第860話  どうだっていいのです!

 仄暗い地下室の一画にある部屋の、これまた一画に並べられたリリアとサラのベッドの上。

 これまでずっと目を閉じていたサラとリリアの目がゆっくりと開かれた。 


 どうやら、あの真っ白い空間から精神体とでも言うべき何かが肉体(現地活動用のボディだが)に戻って来た2人。

 今までベッドの上で半跏趺坐であった2人だが、壱岐氏が戻った瞬間に、サラは両足をベッドに放り出して仰向きに大の字になった。

「はぁ~…仕事で疲れてるサラちゃんの中身を引っ張って超過勤務させるとは、一体何様なんですか、あいつは!」

 口を開いて途端、そんな事を言い出したサラに、

「輪廻転生局の管理局長様で、私達の上司様ですが?」

 少しだけ足を崩したリリアが、何を今更? っと、真面目な顔で答えを返す。

「まあ、そうなんですけどね。んで、リリアはアレが何者か知ってんすか?」

 サラが、ゴロンとうつぶせ寝に体制を変えつつ尋ねると、

「前にも言いましたが、彼の名はオピオネウス。オピーオーンとも言いますね。オリュンポスの原初の神々のうちの1柱で、天上を支配していた神々の1柱でもあります。でも、確か神々の戦で、彼の率いる軍がクロノス率いる軍に負けて、オーケアノスの支配する海に落されたとかまでは知っているのですが…その後はどうなったのか、私も知りませんねえ」

 リリアにより、例の何処かの次元の、何処かの空間にある、真水で出来た大海原に浮かぶ島に飛ばされた、例のドラゴンの説明がサラになされた分けなのだが…

「そんな事はどうだっていいのです!」

 いや、お前が何者かと聞いてきたんだろう! と怒鳴りたくなる気持ちをグッと抑えて、リリアはサラに、

「では、何が知りたいんですか?」

 真面目な表情を崩さず、そう言った。

「あれをどう使うかって事っすよ! あんのクソ局長は、全部部下に丸投げしやがったからな!」

 何やら、今頃になって局長への怒りが再燃したサラ。

「まあ、それはゆっくり追々と考えましょう。急いで使い道を探す必要も無いでしょうしね」

 リリアが言うのは、至極ご尤もな事であった。


「ふ~~~~ん。急がなくていいのかぁ…でも、あんな場所に1人で取り残されたら、サラちゃんだったら…」

 真剣な表情で考え込むサラを見たリリアは、サラが何を言いたいのかピンと来た。

「ああ、なるほど。あんな何も無い場所に1人きりだと、確かに気が狂いそうに…」

「誰にも見られないんだから、一日中ずっとオ(ピー 自主規制)してるね、絶対!」

 リリアの言葉に被せる様に、お馬鹿で下品な事をいうサラ。

「は?」

 まあ、リリアがそう言うのも無理はない。

「耳悪いんすか? ずっと(ピー)を(ピー)して、もう(ピー)が(ピー)になるぐらい、(ピー)しまくりますよ!」

「放送禁止用語を連呼するな! そうか、そうか…サラはそんな妄想するぐらいに欲求不満なのですね」

 リリアはニヤリと悪い笑みを浮かべながら、ベッドから立ち上がると、ベッドの上でうつ伏せで寝ながら足をバタバタをしていたサラへと近づく。

「えっ!? いや、不満じゃない不満じゃない! って、何でサラちゃんのベッドに来るんすか! ってか、何で私の太ももをさわさわしてんすか! あ、ちょ…背中のそこを膝で抑えられたら起きれないんすけど! って、 何でパンツずらすんすか!」

「ふっふっふっふっふっふっふっふっふ…1人でするよりも気持ちいいですよ…」

 サラの背中の真ん中を片膝でしっかりと抑え込み、リリアは両手でサラの下半身を悪戯し出す。

「ちょ、マジ止めて! リリアに弄られるぐらいなら1人でするから! あ、いや…ちょ、あっ…やめ…やめてーーーーーーー!」

 トールヴァルド邸の地下室は、今日も賑やかであった。



 ところで、その話題のドラゴンは…。

「何だかなあ。昔にも俺って海に突き落とされたんだよなあ…確か戦争の時。あん時は、まだ昼と夜が交互に来る世界だったから、夜は寝れたんだけどよぉ…ん? 怪我? ああ、俺達が天から突き落とされたぐらいで怪我なんてするかよ。実際には突き落とされたんじゃないんだけどな。え、じゃ実際はどうだったのか? ああ、本当のところはオリュムポスって山の土地を賭けてクロノスの腕相撲してな、負けたんだよ。だって、あいつ、ずりーんだぞ! ほとんどあいつの腕がテーブルに付きそうだったのに、時を止めて俺の体勢を変えやがったんだ! ほとんど俺の勝だったのによ! ま、勝負は勝負だから、陣地をあいつにくれてやったんだよ。え、んじゃ何で落とされたかって? まあ、そんなずりーことを神がしたとか言えないじゃん。だから、神話にしやすいように記録を一部改竄したんだよ。俺だって突き落とされたってか、義父の所に行っただけなんだけどよ。ん? ああ、義父な。オーケアノスって言って、義父の娘のエウリュノメが俺の女房だ。ま、一種のマスオさん状態だな。マスオさん、知ってるか? …………」

 局長から貰った絡繰りネズミと、ずっと会話をしていた。

 意外と元気そうであり、楽しそうに見えるのは気のせいだろうか…。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る