーフさんは、とてとてと厨房へと小走りで駆けて行った。

 

 俺の領地にある保護地区のドワーフ族の、意外なルーツを知った1日であった。

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