第693話  ご容赦ください

「ところでトール様、ちょっと質問してもいいですか?」

 いきなりミルシェがこんな事を言い出した。

「質問?」

「はい。何でここの王様を造るのに、サラさんとリリアさんが来てたんでしょうか?」

 さすがにこの質問には、サラとリリアさんも困り顔。

 あっれ~? 俺、説明してなかったっけ?

「サラとリリアさんが、女神ネス様から派遣されて来たのは知ってるよね?」

「はい、それは以前お聞きしましたから」

 ミルシェだけでなく、他の嫁ーずもうんうんと首を縦に振る。

「実は、サラとリリアさんは、女神ネス様が造られた人造人間なのだ!」

『人造人間!?』

 ちなみに、この世界では人族とは言うが、人間とは言わない。

 なので、人造の人間という響きだけでも、何か特別感がもの凄く出るのだ。

「そ、人造人間。一見すると普通の人族に見えるけど、女神様特製のスーパーな眷属なのだよ」

 いや、本当は全然特別でも何でもないんだけど。

「そ、それで…その特別でスーパーな眷属様が、何故この地で王たる者を造るのでしょうか?」

 メリルも疑問に思ってた様だ。

「うむ、それはな…」

『ゴクリッ! それは?』

 何故か、嫁ーずだけでなく、ドワーフメイド衆も前のめりになっていた。

 ちなみにユズユズには真実をかなり前に話しているので、何とも思って無いようで、窓際でいちゃいちゃしている…ケッ!

「この地の王となるものと言えば、いわばモフリーナ達の眷属。彼女達では作れない人族の基本的な肉体を造る為の知識を、彼女達は持っているのだよ。だから、ダンジョンマスター達に協力し、限りなく人族に近いボディを造る手伝いをしていたのだ」

 うん、めっちゃ意味不明な説明だ。

 言い回しはくどいが、全然説明になって無い。

 だが…

『なるほどー!』

 何故か、全員が納得していた。

 お前ら、実は説明とかどうでもいいんだろ? 理屈もへったくれも無いな、おい!

「あ、うん…え~~…納得してくれたら嬉しい。さて、そんな努力の結晶である王様3人の魂は、ネス様の使徒であるこの俺を通じて、ネス様が注入してくれる…らしい…多分。魂を注入する仲介役として俺はここに居る。ここまで、OK?」

『おっけー!』

 軽いね、君達…。

「そんな俺の顔を立てるべく、モフリーナ、モフレンダ、ボーディは、俺に名付けと言う栄誉を与えてくれたんだそうだ。実際は、ネス様から賜った名前を、王となる者達に引き渡すだけなんだ…つまりは、そういう事なんだよ…おわかり?」

『おーる、おっけー!』

 そんな言葉、どこで覚えたんだろう…まあ、いいや。

 俺だったら、こんな理屈の通らない意味不明な説明じゃ納得しないけど、なーんも考えてない嫁達は納得したらしい。

「って事で、説明終わり。んじゃ、もふりん、行こうか」

「あ、おはなちはおわりまちたか?」

 こいつ、寝てたな?

「ふぁあ…やっと終わりましたか? では行きますか…あ、皆さん、そのままそのまま」

 カジマギーも寝てたよな? 絶対に寝てたよな!?

 俺がそこを追求しようとした瞬間、カジマギーが手をパンパンと打った。

 直後、俺の視界は暗転した。


暗転したのは俺だけでは無く、一緒にこの大陸にやって来ていた嫁ーず、ドワーフメイド衆、ユズキにユズカ、それとサラとリリアさんもだった。

 正確には暗転では無く、急に薄暗い所に転送されただけだというのに気が付いたのは、この場に目が慣れて来た頃の事。

 そう、俺が転送されたのはダンジョンの最深部で、あの王となる素体を製造していた場所であった。

 そういや、そもそも俺って、その素体ってのを見た事が無かったな…興味なかったし。

 サラやリリアさんにも、どんなのを造ったのか聞いてないし。

「トールヴァルド様、そして皆様、ようこそお出で下さりました」

 そんな事を目が慣れるまでぼんやりと考えていると、モフリーナが暗がりから姿を見せて、声を掛けて来た。

「ああ、うん。ここは…その王様とかを造ってるところかな?」

「はい、その通りです。お2人の言うところの起動? を、していおりませんので、少々暗くなっておりますが、ご容赦ください」

 どうやら、そういう訳で暗いらしい。

 そういや、アニメとかでも怪しい研究とかしてる部屋って、大概が薄暗かったな。

 でもよく考えたら、あれっておかしいよな?

 だっていくらマッドな研究してるからって、暗かったら良く分からんだろうに。

 日本の製薬会社とか研究施設とかの映像をTVとかで見たことあるけど、どっこも滅茶苦茶に明るかったぞ。

 まあ、後ろ暗いとか悪いことしてるってイメージを、分り易く視聴者に視覚的にアピールしてるって事なんだろうなあ。

 うん、真面目に考えたらだめだ。

 でも、せめてここは明るくして欲しかった。  

「色々な知識を学習させる為に、最低限の生命活動が出来る程度のエネルギーは注入しているのですが、現在素体は眠らせております。ですが、明るいと素体が目覚めてしまう恐れがございますので、この空間の証明は限界まで暗くしております事を、お詫びいたします」

 モフリーナが、丁寧に腰を折って謝罪してくれた。

 なるほどね…そういう理由ですか。

 そういや全身麻酔でも、手術室の無影灯とかの強烈な明るさで覚醒する事があるって聞いた事がある。

 全身麻酔する時には、瞼にテープを貼って開かない様にして、顔に布を被せて予防とか何とか。

 どっかのTVドラマみたいに、全身麻酔の手術中に素顔が曝される事なんて、実は嘘だって聞いたなあ。

 本当はどうだか知らんけど、これこそどうでも良い事か。

「さて、そろそろ皆様の目もこの暗さに慣れた頃合いでしょう。では、研究施設へとご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

 あ、皆の事を忘れてた。

 周囲を見回すと…全員、元気だな…黙ってはいる様だが、キョロキョロ周囲を見回してた。

 これなら問題ないか。

「って事だから、皆で行こうか」

 さ、それではゲロ吐きそうな名づけの儀に参りましょうか。

 さすがに、もう覚悟も決めたよ…はぁ… 

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