第925話  新ホテル?

 父さんとの通信を終えた俺は、執務室で書類を手に働く人魚さん達を横目に、お茶を嫁ーずとお茶を啜っていた。


 ちょっと…いや半分…完全に? 騙す形になったが、人魚さん達のいけに…では無く、見合い相手は確保出来た。

 あとは、その瞬間まで気付かれて逃げられない様に、細心の注意を払わねば。

 折角確保した人員を逃がしてなるものか!

 ってな分けで、例の滝を臨む『ホテル・ニュー大滝』とは別のホテル建築に着手する事にした。

 基本的に『ホテル・ニュー大滝』は、ユズカ&嫁ーず・プロデュースのブライダルプランの宿泊施設として好評だ。

 連日の稼働率は約75%と、なかなかである。

 だが、ここで人魚さん達の狂…恐…凶…饗宴を開催するわけには行かない。

 そんな事をすると、新婚さん達がひく事間違いなしだ。

 いや、もしかしたら、余波にあてられて子作りに頑張るかもしれないが…でも、口コミでおかしな話が流れては困る。

 利益率も悪くないホテルなので、今後もこのホテル事業は大事に育てていきたい。

 それに、怒らせた嫁ーずとユズカは怖いからな…うん、やっぱ別のホテルを造ろう。


 さて、そうするとホテル建設には何処がいいだろうか?

「トール様。今後も同様のパーティを開催するのであれば、いっそうの事海辺に造っては如何でしょうか?」

 考え込む俺にそうアドバイスしたのは、我が家の金庫番でもあるマチルダ。

「海? だけど、そんな所に建設すると、パーティー後に他の用途に転用できなくなるぞ?」

 ホテル・ニュー大滝は、見事にブライダルプランに組み込まれて、平和的に転用できた。

 だけど、エルフさんにドワーフさん達が暮らす保護地区の向こうにある海辺にホテルを造った所で…事後に何に使う?

「別に、立派な物は要らないのではないでしょうか? それに海辺に造れば、参加者は逃げ出せませんし」

 ニヤリと悪い顔で笑うマチルダ。こいつ、参加者を絶対に逃がさない気だな?

「そもそも、今後も御義父様の協力で王都で参加者を募るのであれば、連れてくるためにはホワイト・オルター号が必要です。ならば、そのまま海辺まで連れて行ってしまえばよろしいでしょう」

 な、なるほど…確かに理にかなっている。

「そして海辺に造る宿泊施設は、ソレ専用にしてしまえばいいのです。管理は人魚さんに任せて」

「管理を任せて大丈夫か?」

「大丈夫でしょう。何せ彼女達にとって、絶対に必要な施設です。今後の事も考えれば、しっかりと手入れをしてくれるかと」

 そりゃ、幾ら繁殖に力を入れてる人魚さん達だって、不衛生なボロボロの部屋ではしたくないわなあ。 

 きっと、何時でもパーティ出来る様に、ピッカピカにしてくれる…気がする…。

「よし、それ採用! 参加者の人数を考えると…150室は必要か?」

「何も、巨大な施設にする必要は無いでしょう。小さな建物を多数並べても良いかと」

 …小さな建物…ちょっと待てよ、確か前世でそんなの見た記憶が…。

 そうだ、TVで観たどっかのリゾート地で、海沿いにずらっと並んだ水上ヴィラ? 水上コテージ? のホテルがあった!

 あれなら、建築はそう難しくないかな? いや、150軒も並べるのって、どうなん?

 でも、海に突き出た形にしてたら、人魚さん達は管理がしやすいだろうし。

 確か、ドワーフさんの村の先の砂浜の西の方、ホテル・ニュー大滝の前の川が流れ込んでいる湾の向こうに、海に突き出た岬があったな。

 あの岬の更に向こうは、険しい崖だけで何も無かった。

 TVで観たヴィラは作れないか…ん、待てよ? 険しい崖? って事は、そこそこ頑丈な岩盤なはずだよな?

 だったら、あれだ! 古代の地下都市だ! あ、いやそうすると中は真っ暗になりそうだな…。

 となると、小さい頃に親に連れて行ってもらった、古墳時代の墳墓である吉見百穴(埼玉県比企郡)だ!

 あれのイメージで、崖に部屋をいっぱい掘りまくって作れば簡単じゃないか!


 崖に面して海側に大きな窓がある部屋。

 朝は大海原から昇る太陽を、夕方には沈む太陽を、そして夜には視界いっぱいに広がる満天の星空。

 ロマンティック100%じゃないだろうか?

 各部屋に通ずる通路は、それこそ謎の地下都市風に崖を掘って行けばいいだけの事。

 これって、楽勝じゃね? いや、工事は精霊建設さんにお願いするんだけど…。 

 元々、父さんの領地や神国での移住者用に地下都市は何度か造った事がある。

 エレベーターとかエスカレーターは造れない…事も無い。

 仕様を考えれば、ユズカとユズキが張り切って呪法具で造りそうだけど、こんかいはそれは無し。

 3階建てというか3階穴というか、とにかく海面から十分に高さをとった所を1階とし、そこから上にあと2階。

 水はあの川からはひくのは無理だろうから、地下水でも探すとするか。

 排泄やゴミ系も、過去に造った地下都市と同様に地下深くに落したらいい。

 あ、こりゃいけるな!


「って事で、砂浜の向こうにある岬の崖に宿泊施設を造ります!」

 急に立ち上がって宣言した俺に、執務室の中にいた嫁ーずだけでなく、人魚さん達もびっくり顔。

「プランは出来た! あとは簡単なイメージを図を作成してっと…」

 手近にあった紙に一心不乱にペンを走らせる俺を、じ~~~っと見つめる、嫁ーずと人魚さん達であった。

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