第662話  ホテルの名は…

 我が家の女性陣を連れて、蒸気自動車で新しくできた街道を通り抜け、やって来ました滝のほとりのホテル。


 石畳どころか、舗装したんじゃね? ってぐらいに滑らかで平らで揺れない街道を通り抜け、巨大な扉を通る。

 なんだかロダン作の地獄の門の様なそのデザインは、この先行われる人魚さんの狂乱の宴に招かれる生贄たちに、「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と語りかけている様で怖い。

 精霊さん、どこからこんなデザインを引っ張って来たんだろう…謎だ。

 門を通り抜けると、巨大な滝を一望できる崖の上に造られた、塔の様なホテルが姿を現す。


「トール様、この宿泊施設の名称は?」

 メリルに聞かれたけど、考えてない。

 どうすべか…ん~~~~…

「ホテル・ニュー大滝」

『ホテル・ニューオオタキ?』

 思い付きです。そんなに全員で声を揃えて言わないでください…恥ずかしいから。

「この景観から考えて、妥当なネーミングではないかと思います…」

 マチルダさん、本気でそう思ってる?

「ええ…す、素晴らしいネーミングかと…」

 メリルよ、その奥歯に物が挟まった様な物言いは何?

「名は体を表すと言いますし…」

 ミルシェさん、よくそんな難しい言葉を知ってたね…頭をなでなでしてあげよう。

「ぴ、ぴったり…じゃ…ない…かなぁ…っと」

 ねえ、ミレーラ。ぴったりなのか、そうじゃないのか、どっちかはっきりわかる様に言ってくれないでしょうか?

「名前なんて、所詮はお飾りよ! 地獄ホテルでもいいぐらいだぞ!」

 地獄ホテルって…イネス、それだけは無い。

「横浜プリンス「だまらっしゃい!」…えぇ~!?」

 ユズカよ、それはいけない。それだけは言ってはいけないのだ!

「はっはっはっは! 伯爵様、それってパクリですよねぇ~!」

 ユズキや、思ってても口に出してはいけない。

「素晴きやしいじゃ!」 「素晴らしきでござる!」「上等やいびーん!」「素晴げなたい!」

 ドワーフメイドさん達や…すでに何言っているのか分からないんだが…

「発想が貧困よねえ!」

 ユズカに言われると、めっちゃ悔しい…もっと考えとくんだった…


 ってな感じで、全員がホテルを見た感想を述べた後、ホテルの内覧会と相成りました。

 まだ出来立てのホヤホヤで、内装も精霊さん任せのシンプルな物だけど、ビジネスホテルもこんな感じだった気がする。

 ベッドもあるけど、全室クイーンサイズぐらいはあった。

 バスルームも各部屋にあるけど、何故か仕切りがガラス…これ、やばくね?

「ねぇねぇ、伯爵様…これってラブホ?」

「ちっがーーーう!」

 ユズカが俺の考えをストレートに言いやがったんで、即座に否定した。

 うん、ここは精霊さんに言って、要手直しだな。

「でも伯爵様、人魚さん達の使用目的を考えたら…手直しはその後の方が良くないですか?」

 ユズキの恐ろしい提案に、思わず頷いてしまう俺は、正直な奴なんじゃないかと思う。

 厨房も食堂も一応はあるし食材倉庫もあるのだが、当面倉庫は使う予定は無い。

 だって、人魚さんたちが新鮮な魚介類を、張り切って持って来るらしいから。

 敷地は広いんだから、勝手にBBQでも何でもしてくれたらいい。

 調味料と香辛料ぐらいは準備しておいてあげよう。

 どうぞ勝手に使って、勝手に食べてくださいって感じで良いと思う。

 

 その後、崖に設置された階段を降りて、河川の傍から滝を見たりもしたが、女性陣は概ね満足した様だ。

 特に滝に太陽の光が降り注ぎ、舞い散る水しぶきに虹がかかった時なんて、大喜びしてた。

 えっと、晴れてたら見れるから、そんなに珍しい物でも無いよ?

 水に手を入れてキャーキャー喜び、魚がはねたと喜び、何かに付けて嬉しそうに喜ぶ姿は、微妙に俺とユズキを呆れさせた。

 男って、こんなの見たぐらいで、そこまで喜べねえよ…。

 場所を人魚さんに伝えてたからか、階段を昇ろうとした時、川の中からひょっこり人魚さんが顔を出した。それも、10人程が。

 軽く挨拶して、ホテルまで案内してあげると、ぴょんこぴょんこと階段を器用に尾びれを使って跳ね上がった。

 ホテルの内外をしっかりチェックし、使い勝手に関して何点か改善を求められたので、例のバスルームのガラスと同時に精霊さんにお願いしようと思う。

 あ、バスルームは人魚さん絶賛してたから、そのままが良いのかな? 


 取りあえず、人魚さんとこの後の諸々の予定を確認した後、俺達はネス湖の湖畔にある屋敷へと戻る事にした。

 こっそり精霊さんに改善点を丸投げしちゃったけど、ごめんなさい。

 どうかよろしくお願いします。



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 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

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