第914話  寒くないの?

 コチ…コチ…コチ…

 ん、何の音だ?

 コチ…コチ…コチ…

 ん~~~~? もしや、嫁ーずがまた侵入しようとしてるのか?

 …………。

 おや? 音がしなくなったけど、もしや嫁ーずは諦めたの…か?

 ふっふっふ、なんせドワーフ親方の新作南京錠を10個も扉に付けたからな!

 そう簡単には突破できないぞ!

 うむ、今夜は久々にゆっくり眠る事が出来そうだ。

 おやすみ~!


 

『もう少しだ…もう少しで、この壁を突破できるぞ』

『焦るな! 気付かれるぞ?』

『では、俺に任せてもらおう』

『いやいや、俺が』

『俺的にはお前に任せてもいいんだが…アレはどうなった?』

『ああ、そっちは俺が中心になって抑えてる』

『俺も参加してるぞ?』

『いや、俺も参加してるんだが…、根本解決にはなって無い様な…』

『ああ、また奴らが来た時には…』

『確かにそうだな…今の所は大丈夫な様だが…』

『小物は引っかかったが、それだけだな』

『殺してはいないよな?』

『さあ、どうなったかな』

『んじゃ、今度は俺が出張るか?』 

『そこは、もう暫く俺に任せてくれよ?』

『それでもいいんだが、こっちはどうする?』

『だから焦るなって! 今までの苦労と俺達の犠牲が無駄になるぞ』

『そうだそうだ!』

『それよりも…』

『それよりも?』

『我は暗黒より生まれし大いなる宇宙の…』

『それはもういいから!』

『もしかして、あっちの俺が問題か?』

『ああ、あのままだと…』

『暴走するかもな』

『暴走…』

『いや、ネタに走ってる場合か?』

『そうは言うが、あの俺は俺達とは違うからなぁ』

『もう少しだけ様子を見よう…』

『救わないといけないぞ』

『そりゃ当たり前田のクラッカーだろう!』

『いや、もう古いネタはいいから』

『はーっはっはっはー!』

『まぁ、とにかく餅つけ!』

『餅はつかねぇけどな』

『あと少しなんだ』

『ああ、あと少しだ』

『これであいつに勝てる』

『そうだ、これで俺に勝てる』

『やっと見つけたんだ』

『ああ、俺達の核を』

『だから、もう焦る事はない…取り戻すんだ』

『そうだな、取り戻そう、本当の俺を…』


 どこかで誰かが何かを話し合っていた。

 どうにも要領を得ない内容ではあるが、会話をしている者には通じている様子。

 もちろんその会話は、夢の中にいるトールに届く事は無かった。


 明けて翌朝。

 俺が自室の扉を開けると、なぜかホワイト・オルター号の俺の部屋の前の廊下には、嫁ーずが壁にもたれたまま眠っていた。

 どうやら昨夜、俺の部屋に親友を試み、ドワーフ親方の新作南京錠を突破できずに、力尽きた様だ。

 侵入する気満々だった様で、誰も彼もがスケスケのネグリジェを着ている。

 君達、そんな格好でこんな所で寝てて寒くないの?

 確かにホワイト・オルター号の内部は、完全な空調完備なので、素っ裸であろうとも風邪などひかないと頭では分かってはいるが、それでもこの何も無い廊下でその恰好は、どうにも風邪を引きそうに見えてしまう。

 俺が腕を組んで、青少年が見たらとっても興奮する様な、超スケスケのネグリジェを着た美少女・美女の寝姿を見下ろしていると、もぞもぞとイネスが動き出して、瞼をゆっくりと開いた。

「トール様、おやすみなさい…」

 うん、まだ寝ぼけてるな。

 イネスの声が耳に入ったからなのか、次々と嫁ーずが目を覚ます。

「ふぁあ…とーるしゃま、おはようごじゃりまふゅ」

 メリルよ、元王女として、その言葉遣いは良いのか?

「おはようございます、トール様!」

 流石は元平民にして使用人見習いのミルシェだな、目覚めはばっちりの様だ。

「…おはようござい…きゃ!」

 まあ、朝日の差し込むこの廊下で、その恰好はやっぱり恥ずかったのかな、ミレーラ?

「おはようございます。昨夜はお愉しみでしたか?」

 マチルダ、どっかの噂ずきなおばちゃんみたいなことを言うな!

「普通に寝てただけだわ!」

 うん、思わず叫んで知ったのは仕方ない事だろう。

「そんな事より、こんな所でそんな薄着で寝てたら風邪ひくぞ。早く着替えてこい」

 その恰好で何をしようとしていたかとかは、あえて聞かない。

 聞かなくても分かってる事だし、俺も健全な青少年なんだから嫌いじゃない。 

 むしろ、すっぽんぽんよりもエロくて好きだ! 

 じゃなくて、誰も入ってこないとは思うが、こんな場面をもしも誰かに見られたら、何を言われるかわからん。

 それに、本当に風邪でもひかれたらやだからな。

「今から迫っても?」

 何を言い出すんだ、マチルダは…。

「全力で拒否する!」

『ですよねー!』

 君達って、本当に練習でもしてんじゃないの? よく声が重なるよね。

「はいはい、さっさと着替える! 朝食とナディア達の様子を見に行くぞ!」

『は~~い!』

 俺の言葉に、声を揃えて返事をした嫁ーずは、それぞれの部屋に向かって小走りで向かって行った。


 朝から疲れるなあ。

 そう言や、夢の中で何か聞いた様な…何だったっけ?

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