第686話  史上最大の危機

 ダンジョン大陸に渡った女性陣達は、まんじりともせずその夜を過ごしていた。

 それは、怒りの為かはたまた不安の為かは定かでは無い。

 もしかすると、この後帰宅した後に旦那を倒錯的な加虐…もとい責め立てる事が出来る喜びで昂ぶっているのかもしれない。

 とにかく、その夜は悶々としたままダンジョンの塔で一夜を過ごしたのであった。


 明くる朝、ウルリーカ率いるアルテアン家の嫁軍団は、もふりんとカジマギーに会うなり、

「さあ、さっさと帰りますわよ!」

「は、はひ!」「りょ、了解しました!」

 目の下にクマを貼り付けそう迫りくる女性陣達に、思わずもふりんがちびってしまう程に怖かったそうだ。

 いや、ここだけの話だが、実はもふりんは、ちょこっとだけちびってたりした。

 もふりんとカジマギーは、実は夜を徹して女性陣の訓練の為の魔物の構成を考えたり、魔物の改良をしていたのだが、この瞬間にその努力の全てが水泡に帰したのであった。

 だが、それ以上にこの女性陣を怒らせる事の方がよっぽど危険であったため、即座にアルテアン領にある第9番ダンジョンへと無言で転移する準備を始めた。

 一体何の準備が必要なのだろうかと期間予定のメンバーが考えていると、そこへのんびりした足取りでやって来たのはサラとリリア、そしてモフリーナである。


「こちらでの作業はほぼ終わりましたので、一緒に帰らせていただきます」

 嫁軍団にそう告げたのは、リリアであった。

「待って。あなた達はホワイト・オルター号で来たのではなくって?」

 急な話ではあったが、仕事が終わったというのであれば、一緒に帰るというのは吝かではない。

 だが、リリアとサラの2人は、ホワイト・オルター号でここまで来たとウルリーカは聞いていた。

 では、あの巨大な飛行船は、いったいどうするつもりなのだろうか?

「それは私にお任せください。飛行船は、現在この塔の最上階に停泊しておりますが、私のダンジョンの最上階に送りますので、共に帰還できますよ」

 にっこり笑顔のモフリーナが、飛行船まで送り届けてくれるという。 

 なので、サラとリリアは持ち込んでいた機材を撤収しているらしい。

「なるほどね…納得しました。それで、あなた方の造っているという王様は、もう完成したの?」

 ここで、サラとリリアさんをちらりと見たウルリーカが、リリアに尋ねる。

「ええ、素体は完成しました。後はダンジョンマスターの能力で、性格や知識や能力といった細々とした事を素体にインストールするだけです」

『いんすとーる?』

 インストールという概念がない世界なので、嫁軍団には理解できなかった様だ。

「何といいますか…そう、教え込むという感じです」

『なるほどー!』

 これは理解できたようだ。

「撤収できましたよ~! さあ、帰りましょう!」

 何故かテンション高めなサラの一言で、モフリーナによって塔の天辺のホワイト・オルター号へと瞬時に移動した一同は、ぞろぞろと飛行船へと搭乗した。

 この大陸のダンジョン塔は、非常に高い。

 その高い塔の屋上から見る景色は極上で、全員がそれを愉しんでいると、最後に搭乗したモフリーナが、

「それでは行きましょう。準備はよろしいですね?」

『いいともー!』

 船内の女性陣は、口を揃えて叫んだ。

 もちろん、それを見ていたナディアが呆れていたのは言うまでもない。


 こうしてダンジョン大陸ともふりんのパンツが洗濯行きになるという、史上最大の危機は去った。

 もしも昨夜魔物の改良を頑張った事に拘り、いらぬ事を口走っていたり、少しでも一同の(主にウルリーカの)帰還の邪魔でもしようものなら、もふりんのパンツの替えは、1ダースは必要であっただろう。

 表情にこそ見せる事は無いが、カジマギーが内股になっていた所を見ると、彼女もかなりの危険領域にあったのであろう。

 もしかすると、少し決壊していたかもしれないが、それは彼女が黙して語らないため分からない。

 だが、この日の昼過ぎのダンジョン塔の屋上に2枚の幼女のパンツが干され、風にヒラヒラと靡いていた。

 誰の物かは、内緒である。



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