第917話  超高値で買います!

 ナディア達からの簡単な聞き取り調査を終えた俺達は、自宅のあるネス湖の畔へと戻る事にした。

 もちろん、ナディアも天鬼族3人娘も一緒だ。

 何故か父さんの邸の巨乳メイドさん達が残念そうな顔をしていたが、もしかして普段は4人だけだから寂しいとか?

 俺を狙っているとは考えないでおこう…嫁ーずが怖い。

 それに、もしも本当に狙われてたりしたら困るから…表向きは…ね。

 

 さて、何度も行き来している父さんの邸から俺の邸までは、本当にあっという間の空の旅。

 感覚的に、上昇したら下降するだけで到着しちゃう。

 昔、大阪から飛行機で名古屋まで行った事あるけど、あれもこんな感じだった。

 何て言ったらいいのか、何かが物足りないって思ってしまう。

 遊びで飛んでるわけじゃないんだから、これで特に問題はないんだけど、何だかもどかしくなってしまうね。

 今度、王都に行くときは、わざと遠回りして空の旅を愉しみたいところだ。


 自宅に戻った俺達を出迎えたのは、母さんとユズカを除いた全員だ。

 特にコルネちゃんは、長年付き合いのあるナディア達の無事な姿に涙を流していた。

 ユリアちゃんも、無邪気に喜んでいたのだが、じつはコルネちゃんはナディア達がとても危険な状態だったという事は知らない。

 いや、何かの事件にあって、危険だという事は知っているのだが、救助したあと命の危険があったって事は、教えてない。

 まだ幼い彼女に、変なトラウマとか持ってもらいたくないからね。

 帰宅したら真っ先に挨拶に向かわねばならないのは、もちろん我が家のゴッドマザー、母さんだ。

 ナディア達も、全員揃って母さんに無事の帰還の報告をした。

 そもそも、母さんの指示で調査に向かったのだから、母さんだってかなり責任を感じていた。

 侯爵家の夫人として考えると、もしかしたら駄目な事なのかもしれない。

 貴族家のトップ(夫人だけど…)が、家人に特別な感情なんて抱いちゃ駄目なのかもしれない。

 だけど、俺はナディア達の無事な姿を見て、涙をにじませる母さんを好ましく思う。

 母さんの横で、ユズカも大きくなったお腹を撫ぜながら、無事に帰還した妖精達と微笑みながら談笑している。

 当然だが、その隣にはユズキの姿があり、談笑しているユズカ達の姿を優し気な目で見ていた。

 何だか、母さんの部屋の温度が何度か上がった様な、とても暖かい空気に包まれた、そんな時間だった。


 さて、そんな暖かな時間も過ぎ、ナディア達による王国の山向こうの調査報告を受ける母さん。

 一通りの聞き取りが終わると、徐に俺に向かって、少しきつい口調で、

「それで、トールちゃん。彼女達の報告を受けて、貴方はどう動いたのかしら?」

 そう訊ねて来た。

 ま、俺がどんな対策や対応をしたのかを確認するのは、当たり前の事だな。

「もちろん、ナディア達の話を聞くまでもなく、手は打ったよ」

 それを聞いた母さんは、ゆっくりと大きく頷き、俺に話の続きを促す。

「打った対応というのは…」

 モフリーナ達による、問題の地のダンジョン領域化を利用した調査をすでに始めている事。

 そして、その結果が分かり次第、俺に報告が来る事。

 更に、報告を受けたうえで、俺が直接この目で確認しに行く事を母さんに告げると、

「すでにそこまで手を打って考えているとは、流石ねトールちゃん」

 先ほどりもさらに深く大きく頷き、確認するまでもなく、機嫌が上向いた。

「さて、トールちゃんだけでなく、コルネちゃん、ユリアちゃん、そしてトールちゃん夫人連合」

 母さん、そのトールちゃん夫人連合って何?

 いや、ツッコまないぞ…何か、藪蛇になりそうだし…。

「今回、ナディア、アーデ、アーム、アーフェンの4人が何者かに危害を加えられたと、私は見ています」

 何故か母さんの話が始まると、全員の背筋がピンッと伸びて、直立不動になる。 

「彼女達は、我がアルテアン侯爵家、伯爵家の家人です」

 いや、侯爵家の家人では…いや、ナディアはコルネちゃんのお付きとして生み出したから、間違ってないのか?

「その家人が傷つけられた。つまりは、何者かは、アルテアン家に喧嘩を売っているという事です」

 何故か、嫁ーずの鼻息が荒くなった気がする。

「アルテアン家は、売られた喧嘩は、超高値で買います!」

 そんなの聞いた事無いんだけど…。

「後程、王都のヴァルナルにも連絡しますが、あの人にも準備させます」

 え、父さんに何させる気?

「良いですか? 我が家に弓引く愚かな者達に、アルテアン家の恐ろしさを存分に見せつけてやりなさい! すべての責任は、トールちゃんが取ります。思う存分に暴れてやりなさい!

『Yes, ma'am!』

 全員が口を揃えて、母さんの言葉に答えたよ!

 ってか、責任は俺なのか!?

「この、悲しみも怒りも忘れてはなりません! 我がアルテアン家の家人を守るために、毅然と敢然と立ち向かうのです!」

『Way to go!』

 ………。

「我々の仲間のため、我々の生命、権利、財産を守るため、我々アルテアン家の総力を挙げる時が来たのだ!」

 母さん、ノリノリだな…。

『 Oorah!』

 ってか、嫁ーずもコルネちゃんもユリアちゃんも、どこでそんな言葉を覚えたの?

 どう見てもアメリカの軍隊じゃん。

 いや、アメリカ軍なんて映画でしか知らんけどさ…。


 母さんの部屋は、何故かノリノリの母さんの演説に、皆が気勢をあげるという、変な空間になってしまった。

 クスクスと笑っていたのはユズカ。絶対にお前の入れ知恵だろ!

 サラとリリアさんは、もの凄く呆れた顔をしてた。

 多分、俺も同じ様な顔してるんだろうなあ。

「聞いてるの、トールちゃん!」

「イエス・マム!」

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