第726話  プレゼント

 父さんの屋敷の応接室。

 当初は微妙に成金趣味っぽい絵画とか壺とか色々な美術品が並んでいた部屋だったが、国王陛下から屋敷を下賜されてからは父さんが手を入れた様だ。

 壁に掛かっているのは、以前はキンキラした装飾だらけの実用性皆無の剣だったけど、今そこにあるのは真っ黒い大剣と大楯。

 あれって、モフリーナのダンジョンの黒竜からもらった鱗で造った奴だったよな。

 確か…まだ俺が子供だった頃に、グーダード王国と真アーテリオス神聖国との戦争に行った時の奴。

 盾に取り付けられた魔石は装飾としては大して意味も無い。

 実はあの時、こっそりと精霊さんのおやつ用にエネルギーを俺が補充してたんだ。

 こうすると勝手に精霊さんがおやつの運搬係り? である父さんを敵の攻撃から護ってくれ…たらいいなあ程度でくっつけた物。

 大剣だって、黒竜の鱗を見たドワーフ村の村長さんが、何故か張り切っちゃって切れ味抜群のブロードソードを造りあげたんだ。

 どっちも内務大臣さんに言わせると、国宝として宝物庫に納められててもおかしくない一品だとか。

 そして向かい合う壁に掛かっているのは、聖なる女神ネスの姿と我が家の紋章が刺繍された藍色のマント。

 この部屋って、全体的に色味が地味だな…。

 今の季節は使ってはいないが、暖炉の上にはネスの像が付いている。

 だけど金ピカとかじゃなくて、湖の底にいるネスの像と同じく純白。

 え~っと、白と黒もしくは濃紺でまとめられた部屋…地味というか、モノトーンっぽくて、もしかしたらある意味モダンなのかも。 

 そんな応接室で、俺と父さんは向き合って座り、『はぁ…』と、揃ってため息をついていた。


 何で俺が父さんの応接室をぼんやりと眺めながらため息をついて感想を述べているのか?

 それは俺の視界の端っこが原因だ。

 俺達が連れて来たもっち君達と妖精さん達を取り囲み、この屋敷のメイドさんや執事さんだけでなく、嫁ーずに最愛のマイ・エンジェル、妹達、そして俺の母さんが、きゃいのきゃいのと騒いでいるからだ。

 何をそんなに騒いでるのかって? 内容までは知らん!

 ただ、めっちゃやたらと楽しそうではある。

 時折、人々の隙間から見えるもっち君の顔が、『 (●´ω`●)』だったり、『(♡ ω♡)』だったりするのだが…何の話をしているのだろうか?

 え? 気になるなら聞けばいいじゃないかって?

 いや、俺は断固として聞かん! 

 だって、何か面倒事に巻き込まれるか、無茶なお願いを聞く羽目になる気がするから。

 ふと顔を上げると、父さんと目があった。

 父さんも似た様な事を考えていたのか、青汁を飲んだどっかの悪役俳優さんみたいな顔になってた。

 俺も父さんも、この応接室に入ってからは一言も話してないのだが、何だか心の奥深くで繋がってる気がするのは気のせい?

 そんな俺達2人は、またまた『はぁ~~~~~』っと、長い長いため息をつくのだった。


 姦しい騒ぎも落ち着いた…落ち着いたのか? もっち君と妖精さん達は、この屋敷のメイドさんと執事さん達に連れられ、どっかに姿を消した。

 要は、お話しの場を応接室から移したって事。

 さっきまでの喧騒が嘘の様に静まり返った応接室には、嫁ーずとコルネちゃん、ユリアちゃん、ナディアに両親と俺。

 お茶を準備してくれているメイドさんは、微妙に心ここに非ずという感じだが、さっさとあっちでお話ししたいんだろう。

 とは言っても、そこはプロのメイドさん。

 静々と急ぐでも慌てるでも無く、仕える父さんから順に、俺、母さん、コルネちゃん、ユリアちゃん、嫁ーずNo.1~No.5へと順番にお茶を出してゆく。

 この辺は流石プロだ。きちんとお茶を出す順番を考えている。

 やっと落ち着いて色々と話が出来ると、俺と父さんはお茶で唇を軽く湿らす。

「では、トールよ。あの丸い妖精の事… 「あなた、ちょっといいかしら?」 …なんだが…どうした、ウルリーカ?」

 父さんがやっとこ話し始めたと思ったら、母さんがちょっと待ったコールを掛けて来た。

 一体何なんだ? 父さんにあの母さん経由で渡した装備の事とかか?

 もっち君の事とか話そうと思った矢先に、一体全体なんなんだ?


「皆に、ちょっと大事なお話があるの。実は、来週がお父さんの誕生日だっていうのは知ってるわよね?」

 その母さんの言葉に、この場にいる全員が一斉に頷いた。

 そういえば、確かに父さんの誕生日だな…忘れてた訳じゃないが…。

 まあ、実際に年を重ねるのは新年の初日、つまりは元日ってのがこの世界の仕来たりというか慣例なので、新年のお祝いと一緒に誕生日会とかしたりする。

 そもそも、基本的には法律とかにある年齢制限も、誕生日を迎える年の元日を境として、許可不許可となっている。

 つまり、実際には成人年齢に達していないが、法律上はその年に誕生日を迎える者は、成人として扱う…ってな感じ。

 だけども、当然だけど生まれてきたんだから、誕生日はある。

 この世界的に、誕生日とはいえ、特にパーティーをしたりという事は無いんだが、母さん一体何を?

「実は、お父さんにプレゼントがあります!」

 おい、母さんや…まさか、今まで父さんの装備を渡してなかったのか?

「はい、トールちゃん! 今、ネス様からの神具をプレゼントとか言い出すんじゃないだろうな? とか思いましたね?」

 ぶんぶんぶん! 首が捻じ切れるかという程に振りました。ええ、目が回るかと思う程に。

「ネス様から賜った物を誕生日プレゼントにする程、母さんは愚かではありません」

 嫁ーずもコルネちゃんもユリアちゃんも、ただ黙って首を縦に振りまくっていた。

 うん、母さんのあの目は怖いもんな…。

「プレゼントはもうここにあります!」

 世間様に溢れまくった鈍感系主人公じゃないから、俺には母さんの次の言葉の想像は付いた。

 いや、だが…まさか…そんな事は無いと思いたい…違うと言ってよ、マミー!

「アルテアン家は、新たな命を授かりました! 私のお腹には赤ちゃんが居ます!」

『えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?』 

 その瞬間、アルテアン侯爵家の屋敷が震えるほどの絶叫が響き渡った。

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