第763話  バトン…パス?

「それで、母さんは知ってたの?」

「何を?」

 何をって、そりゃユリアちゃんのお見合いの事。

「………知らなかったわ」

 そっぽを向いてそんな事を言う母さん。

 ここは父さんの王都の屋敷にある応接間のソファー。

 そこで、母さんと父さん、そしてコルネちゃんとユリアちゃんと向かい合って俺は座っていた。

「その間は何? 絶対しってたよね!?」

「さあ? 記憶にないわ」

 くっそ! 絶対に知ってて黙ってたな?

「くっ…まあ、いい。父さんは知らなかった様だけど、このお見合いには断固反対します!」

 俺がそう宣言すると、母さんは、

「あら、そう?」

 たった一言、あっさりとそう言った。

「あ、あれ? 反対とか反論とかないの?」

 あまりにもあっけない一言だったので、ちょっと訝しんでそう聞き返してみたが、

「超妹大好きな変態のトールちゃんが反対するのは想定内よ」

 その想定内の反対理由には、一言申し上げたい気もするのだが…トール君としては。

 ってか、想定内って言ったよね? って事は知ってたんだよね?

「まあ、確かにウルリーカの言う事も尤もだが、トールの反対する理由とは何だ?」

 父さん、母さんのは言う事が尤もだって、言いきっちゃうのか?

 俺って、変態って認識なのか…?

 もういいや、変態でも何でも言ってくれ。

「ああ、ユリアちゃんはどう考えても普通の女の子じゃないだろ? 何たって、フル装備の騎士を素手でぶん殴るぐらいなんだから」

「む? それぐらい、私でもできるぞ?」

 何を張り合ってんだよ、脳筋バカ親父!

「父さんが出来るかどうかは無視するとして、そんな力の制御も未熟なユリアちゃんが、普通の子供に怪我とかさせないか心配なんだよ」

「へぇ~意外とトールちゃんも、しっかり真面目に考えてたのね?」

 母さん、そりゃどういう意味だ?

 俺はいつでも真面目ですけど?

「確かにトールちゃんのいう事も一理あるわね。それなら、トールちゃん的には、ユリアちゃんが力の制御をモノにするのに、どれぐらいの時間がかかると考えてるのかしら?」

 ほう、母上様はこの偉大なる天才トール君の意見を聞きたいと。

 よろしい、お聞かせしましょう!

「ま、俺の傍で20年も居れば制御は完ぺ…」

「却下!」

 母さん、言葉を被せてきやがったよ!  

 最後まで言わせろよな! 聞いてきたの、母さんだろーが!

「そんなに待ってたら、ユリアちゃんの旬が過ぎてしまうわ」

「旬って、あんた…」

 魚じゃなんだから…。


「そもそも、コルネちゃんも見合いのほとんどを断ってるのよ? このままだったら、2人とも一生を処ピーで過ごす事になるわ」

 はい、ピー音入りました。

「大体、ピーなあんたは、5人も嫁がいるから毎夜ピーしてピーしてるでしょうが! 自分はピーしまっくて、コルネリアとユリアーネのピーを破らせないって、どんだけピーでピーでピー野郎なのよ!」

 …放送禁止用語が乱れ飛んでおります。ピー音が続き、お聞き苦しいかもしれませんが、お許しくださいませ。

「そ、そんなんじゃないや! 俺だって1人でゆっくり寝たい時だって…」

 俺はその時、すっかり俺を取り巻く嫁ーず」の事を忘れていた。

 ええ、それはそれは、完璧に忘れてましたとも。

 なので、メリルが参戦してきました。

「そうでしたの。トール様は、私達と夜を過ごしたくないと?」

 え、何でそんな話に…?

「も、もしもし、メリルさん?」

「どう思いますか、ミルシェさん」

 メリルからバトンがミルシェに。

「私達が子供を授かって無いのが悪いのでしょうか…どう思いますか、ミレーラ?」

 くっ! ミルシェからミレーラにバトンかよ!

「あ、あの…もしかしたら…私の胸が小さいから飽きられたのかも…ねぇ、マチルダさん」

 バトンパスが早すぎる!

「胸の大小は関係ないかもしれないが、もしかするといわゆるマンネリではないかと思うぞ、イネス」

 最終走者にまでバトンが渡ってしまった…。

「真面目な話をすると、私とマチルダはトールさまよりも大分年上だからな。もっと高等なテクニックを磨かねばならないかもしれない。やはり、お義母さまに教えを請わねば!」

 はっ? バトンが母さんまで回った…だと!?


「では、第95回アルテアン家の女会議を開催したいと思います。用があったら声を掛けますので、あなたとトールちゃんはこの部屋を出ていくように。言っておきますが、2人で何処かに遊びに行こうなどと考えない事。呼んだら100数えるまでにこの部屋に来なさい。いいですね?」

 仁王立ちした母さんは、ちょっと膨らんだお腹に左手を、腰に右手をあてて、俺と父さんに向かってそう言った。

 無論、俺と父さんに拒否権などない。

 母さんと俺の嫁ーずのスクラムには、決して立ち向かってはいけない。

 経験則でそれを知っている俺と父さんは、すごすごと応接室を出た。



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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