第865話 あなたに…
王都へは、ほぼ予定通りの出発した日の翌日の昼前に到着。
少し前にナディア達による地図作成の時にしったのだが、ネス湖から王都までは約900km程だった。
基準があるわけでもないから、大体の長さを俺が勝手に1mとし、それから導いた距離だから、実際の距離は少し前後するかもしれない。
ホワイト・オルター号の本当の速度であれば、9~10時間もあれば片道を飛ぶぐらい訳ない。
しかし、自分で作っておいて言うのもなんだが、通信の呪法具のおかげで情報が一瞬でこの距離を超えてしまうので、出発前に連絡をして夕方に着くと、連絡を受け取った人たちが驚いてしまうのだ。
何たって、過去の移動手段の主流であった馬車であれば、この距離だと15~20日程度はかかる。
俺の経営するアルテアン運輸商会ご自慢の長距離バスやトラックでも、片道20時間は必要だ。
これでも蒸気自動車により、15~18分の1まで時間を短縮できているというのに、さらにその半分の時間で到着するとなると…ねたむ人も多いのだ。
なので、平時は出来る限り蒸気自動車の速度に合わせているので、20~24時間程度の旅となる。
こうしたら、空の上でも陸の上でも、移動時間は変わらない…と、思わせることが出来るのだ。
ま、急いでいる時とかだと、自重なんてせずに最大戦速で飛んじゃうけどさ。
さて、昼飯前に俺たちは王城の横の練兵場に、ホワイト・オルター号を着陸させることが出来た。
朝一に王城と父さんに連絡を入れておいたので、ちゃんと出迎えの騎士さん達も並んでくれていた。
タラップが降りて、コルネちゃんとユリアちゃんが、その階段を踏みしめながら船を降りると、ちゃんと父さんが2人を待っててくれた。
「ただ今戻りました、お父様」
コルネちゃんが、侯爵家の息女として淑女として、それに相応しい見事なカーテシーを披露した。
そして、ユリアちゃんは、
「おとうさま、ただいまー!」
元気いっぱい、笑顔もいっぱいで、父さんに駆け寄った。
うん、問題なし!
「ご機嫌麗しゅう、アルテアン侯爵様…」
俺も妹達に負けじと、父さんにボウ・アンド・スクレープで紳士足りえる男であると主張してみたのだが…誰も見てくれてなかった…マイ・シスターズの可愛さに目を奪われてたよ…全員。
くそ! 別に良いけどさ…でも、ちょっと拗ねてやる! 俺はスネちゃまざんす!
冗談はさておき。
本日の上京の目的である、マーリア第5王女様への献上品の車と、ロールアウトしたばっかりの小型バギーを降ろしすために、カーゴルームのハッチを開ける。
カーゴルーム…すなわち船倉は、巨大な飛行船本体であり、荷物の積み下ろしはそのままだと難しい。
そもそも飛行船の船体とは、乗員の為のキャビンより」高い場所にあるのだから、それも当然だ。
なのでこのホワイト・オルター号の荷物の出し入れには2通りの方法が採用されている。
※ その1 スロープ式の搬入方式
船体の最後尾の下部が大きく開き、そこからスロープがガシャンガシャンと地面まで伸びるだけ。
ちょっとだけ角度があるので、重いものは運び込むのが大変なので、中央部にコンベアーの様な物が補助的についているのだ。
キャビンの多くのスペースは、この方式での搬入スペース用に割り振られている。
※ その2
クレーン方式。
これは船体の中央よりやや後側の両面の一部がパカッと翅の様に開いて、そこにカーゴルームからクレーンがせり出してくるというもの。
重量物の搬入に適して入るのだが、スペース的にはスロープ式の半分以下しかない。
これは最初にこの船を創造する時に、俺の考えが甘かった事による、設計ミスだ。
もちょっとスペースを確保しておくべきだった。
とは言っても、蒸気式のバスなら8台近く入れることが出来るのだから、十分といえば十分かな?
さて、そんなカーゴスペースではあるが、スロープから降ろすのは、注文を受けていた小型バギー。
マーリア第5王女様への献上品のひつじさん号は、キャビンからタラップを下した方のクレーンで下す。
何で別々に積み込んだのかって?
そりゃ、演出の為ですよ、え・ん・しゅ・つ。
こうした方が、特別感あるでしょ?
この練兵場自体は、王城の壁とかの陰になっていて、全景はお城からは見えないけど、バカでかいこの飛行船はてっぺんから中ほどまでの高さは丸見えなのよ。
だから、もしも王女様に見られたって大丈夫な様に、演出も必要なのだ。
特別な逸品を、あなたに…とか、どっかのCMにありそうでしょ?
ほらほら、集まってくれてる騎士さん達も、クレーンで下されるひつじさん号をみて、『おぉー!』と驚いている。
うむ、この演出は大成功でしょう!
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