第878話  怪しいぞ?

 自宅の裏庭に戻ってきた俺たちは、ホワイト・オルター号から降りた。

 もちろん、その後は、しっかりとネス湖に飛行船は沈めましたとも。


 短いながらも、妙に内容の濃い王都への往復。

 嫁ーずにも邸の皆にもお土産など買う暇も無かったほどにバタバタとていたのは、全員が承知してくれているので、特に何も手渡すものは無い。

 まあ、この世界の人達と比べてみれば、俺達ってしょっちゅう王都に行ってるんで、いちいちお土産なんて買って帰ってもねぇ。

 そういや、前世では直線距離で50kmも離れてないのに、実家に帰るときにお土産買ったりしたっけ。

 もちろん俺じゃなく、別れた嫁が…だけど。

 嫁さんの実家は、俺達が住んでいるところから歩いて10分の所だったから、お土産もクソも無いし。

 別に離れているわけでも無いんだけど、旦那の実家ってのは、なかなか行き難いものなのかもな。

 嫁姑の争いなんて皆無だったけど、『手土産ぐらい持っていかないと、何だこの嫁は?って思われるでしょう?』とか言ってたけど、きっと俺の両親は手土産が無いぐらいで、そんな事は考えないと思う。

 ま、これが男と女の感性の違いなんかねえ。


「おかえりなさいませ、トール様」 

 嫁ーずを代表してメリルが俺を出迎えてくれた。

 おや? 他の皆は?

「コルネちゃんに、ユリアちゃんも、お疲れさまでした」

「お義姉さま、ただ今戻りました」「ただいまー!」

 お淑やかに頭を下げるコルネちゃんと、元気いっぱいのユリアちゃんに、メリルの目元も緩む。

「では、お疲れのところ申し訳ないのですが、お義母様へと、私たちへの報告を…」

 報告?メリルへのって…もしかして…。

「はい、心得ております。お母様はもちろんですが、お義姉様にも報告が沢山ご座います」

 コルネちゃんの言葉から察するに…昨晩の事なのか!?

「いや、きっとコルネちゃんも疲れてるだろうから、まずはゆっくりとお風呂にでも浸かって疲れをいやした方が良いんじゃないかなあ…ね、そう思うよね、ユリアちゃん」

 問題が先送りになるだけだって事は重々承知している…だが、しかし、止めねばならんのだ!

「おにいちゃん、ゆりあつかれてないよ?」

 ユリアちゃん、そんな純な顔で俺を見ないでくれ!

「お兄さま、別に疲れてなどおりませんが?」

 コルネちゃんまで、そんなことを言うのか!

「トール様、申し訳ありませんが、全員がお義母の命にて、お義母様のお部屋に待機しております。このままお2人をお連れするのは、決定事項ですので、あしからず」

 そう言って、「さぁ、参りましょうか。あ、ユリアちゃんはおてて繋ぎましょうね」と、ユリアちゃんの手を握ったメリルは、2人と一緒に屋敷の中へと消えていった。

 オワタ…きっと、俺は今夜はオールで物理的にも性的にも説教される事が決まってしまった…。

 誰も居なくなった裏庭を、俺はとぼとぼと屋敷の裏口へと向かい歩いた。


 大分のんびりと飛んだので、到着したのがお昼前。

 帰路は約30時間弱のお空の旅でした。

 いや、本当はもっと早く…この半分ぐらいの時間で帰ってくる予定だったんだけど、色々と考えたかった事もあって、速度をわざと落としたんだ。

 ゆっくり帰って事で、色々と想像もできたし、考えもまとまって来た。

 家でのんびり考える時間って、あんまり無いんだよねえ。

 これでも一応は領地を任された伯爵だし、父さんの領地の代表代理でもある。

 それなりに、毎日忙しいのだよ。

 アニメとか小説とかでは、金満貴族が金に物を言わせて放蕩三昧ってのがセオリーみたいになってるけど、マジの領主ってそう暇じゃないんだわ。

 だって、この世界にはお役所ってのは王都にしかない。

 領民からの苦情に陳情の処理に、領主権限での裁判だってある。

 そのほかには、税金関連のあれやこれやに、領地の施政に関する事柄。

 個人的には、幾つもの商会を持ってるもんで、それに関する決済やらなんやら。

 場合によっては、例の人魚さん達のぱーりーないつなんて物まで手配しなきゃならん。

 メリル以下、嫁ーずがに色々な仕事を割り振ってはいるが、どうしても俺のサインが必要な書類は毎日てんこ盛りなのだ。

 さらに、パンゲア大陸関連の事も放置はできない。

 そんな嫁達による、夜のお勤めという妊活も熾烈を極めてきているので、俺は寝る間も無いぐらいだ。

 そう、ありがちな金満貴族の様に悪事を企てる暇なんて無いのだ。

 まあ、お金に困ってる貴族さんなら、そんな事も考えたりするんだろうけどね。

 なので、考え事をする時間も中々取れなかったので、帰路はゆっくりと時間をかけてみたのだ。

 ま、昨晩コルネちゃんに話しちゃったんで、コルネちゃん自身も色々と考えてはいたようだが。


 屋敷の裏口から中に入ると、とっても静か。

 こりゃ、みんな母さんのとこに行ったのかな?

 それなら、ゆっくりお風呂にでも入って、それから晩飯にでもしようか…ん?

 そういや、サラとリリアさんの姿が見えないな。

 四次元ガマグチについて文句の1つでも言ってやろうかと思ってたんだけど。

 おーーい、サラやーーーい! リリアさんやーーーい!

 俺が、幾ら脳内で呼びかけてみても返事がない。

 こいつは、ちょっとあやしいぞ…。

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