第739話  誰?

 もう、陽も天高く昇ったというのに、俺はなんて爛れた生活をしているんだろう。

『いつもの事ではないでしょうか?』

 リリアさん、あんたは何て事を言うんだ!

 俺は正しく生きようと、日々努力しているというのに。

『強引に押せば簡単に流されるじゃないですか。情事に関しては常時』

 上手い事、言ったつもり?

『浴場で欲情に対抗してみました』

 対抗せんでええ!

『いえ、こういうセンスを常から磨き続けなければ、廃退するのです! そして敗退…』

 もう、ええって!

『何事も努力しなければ!』

 いらん努力すな!

『おっと、こうしては居られません…ちょっと急用なので休養します!』

 まだ続くのか? って、急用? そんなのあったっけ?

 あれ、リリアさんや~~い! お~~~い!

 はて、返事がないな…ま、いっか。


 時間的に昼食を兼ねた朝食となってしまったのだが、ドワーフメイド衆もユズユズも何も言わずに、食堂のテーブルについた俺と嫁ーずの前に配膳をした。

 何も言って来ないってのは、ちょっと怖い。

 ユズカの奴は、俺と嫁ーずに向かってニヤニヤ顔をしているのが、特に怖い。

 あの笑顔には、全てお見通しといった意味が多大に込められていると思う。

 ユズキはため息をついているが…その憐れみ成分過多な目はよせ!

「頑張ってるなや!」「何回じゃろか?」「不潔でゃにゃーか」「子作りは大事じゃけん!」

 そこのドワーフメイドさん達や、聞こえてますが?

 はいはい、どうせこの屋敷中の全員に知られてる事ぐらい、俺にだって分かってますよ…。

 あれ、そう言えばサラとリリアさんは、どこいった?

「そう言えば、先程から姿を見ませんね」

 俺の前に食後のお茶を出しながら、ユズキが小首を傾げた。

「ユズカは見た?」

「見てないよ」

 ふむ…ユズユズ夫妻も知らないのか。

 確かにさっきまで頭の中で話してたんだがな、リリアさんと…は…、そういや、サラとは話してねえな?

 大概、スケベ関連になら首を突っ込んで来るはずなんだが、マジでどこ行ったんだろ?



 その頃、トールの屋敷の地下室の一画にある、サラとリリアの居住スペースで、事は静かに進行していた。

 何故か彼女達はベッドの上に胡坐をかき、目を閉じており、その様子はまるで瞑想している様であった。


『ふむ、なるほど。では計画の進捗状況としては、概ね70%といったところかね?』

『はい。ですが、思ったよりも固いですね』

『随分前から焚き付けては居るんですけどねえ。中々頑固というか、ヘタレというか…』

『それは仕方がない。前世での性格が反映されている事だしな』

『しかし、それでは計画に遅れが出るのではないですか?』

『そうですよ! あのヘタレにもっとエネルギーを使わせないと!』

『そう悪く言うもんじゃない。17年で70%は、予想より少し遅れている程度だぞ』

『そうだぞ、サラ、リリアよ。アレは私の分身でもあるのだから、そう悪口を言ってくれるな』

『あら、いらしてたんですか?』

『あんたの分身なんだから、あんたも協力しなさいよ!』

『そうは言ってもなぁ…別次元の同位体が…』

『おっと、そこまでだ。実験星での計画は概ね順調であるのだから、無理に進める事は無い。焦らずにやりなさい』

『はい、了解しました』

『うぃ~~っす』

『ま、俺の数ある同位体の1つだからな…それとなく嗾けてみるよ』

『そうしてくれると助かる』

『ええ、是非ともお願いします』

『…ちっ! 最初からそうしろての。このサラちゃんがどれだけ苦労したと思ってんのよ』

『いや、そこはマジですまないと思ってる。けど、イロイロト俺にも事情はあるんだよ』

『こちらの貴方様は、先程まで5人の奥様と色々と情事をなさってましたが?』

『リリアよ、覗いておったのか?』

『どうせ管理局で、この星の大河さんの活動ログは記録されてるでしょ? 後でアクセスしたら全部丸っと丸わかりじゃん』

『ええ、サラの言う通りです。ですがサラ…リアルタイムと録画では臨場感が違うのです!』

『…頼むから恥ずかしい所は見ないで欲しいんだが…一応は俺の同位体だし…』

『2人のログへのアクセスは拒否した方が良いのだろうか?』

『局長! 私の楽しみを取らないでください!』

『私は彼の視界に侵入できれば構いませんけどね』

『いやいや、それは…』

『なるほど、そう言われてみれば…』

『いーやーだー! 後で一気観がしたいんじゃーー…』

『サラもさぼってないで、ちゃんと監視してれば…』


 瞑想しているサラとリリアが、誰かと脳内で会話していた。

 それは、サラとリリアと輪廻転生管理局の局長の様だが、どうももう1人交じっている様である。

 それが誰なのかは、念話している彼等彼女等以外には分からない事ではあるが…。

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