第905話 俺が信用できないか?
父さんの邸に戻った俺は、嫁ーずから文句を言われる事も問い詰められる事も特になかった。
何故か全員がやたらと優しかったのが気持ち悪…気になったが、俺に被害が無いのならば良しとしよう。
その後、ナディア達の様子を見に行ったのだが、巨乳メイドさん達の話では、今のところ状態に特に問題も無いらしい。
ちょっと、安心した。
俺が見る限り、呼吸も安定しており、苦しむ様子も見られないんだから、報告に間違いない様だ。
しかし、どっかの病院の院長先生とかの総回診じゃないんだから、俺の後を全員でぞろぞろついて来るのは止めような。
嫁ーずもブレンダーもクイーンと蜂達も、ついでに俺達の世話してくれてたメイドさん達も、個別にお見舞いしても良いんだぞ?
え、俺が女性が眠っている部屋に行くから見張りのため?
意識も無い女性に手を出すほど、俺は鬼畜じゃないんだが…お前等、俺を何だと思ってるんだ…。
さて、見舞いも終わった俺達は、応接室へと場を移して、大きなソファーに腰を下ろした。
「それで、ダンジョンマスターズとの話の内容なんだが…」
メイドさんが淹れてくれたお茶で唇を湿らせた俺は、先程までのボーディ達との会話の一部を話した。
当然だが、管理局やひよこの正体に関しては、上手くぼかしておいた。
この場の誰もが、あの蜂達の報告の中のひよこが関係しているなんて、欠片も思って無かったからか、ダンジョンマスターズとの会話のあちこちをぼかしても誰も不審に感じなかったみたいだ。
ただ、約束の時間を少しだけオーバーした事は、ほんの少しだけ文句っぽい事を言われた。
別に浮気がどうとかの心配では無く、ボーディが『この事件の原因を探る手伝いをして欲しいのじゃ』と、嫁ーずに話していた事から、約束の時間が過ぎた事を心配していた様だ。
もしかすると、ダンジョンマスターズと一緒に、俺がそのまま原因を探るために旅立ったのかと考えたそうで、何度か通信の呪法具も使ってたらしい。
そういや、この呪法具って着信履歴って残らないもんな…リアルタイムでしか使用出来ない。
これは帰ったら要改善かな。
この世界では十分に便利な道具なのだが、前世で携帯電話を使ってた俺的には、やっぱ着信履歴は欲しいところだ。
いや、前々から気付いてはいたんだが、そもそも対になる呪法具としか会話できないんだし、一般庶民に広く普及している分けでも無い代物。
持ってる相手が限られているんだから、そう不便とも感じなかったから、この問題を後回しにしちゃったってのもある。
ちなみに俺が持っているのは、片方を嫁ーずに1台、ダンジョンマスターズに1台、王都の父さんの邸に1台、後は王宮との連絡用に1台。
パカパカ型の携帯電話サイズなおで、あまり多く持ち歩けないから、邸の一室に基本的には置かれている。
なので、着信が入ると屋敷のドワーフメイド衆が出てくれたんで、その辺りの不便さから目を逸らしてたけど、流石に今後の事を考えたら改良した方がいいかもな。
いや、これは今回の事件とは別の話なので、これ以上は帰ってから考えよう。
「って訳で、モフリーナ達がこの調査を引き継いでくれるそうなんだ」
俺の説明で、嫁ーずも納得した顔で頷いた…1人を覗いて。
「最初からそうしていれば…」
後悔した表情でそう呟いたのはメリルだ。
最初から俺に相談していれば…勝手にナディア達を調査に派遣しなければ…そんな事を考えているのだろう。
「いや、それは仕方ない事…とは言えないかもしれないが、もう今更だよ。そもそも、俺だって父さんや母さんの話を聞いただけで、こんな危険が潜んでいるなんて分からなかったしな。それにナディア達も蜂達も無事だったんだ。これ以上自分を責める様な事を考えるのは止めよう」
俺がメリルの肩をそっと抱き寄せてそういうと、無言でこくりと頷いた後、俺の肩に頭を押し付けてそっと涙を流した。
きっと、今まで俺の第一夫人として気丈に振る舞っていた物が噴出したのかもしれない。
メリルの姿を見た他の嫁ーずも、揃って涙を堪えていた。
彼女達の気持ちも分からなくもない。
だが、やっぱりメリルも嫁ーずもあくまでもアルテアン伯爵家の夫人であり、家の代表は俺なのだから、責任を問われるのであれば、それは俺自身にあるべきなのだ。
「いいか、メリルも他のみんなも、よく聞いてくれ」
俺の声に、全員の視線が俺に集まる。
「皆が決定した事の責任は、全て俺にある。皆が反省すべきは、決定したことを俺に報告も相談も連絡もしなかった事だけだ」
意外に責任感の強い嫁ーずは納得出来ないかもしれないが、ここは言い切ろう。
「俺がアルテアン伯爵家の当主だ。俺は、妻達のやった事の責任から逃げる様な男じゃない! 俺が責任を取る覚悟があって皆を信頼しているからこそ、領内の政策や俺の商会に関して任せる事が出来るんだ」
ここは勢いで言い切った方が良いな。変なプレッシャーで嫁ーずが押し潰されない様に。
「皆は、俺が信用できないか?」
『そんな事ありません!』
うん、皆顔をしっかり上げてくれたし、声にも張りが出たな。
「そうか、良かったよ。どこぞの馬鹿貴族みたいに、『嫁のやった事だから知らん!』 とかは、絶対に言わないから安心してくれ。ただし、報告・連絡・相談だけは忘れないようにな」
そんな奴もよく異世界物の小説とかで見たんだよなあ…だいたいはメタボで悪人面の貴族だったけど。
『はいっ!』
まだ涙で顔は濡れていたが、明るく笑って返事をしてくれた嫁ーずに、俺は大きく頷いたのだった。
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