第725話 番外)どうだったっけ?
何故か小さく可愛い妖精たちが、ナディアの前にずらりと揃って腰に手をあててプンプン怒っていた。
しかも真ん中の妖精は、表に『直訴』と書かれた、二つ折りの紙を突き出している。
どこでそんな言葉を覚えたのだろう、この妖精たちは…。
ナディアはその妖精達に見合う小さな紙を受け取ると、そっと開いた。
そこに書かれていた内容とは、【 われわれもしんせんなえねるぎいがほしい 】と、いう物だった。
ナディアの後ろから覗き込んだ、アーデ、アーム、アーフェンの3人も、その内容に首を傾げた。
「あなた達、これは一体…?」
ナディアが妖精たちに訊ねると、
『我々は、断固抗議する! マスターの新鮮なエネルギーは、私達も渇望する! 以上!』
声を揃えて、抗議された。
声を揃えて?
「あれ? あなた達って話せましたっけ?」
一瞬覚えた違和感の、その原因に思い当たったナディアが、ちょっと間抜けな顔で妖精達に訊くと、
『話せますよ?』
あんた、馬鹿? 的な呆れ顔で、妖精たちはまたもや口をそろえて答える。
「ナディア様…妖精さん達は過去にも何度か喋ったことが有りますけど?」
アーフェンが記憶を辿りながらそう告げると、余計にナディアは混乱した。
「はぁ~~~!? そんな馬鹿な…いえ、ちょっと待ってください、確認します!」
そういうや否や、ナディアは黙り込んでしまった。
いつもの如く、書類の山と格闘していたトールの頭の中に、ナディアの慌てたような声が響き渡った。
『マスター、マスター、大変です!』
んん? どうしたナディア、そんなに慌てて?
『それがですね、妖精さん達が喋ったんです!』
それが、何か?
『おかしいとは思いませんか?』
だから、何が?
『妖精さん達が喋ってるんです、肉声で!』
ほうほう…んんほっ?
『マスターは妖精さん達と意思疎通が出来るでしょうが、肉声でお話ってしたことありますか?』
言われてみれば無い様な…いや、話した様な気もしないでも無いが、それは実は頭の中での事だった気がしないでも無い…
『つまりは、どっちですか?』
覚えてない…
『ですよねえ。実は私もなんです』
ふ~~ん。でも喋れるのは良い事なんじゃね?
『そうですけど、そうですけれども!』
あれ、待てよ? 確かナディアとアーデ達は、ほぼ人族と同じ様にガチャ玉で創造した記憶が有るけど、あの妖精さん達ってどうやって生まれたんだっけ?
『大樹に貯めこまれたエネルギーからです』
って事は、大樹が妖精さん達を設計してるって事なのか?
『そういう風に大樹を設計したのは、マスターですけど?』
あ、いや、勿論そうなんだけど。
って、違う違う! お人形さんの様な妖精も、もっち君の様な妖精も生まれてるじゃんか?
『ええ、そうですね?』
そもそも、どんな設定で妖精さん達を生み出してるんだろう?
俺はもっち君みたいなのを生み出すなんて知らなかったんだぞ?
『…それは大樹に訊いて下さい』
まあ、ナディアが知ってるわけないよな…
『そんな事より、妖精さんが喋ったんです!』
ああ、うん…そんな事扱いか。
大樹を創り出した時の事を思い出してみる。
確か、色々な経験を知識として貯め込み、同族で共有できる様なネットワークを持つ、学習型AIをイメージしつつ、それを生み出してメンテナンスも出来る一種の妖精製造所兼整備場って感じで、大樹をイメージしてたよな。
その時、生み出された妖精たちが喋れる様にしてたっけ?
ってか、もっち君って、そんなの生み出せるように設計してたっけ?
そもそも妖精さん達に関しては、基本的には外観と構造や機能は人族とほぼ変わらない様にするつもりではいたけど、はて…声帯ってあったっけ?
いや、あるはずだ、ってか喋れる様にはしてたはず!
だって、喋れないなんて事になったら、コルネちゃんがコミュニケーションに困るから、そこは抜かりないはず。
待てよ…もっち君でもコミュニケーションできるんだから、声って実はいらない?
もっち君と違って、手も足もあるし、表情だって変えられるんだから、声が無くても困らない…って感じで、もしかして喋れるようにはしてない?
そりゃ、たくさん生まれるから、全部が喋ったら五月蠅いとか考えた事も有った様な気もするし、やっぱり喋れる様にした気もするし…。
あれ? 俺って、大樹の最初の設定って、結局どうしてたっけ?
んん~~~? 思い出せん…。
「そもそも、私たちが喋らないのは、疲れるからです!」
小さな妖精たちを代表して、トンボの様な翅の妖精がそう言った。
「「「「 疲れる? 」」」」
大きな妖精の4人が驚く。
「当ったり前でしょう? あんた達と比べて、私たちの身体は小さいんですよ? 頑張って大声張り上げて、やっと普通の人の声ぐらいの音量にしかならないのに、舐めてんの? はぁ、マジ疲れるわぁ」
何だかヤサグレて来た妖精さん代表の周囲で、他の妖精さんもコクコク頷く。
「全員が声を合わせれば、そこそこ大きな声になるけど、練習が必要なのよ? 毎回毎回会話するたびに全員集合して、同じ文言を一言一句間違えないように声を揃えて話す練習もしなきゃならないのよ? それって、一体どんな苦行よ! そもそも、私達にも個性ってもんがあるのよ?」
妖精さんは怒っていた。
「個々に言いたい事はおいて置いて、全員が意見を合わせてちょびっとだけ話すためだけに、会議を開いてあーでもないこーでもないと議論を繰り返し、全員で心を一つにして練習して練習して、やっと声を揃えて喋れるって、妖精ナメとんのか!」
めっちゃ怒っていた。
「それに必死に声を出しゃぁ、喉はイガイガガサガサで声がガラガラ声になるし!」
もう怒りは収まりそうになかった。
「さっさとマスターとかの頭の中に話しかけた方が簡単だわ! 誰とも会話せん方が楽だわ! あんたらでっかい奴らにゃ、私達ちっこい奴の気持ちなんて分かんないんだろうけど、そこんとこよく考えてみ? どうよ?」
言われてみれば確かにその通りだった。
でっかい妖精4人は、反論の言葉すら出せなくなっていた。
「大体ねー! 私たちが毎日どんだけ苦労してコルネリア様やユリアーネ様と意思疎通してお世話してると思って……」
妖精さん達の怒りは収まらないどころか、さらに燃え上がっていった。
こののち、長い時間を正座したナディアとアーデ、アーム、アーフェンに対し、妖精さん達が入れ代わり立ち代わり言いたい放題言った後、最後にこう締めくくった。
『私達にも、マスターの新鮮で活きの良いエネルギーを腹いっぱい貰えるよう、交渉して来なさい!』
「「「「 …はい 」」」」
ナディア達4人は、ぐったりしながら頷くのであった。
妖精の設計ってどうだったかなあ? もしかして進化した?
いや、肉体構造が進化ってありえるのか? まてよ、新しい機能が付与された?
って、異世界物のラノベじゃあるまいし。
レベルが上がったら新しいスキル貰えるとか、そもそも意味わかんねーし!
何で訓練もしてない能力がレベルアップしただけで生えて来るんだよ?
おかしいだろうが! 俺は納得いかーーーん!
いや、今それはどうでもいい…妖精さん達の事だ…どうだったかなあ…。
執務室にやって来たマチルダが、目を瞑って思考の海の波間を漂っているトールに向かって、
「寝てないで仕事してください!」
と、トールを叩き起こし、書類の山の標高を更に高くする寸前まで、その思考は続いたのであった。
後日、ぐったりしたナディアが、大量のエネルギー貯蓄用の水晶を持って来た。
その頃にはトールのお花畑脳は、すでに妖精さん達の事はすっかり忘れ去られいて、鼻歌交じりで気楽にエネルギーを注ぎ込んだ。
そんなトールを見つめるナディアは、こっそりとため息をつくのであった。
実は、苦労人なのかもしれない。
ナディアは…。
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