第685話  ブルブルガクガク…

「え、一泊するの? うんうん…ああ、うん、そう…了解。ゆっくりしておいで」

 もう深夜になろうかという頃合いに、メリルから通信が入った。

 どうもダンジョン大陸まで出かけて戦闘訓練をしたらしいのだが、こんな時間になってしまったそうだ。

 時差を考慮するとこちらではもう深夜なので、今夜は一泊して明日帰るとの事。

 ま、好きにしてくれたらいい。

 何泊でもしてくれて結構ですよっと。

 母さんと嫁達が居ない屋敷は、とっても静かで、俺の心も身体も超リラックス出来ている事だし。

 さ、んじゃのんびり寝るとしますかね。


「…どうもおかしいですわね…」

 通信を切ったメリルが、ぼそりと呟いた。

「何がおかしいんです?」

 それを聞きつけたミルシェがメリルに訊ねると、

「こっちで一泊するとお話ししたんですが、トール様が微妙に嬉しそうでした」

『えっ?』

 メリルの言葉に、思わず声をあげる嫁ーず。 

「もしかすると、私たちのいない間に、浮気でもしているとか…」

 マチルダが、とんでも予想をすれば、

「と、トールさまは…大丈夫だと…」

 少々不安になりながらも、トールを信じるとミレーラは言い、

「はぁっはっはっは! まだ嫁を増やすつもりか。旦那様は元気だなぁ!」

 イネスは高笑いしていた。

「イネスさん、何が元気なのです?」

 ミルシェが聞かなくても良いのに、ついつい聞いてしまうと、

「もちろん、ナニに決まってるじゃないか! これなら、もっと搾り取っても大丈夫だな!」

 声高にイネスが恐ろしい事を宣言していた。


 そして、その様子を黙って聞いていたウルリーカは、

「なるほど…と、いう事は…ヴァルナルもかしら?」

 嫁ーず全員がその声にハッと振り返ると、ドス黒いオーラを全身から立ち昇らせている鬼がそこには居た。

「ちょっと、家に連絡をしてみようかしら」

 言うが早いか、ドレスの懐から通信の呪法具を取り出して起動させたウルリーカ。

 全員が押し黙ってその様子を見守る。

 誰かが唾をごくりと飲み込んだ。

「あら、あなた…愛する妻からの通信に、随分時間が掛かったわね?」

 どうやら、ヴァルナル侯爵その人が通信に出た様だ。

「ああ、そうね…そっちは夜中だったわね。それじゃ、今はどちらに? 屋敷? 部屋で寝ている? あら、そう…それじゃコルネリアを起こして代わって下さる? え、出来ない? 何でかしら? もちろん、寝ているのは分かってますよ。コルネリアが怒ったら、私が責任を取ります。はぁ? だから、それがどうしたというのです? 今、部屋なんですよね? 2つ隣の部屋でしょう? 朝に通信? 何を馬鹿なことを言ってるのかしら? いいから、さっさと代われっていってるのよ!」

 ヴァルナルがグダグダと言っている様だが、それを一喝するウルリーカ。

「疾しい事が無いなら代われるでしょう!? 何か後ろめたい事でもあるの? 無いなら、さっさとコルネリアの部屋まで走れ!」

 とうとう、ウルリーカがブチ切れた様だ。

 さっきまで気勢をあげていた嫁ーずは、抱き合い一塊になって、ブルブルガクガク震えながらその様子を見ていた。

「あ、コルネちゃん? お父さんは何してるのかしら? お部屋まで行ってくれる? …お父さんが…ええ…良いから行ってベッドの様子を見てくれるかしら。……ええ、あらそうなのね…ええ、ええ…へぇ~~なるほど…よく分かったわ、ありがとうねコルネちゃん。それじゃお父さんに代わって」

 呪法具の先では、コルネリアがヴァルナルの部屋を見に行き、ウルリーカに詳しく報告したようだ。

「……あなた、コルネリアに聞きましたけど…今夜は誰と一緒にいたのかしら? え、1人? そう、あなたは一人で寝てベッドを乱すの? おかしいわねぇ…私と寝ているとき、ベッドが乱れる事なんて、あの時ぐらいしか記憶にないのだけれども」

 話題は段々と危険な流れになって来た。

「まさか、メイドに手をつけたりしてないでしょうね?」

 この一言は、嫁ーずだけでなく、ナディアまでも震え上がらせた。

「そう? わかりました。では、帰ってからじっくりと話をしましょう」

 それだけ言うと、ブチっと通信を切った。

 そして、にっこりと笑ったウルリーカは、一言いい放った。

「明日は早めに帰りましょうね」

 それを聞いた嫁ーずとナディアは、真っ青な顔でガタガタと震えながら、カクカクと首を縦に振る事しか出来なかった。


「な…何かもの凄い悪寒が…」

 その頃、巨大なベッドの隅っこで小さくなって寝ていたトールは、俄かに襲いきた寒気に震え、更に丸まって小さくなって寝ていた。

 この突如襲った悪寒の原因が、己の母親が元だと知ったら、きっと“おかん”だけにね…とか言ったかもしれない…。



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 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

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