第801話  ストップだ馬鹿野郎!

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ…ゆず…か…本当に子供が!?」

 あ、あわててるのは俺だけじゃ無かった! 

 ユズキも、めっちゃ動揺してる。

 さっきから黙ってたから、てっきりこれから父親になる男として、家を支える大黒柱の様に、どっしり構えてるのかと思ってたが、単に妊娠の事実を知って、呆けてただけだったのか。

「う、うん…そうみたい…そう言えば、今月はせい…」

「はい、そこまで!」

 危ない…コルネちゃんは知識はあるだろうけど、ユリアちゃんにはまだ早い!

「おにいちゃん、こんげつはせいってなーに?」

 ほら見ろ! こんな所に喰いついちゃうんだよ、知識の無い純真無垢な天使は!

「ユリアちゃん、まだちょっとその辺のお勉強は早いかなあ~。もう少し大きくなったら、イネスお義姉ちゃんが教えてくれるから、それまで待てようねぇ~」

「わ、私か!?」

 俺の突然の指名で、イネスが滅茶苦茶に泡食ってたが、そん時は我が家の女性陣が全員でフォローするから安心しろ。

 多分だけど…。

「うん! イネスおねえちゃん、おねがいしまーす!」

「わ、私なのか!?」

 うん、ユリアちゃんに性教育をするのは、漢前なイネスがメインです。


 おっと、この騒動の元凶の夫婦をじっくり観察せねば!

「柚香…本当の本当なんだな?」

「う、うん…どうもそうみたい。柚希は子供欲しくないの?」

 うん、何だかどっかのドラマで見た様な展開だな。

「そ、そんな事ない! そんな事ないよ! 僕…僕…嬉しくて…うぅぅ…」

 柚希君、とうとう泣き出しちゃいました。

「柚希…私…すっごく嬉しいよ…だって、2人の子供だもん…」

 おお! これぞお約束の定番の流れだな。

「柚香…」「柚希…」

 あ、これ別の定番の流れになりそうな予感が…。

 2人の顔がだんだん近づいて…って、ストップだコノヤロー!

「あ~、ごほん! そう言うのは、家に帰ってから、ゆっくりと2人でやりたまえ」

 また柚香に睨まれたよ…場所を弁えろよ! どこでもチュッチュするつもりかよ、このバカップルが!

 あ、いや馬鹿夫婦か? 

「とにかく、妊娠が発覚したんだから、変身禁止! 戦闘禁止! バギーも禁止だ!」

「え~~~~~~~~!!??」

 何だ、その不満そうな顔は! ホレ、ユズキも何か言ったんさい。

「うん、僕も伯爵様の言った様な事は、柚香には止めて欲しい」

 そうそう、さすが夫だ。

「柚希までそんな事言うの~?」

 おま、お前の旦那がヤメロっていってんだぞ? ちゃんと言うこと聞いとけよな!

「うん…もしも何かあって、お腹の子供が…それだけでなく、柚香の身体に何かあったりしたら…僕は…僕は…」

「柚希…そんなにも私を心配してくれるのね…」

 うむうむ。

 さすがのユズカでも、涙で濡れた自分の旦那が、自分を何よりも大事に、何よりも心配してくれてる事は分かった様だな。

「柚香…」「柚希…」

 またこの流れかよ、この馬鹿夫婦!

 止めろ止めろ、ストップだ馬鹿野郎!


 この後、嫁ーずやドワーフ達、そして人魚さん達が、寄って集ってユズユズ夫婦に祝福の言葉を浴びせまくっていた。

 だけど、人魚さんが妊娠の匂いを嗅ぎ取ったってだけで、本当に妊娠しているんだろうか?

 ちょっと帰りに、魔族のお医者さんの所に寄って確認してみなければね。

 ま、我が領地は、母さんがわざわざ出産の為に逗留するぐらい、この世界では最先端医療が整ってるし、本当にユズカが妊娠してるってのなら、我が家のメイド業も産休を考えないとなぁ…。

 ん? そういや、我が家のメイドと言えば、サラとリリアさんをここ数日見て無い気がするけど…気のせいじゃないよな?



 トールヴァルドが、遠く離れた砂浜で、サラとリリアの事を考えている時、当の本人は屋敷の地下で怪しい動きをしていた。

「ぐへへへへへっへ…この薬を完成させたならば、きっとあのヘタレもギンギンの色魔へと豹変するに違いありません! そしてこの美少女サラちゃんを見て、目がハートになっきっと押し倒すに違いありません!」

 薄暗い地下室で、どこかの魔女の老婆が色の代わる駄菓子を練るような動きで、薬研でゴリゴリと何かを磨り潰しては、陶器の小瓶に詰めていた。

「ギンギンギラギラお薬は~…ヘッヘッヘッヘッ…練れば練るほど色が変わって…うまーい!」

 そんな様子を傍でじっと見ていたリリアは、どこから取り出したのか、徐にハリセンでサラの後頭部をスパーーーン! と良い音で叩いた。

「ぶぎょぇぁ!」

「どこの駄菓子のCMですか! 何を熱心にしているのかと思ったら、媚薬作りとは…」

 鼻の穴にから死でも詰められた猫の様な、意味不明な声を上げ乍ら、磨り潰した薬の粉末の中に顔を突っ込むサラ。

「さあ、局長が待ってるのですから、とっとと準備をしてください!」

 粉だらけになったサラの首根っこを掴んだリリアが、サラを引きずってベッドルームへと引きずり込む。

「や、やーめーてーーー! おかされるーーーー!」

 何かに縋る様に両手で宙を掴む様にワタワタと動かし暴れて抵抗していたサラではあったが、そんな事ぐらいでどうにかなるリリアでは無い。

「人聞きの悪い事言わないでくださ…いえ、その言葉の通りにするのも楽しそうですね……」

 半ば冗談であったのか、はたまた本気であったのかは分からないが、サラの要らぬ一言を聞きつけたリリアのこの言葉は、

「ひ、ひぇ!?」

 サラの顔色を青くする程度には効果があった様だ。

「あ、鞭と蝋燭が…」

 更なるリリアの追撃の一言に、

「……ちょ!」

 サラは更に顔を青くする事になるのであった。


 その後、サラとリリアがどうなったのか…?

 定例会議の為、仮想空間で待ち合わせをしていたらしい管理局の局長は、なかなか現れない2人に苛立ち、その能力を以て2人の状況を覗き見た。

 そして、2人のあんまりな姿を見て、頭を抱え絶句した。

 だらしなく涎を垂らした半裸のサラと、同じく半裸で仁王立ちし、紅潮した顔を隠しもせず胸を張っているリリア。

 待ち合わせ時間前に一体何をしていたのか聞くのが怖くなった局長は、そっと二人のいる空間への接続を切り、そっと意識を失っているサラに合掌をしてから、仮想空間を閉じたのであった。



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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