第912話  ぷりーーーーず!

「む、これか…」

 遥かな土地までダンジョン領域を延ばしていたボーディが、何かに気づき声を漏らした。

「ああ、私も見つけました」

 ボーディが何に気づいたのかを理解しているのか、モフリーナも声をあげる。

「…これが陣?」

 モフリーナとほぼ同時に、その何かの正体を口にしたのはモフレンダ。

 そう、3人は時を同じくして、ナディア達が発見した例の巨大な魔方陣的な何かまでダンジョン領域を延ばしていたのだ。

「お主らのも届いたか。しかしこれは…」

 伸ばしていたボーディがの手が、何かを探るような動きになる。

「ええ、これは…」

 同じようにモフリーナも、難しい顔で手を動かしていた。

「…管理局のでは…ない?」

 モフレンダは、予想していた物と領域がぶつかった何かが違うと感じている様だった。

「うむ、これは違うや知れぬ。陣その物は領域化できぬか…」

「その様ですね…」「…できない…」

 ボーディの呟きに、モフリーナもモフレンダも同意を示した。

「ふむ…では、取り敢えず陣の周囲の領域化が完了したら、陣の調査は後回しじゃの。先にその先まで領域化をしようぞ」

 そう言って、またボーディは手をまっすぐ伸ばして口を閉じた。

「はい」「…(コク)」

 モフリーナは一言だけ返し、モフレンダは小さく頷いて了承の意を表した。

 その直後、ボーディは、

「ふっふっふ…。見つけたぞ、ひよこを」

 そう呟いたが、モフリーナもモフレンダも、何の反応も示さなかった。

 これは事前に打ち合わせしていた。

 もし、誰かがひよこを見つけた場合、その存在をマーキングだけして放置しておくというもの。

 ひよこの詳細は3人が直接調査する事にしていたのだ。

 なので、発見時には不要な接触を避ける様に打ち合わせをしていたので、モフリーナもモフレンダも、特に反応はし無い。

 それぞれ、ただただダンジョン領域を広げる事に集中しようとしていた。

 だが…。

「わ、私も見つけてしまいました…ひよこ…。でも、角が無い?」

「…ひよこ発見…毛が無い…なんで?」

 どうやら、モフリーナとモフレンダもひよこを見つけたらしい

「ど、どういう事なのじゃ? ひよこは1匹では無いという事か?」

 その報告を聞いたボーディも戸惑いを隠せない。

「別個体の様ですが…?」

「…混乱中…」

 蜂達の報告には無かったひよこの出現に、ダンジョンマスターズは混乱していた。 

 

「まずいっすよ…リリア…」

 その頃、ごたごたがあった物の、何とか洗濯物を干し終わったサラは、頭の中で警報が鳴り響いた気がして、思わずリリアに声を掛けた。

「ええ、分かっております。ですが、もうどうしようも無いですね、これは」

 すでにサラの言葉の意味を理解し、同じく警報が頭の中で鳴り響いていたリリアであった。

「もうあの地は殆どダンジョンマスター達の手に落ちましたか…」

 次いで発した言葉にサラは同意する。

「もう、あっちは、ほぼほぼダンジョンマスターの物ですねぇ…。んで、どうしましょ?」

「無視するしかないかと。ここで何がしかの手を打てば、間違いなく私たちが絡んでいると感づかれますから、ここは知らぬ存ぜぬを貫くのみです」

 そう言って話を打ち切ったリリア。

「なるほどねぇ。下手に手を出したら全部ばれちゃうって事ですね」

 リリアの言葉に、また賛同するサラ。

「しかし、たまには自分で何か対応とか打開策とか考えられないんですか?」

 ジト目のリリアに、

「今回は難しい問題ですからねえ…。私には対応困難ですな、うんうん」

「つまり、サラは馬鹿だと?」

「にょ!?」

 サラの言い訳など、一刀両断のリリア。

「これぐらいの問題に対処できない残念脳だったとは。知ってましたけど」  

「し、失礼な! 私だって、対処策の一つや二つあるんですーーー!」

 馬鹿にするリリアにそう言い放つサラ。

「ほう? では、今後は全てサラに任せましょう」

「うぇ?」

「対処する為の策が複数あるようですから、私が何か言わなくとも大丈夫ですよね?」

 すっごく悪い顔のリリアがそう言うと、引っ込みがつかなくなったのか、

「ま、まっかせなさーーい!」

 冷や汗だらだらのサラが答えた…が、

「で、でも、リリアの案も聞いても良いんです…よ?」

「いえ、遠慮しておきます。サラの案で進めてください」

 そう言うと、リリアは次のメイドとしての仕事の為に、スタスタと厨房に向かって歩いて行った。

「いや、ちょ! ちょっとぐらいリリアの案も聞いてみたいかなあ~って…思ったり…」

 焦ってリリアを追いかけながら叫ぶサラの言葉など耳に入らない…いや、入れないリリア。  

「ねぇ、リリアの案も採用しますから! おーい、おーーい!」

 実は、何の案も無いお馬鹿なサラである事は、リリアにとっては明白であった。

 見捨てられたサラは大いに焦っていたのだが、

「む、無視しないでー! ねえ、ちょっとー! お願いだから! リリア様~!」

 完全にサラを無視するリリアだった。

「ぷりーーーーず!」

 サラの叫び声は、美しいネス湖の畔に建つ、これまた美しいトールヴァルドの邸に空しくも響き渡ったのであった。

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