第864話  出てこーーーーーい!

 さて、王都と領地をとんぼ返りの旅とは言っても、全速力で王都に向かうほどでもない。

 昼前に領地を出発した、俺、コルネちゃん、ユリアちゃんの3人だが、本日は空の上でのんびりと1泊する予定だ。

 まあ、頭の卯色のこの辺に妖精が姿を隠して俺を監視してるだろうけどな…ここか? このへんか?

 手を振り回したところで、完璧に姿を消した妖精たちに当たることも無い…あ、当たった?

 うん、当たったな…だって、『ぷぎゃ!』って声が聞こえたし。

 でも姿を見せないとは、中々根性のあるやつだ。

「うむ、いかなるアクシデントがあろうとも姿を消し続けるその根性、素晴らしい!」

 とりあえず褒めてみた。

 すると、その瞬間から、妙に俺の頭や身体に纏わりつく気配が…妖精だな?

 ってか、褒めて欲しくて俺の手の届く範囲に集まったりしてないだろうな?

 おい、誰だ! 俺の服の中に潜り込もうとしてる奴は!

 ちょ、それは絶対に違うからな! 不意のアクシデントの時の話だぞ、褒めるのは! 

 お前ら、自分からアクシデントを起こそうとしてるだろ! それは絶対に違う!

 ってか、開き直ったのか? おい、もうここまでしてんだから、何とか言えよ!

 結局、誰も話さなかったが、結構な数の妖精さん達が俺を監視している事だけは判明した。

 シャワーの最中も、トイレの最中も、妖精たちはお構いなしに纏わりついてくる。

 服を脱いだ瞬間に、余計に纏わりついてきてる様に感じるのは、絶対に気のせいなんかじゃ無い。

 結局、その夜は早々にベッドに横になったわけなのだが…翌朝、俺の布団の中に、姿は見えずとも、ガラスで出来たガチャ玉の様な物が大量に転がっているところから察するに、絶対に妖精さん達がシールド張ったままで寝たんだと思う。

 姿を消してる意味無いんじゃないかなあ…それ。


 さて、このホワイト・オルター号での空の旅では、俺がコックさんをしている。

 前世で離婚してからというもの、自炊生活をしていた中年だった俺は、そこそこ料理も出来るのだ。

 とは言うものの、そんなに手の込んだ料理などできるわけもなく、ごく簡単なスープとか、頑張ってハンバーグもどきを作るぐらいだ。

 本当は、前世でも趣味の1つだった釣りで鍛えた魚捌きを見せたいところではあるが、あいにく今回は積み込んでいない。

 コルネちゃんやユリアちゃんに、『お兄さま、素晴らしい腕です!』『おにいちゃん、すっごーい!』と言ってもらいたかったが、それは次回のお楽しみとしよう。

 あ、王都からの帰りでもいいかな?

 でも、王都って内陸だから新鮮な海の幸とか手に入らないんだよなあ。

 池とか川とかの淡水魚だと、泥抜きしないとちょっと匂うしなあ…やっぱ帰ってからかな。

 往路では、昼と晩夕、翌朝の合計3回の食事となるのだが、そのどれもマイ・シスターズは喜んでくれてはいたが、俺が料理が出来る事に驚かれた程度で、感謝感激雨霰とはいかなかった。

 いつか異世界転生物の主人公の様に、素晴らしい異世界料理を振舞ってやろう!

 あ、でも和食ならドワーフメイド衆の方が、圧倒的に腕は上だよな…。

 そもそも、凝った洋食なんて、俺は作れないし。

 何度かふわとろオムレツにも挑戦したけど、一回も出来た試しは無いし………………。

 何で、あんなに転生者って、料理のレシピとか知ってるんだろう…。


 ちくそー! 地球でもチートな能力持ちしか、異世界では活躍できないってのかよ!

 どうせ、俺には自慢できる能力なんざねーよ!

 せいぜい、魂のエネルギーがとんでもなくでかいって程度だよ!

 それも使い道が良くわかんねーよ! 

 謝罪と賠償を要求する!

 こんな設定考えた奴、出てこーーーーーい! 


『えっと…何だか、彼…荒れてるみたいだけど…理由が…』

 真っ白な空間で、どういう理屈かは分からないのだが、真っ赤に熱せられたぐるぐる渦巻の熱線の電気コンロに土鍋を乗せて、こたつに入りながらそれを摘まみながら冷酒でまったりしている、どこかの管理局の偉いさん。

 こんなほろ酔いの時にも、しっかりとトールヴァルドを観察しているようである。

『でも、荒れてる内容がねえ…放っておいてもいいかな?』

 しかし、そんな観察対象にチートな料理スキルを与えるわけでも無いらしい。

『まあ、この映像と心の声は、念の為にサラに送っておくかな』

  そう言って、ガラス製のお猪口を傾ける、どっかの局長であった。

 無論、いきなり映像やらトールヴァルドの心情などなどを無理やり送りつけられ、脳に焼き付けられたサラは、

『ふんぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

 と、突如襲った謎の頭痛にで、地下の自分の部屋の中を転がりまわった。


『あ、よく考えたら、サラに強制的に情報送る必要もなかったな。あいつも自分でログを見れるんだから、時間だけ教えれば良かったのか…ま、いっか。情報送ったぞ』

 ふと鍋の中身を箸で突きながら、どこぞの局長がサラに情報を送った旨を伝えたのだが…。

『良くねーわ! サラちゃん、ゲロまみれのヨダレまみれで転げまわっちまったじゃねーーーかーー!』

 全部、駄々洩れだったようだ。

『あ、めんごめんご』

『そんなんで許すと思って…思って…おーい! おーーーい! ………。ちっくしょう! 通信切りやがったな、あんのクソ局長めーーーーー!』

 局長、サラからの苦情は一切受け付けないようだった。 

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