第644話  絶対にならないけど…

 母さんに変な約束をさせられ(父さんも便乗してきたが)、最終決戦的な戦いも終わり(わりとあっさり)、お土産のダンジョンマスターとその部下と棺桶も積み込んだアルテアン一家(どこぞの極道みたいな呼び方だけど…)は、空路で本陣まで戻る事となった。


 長かった…本当に、長い戦いだった。

「トール様、お疲れですか?」

 ホワイト・オルター号をオートパイロットに切り替え、コクピットの後ろにある席へと移動した俺の顔を覗き込みながら、嫁達を代表してか、メリルがちょっと心配そうな顔で声を掛けて来た。

「ん、ああ…ちょっと疲れたかな…主に精神的な意味で…」

 それを聞いた我が嫁~ずは、口々に、

「長い戦いでしたものねえ」

 メリルが総括。

「鬼畜に堕ちた兵士のせいですね」

 確かにミルシェの言うように、居たな…全員漏れなく鬼となったミルシェが、真っ先に掃討してたよね。

「あ、あの…被害にあわれた方々が…可哀想でした…」

 確かに心優しいミレーラは、被害者を見て涙を流していたもんな。

「被害にあった国々や人々にとって、この戦争は百…いえ、億害あって一利無しでしたね」

 マチルダの言うように、戦争って結局はそういう物だよね。

 物と人を使い潰して、遺恨を残すだけのイベントだよ…マジで止めて欲しいと思う。

「ゾンビは臭いだけだったけどな! 変身してたから臭わなかったけど!」

 イネスよ、君は元気だね…いや、元気なのは良い事なんだけどもさ。


 テーブルにつくと、リリアさんがそっと俺の前にお茶を出してくれた。

「それで、この後はどうされるのですか?」

「ん? 取りあえずは、本陣も戻って報告をして、それからモフレンダとボーディを連れてダンジョン大陸かな」

 予定を訊かれたので、素直に言っておく。

「ネタの量的には、ちょっと少ないですね…ユズキと2人っきりで戦争の疲れた身体と心を癒すために風呂に入るとか…」

「しねーよ! 絶対に、しねーからな! 何だ、そのビーエル的展開は!」

 こいつ、無理やり小説のネタにしようとしてやがるな!?

「チッ! 残念です」

 舌打ちしやがったよ、このBL小説家メイドは! 

「ユズキとどうにかなるとかはおいておいて、ダンジョン大陸にはカジマギーも連れて行くんですか?」

 マチルダさん…さらっとどうにかなるとか言ってません?

 一応、俺ってあなたの旦那だよね?

「そうね…まあ、ユズキとは私達の見えない所でやってもらうとして、今はダンジョン大陸にも結構な人がいますわよね?」

 メリルも、それでいいのか!? 見えない所で、ユズキとどうにかなっても良いのか? 

 いや、ならないけど…絶対にならないけど…。

「確か、ダンジョン大陸で建国する…でしたか?」

 ミルシェ、つっこめよ! 

「うむ、傀儡の王を置くつもりだと聞いていたが、旦那さまよ…誰にするつもりなのだ?」

 イネスも、そこにだけしか注視しないの? 俺の貞操はどうでもいいのか?

「あの…トールさまって、男色の気がありました…っけ?」

「無いから! ミレーラ、何言ってくれちゃってるの!? おーーーーい、ユズキーーー! 何とか言ってくれーーー!」

 最後の最後にミレーラが素朴な疑問を呈してくれたんで、俺はユズキに助けを求めた…んだが…。

「えっ? 伯爵様が、僕を? いや、まあ…どうお答えすれば良いのか…いえ、もしかして求めに応えたらいいんですか?」

「応えるなーーーー! 求めてねーーーからーーーーーーーー!」

 背後で黙って控えていたはずのリリアさんが、何やらもの凄い勢いでメモを取っていたのを俺は見逃さなかった。

 あれは、きっとこの会話までもネタにし、更に嫁達との7角…いや、ユズカも入れて8角関係の物語のプロットでも練っているのだろう…滅茶苦茶真剣な顔でペンを走らせていた。


 これ以上この話題を続けると、色々と危険な気がしたんで、俺の必殺技、話題転換だ!

「んん、ゴホン! ダンジョン大陸での建国に関しては、色々と考えもあるんだが…出来るならば、モフリーナ、モフレンダ、ボーディによる3国同時建国としたいと思っている」

『3国同時建国?』

 全員が小首を傾げる大提案だ。

「そう。各ダンジョンマスターに、その力でもって傀儡の王を造ってもらい、国のトップに据える。それならば国同士で争う事も無くなるだろうし、最初からある程度の国民がいればダンジョンもダンジョンマスターも潤うだろう?」

『なるほど!』

 ふっふっふ…全員が納得顔だな。

「それにダンジョンの機能を使って、こっちの大陸にも新たなダンジョンを創ってもらう予定だ」

「モフリーナにもですか?」

 疑問の声は、イネスか?

「そうだ。そこは低階層で敵も出ない完全なダミーにする。新ダンジョンに入ったら、ダンジョン大陸に転移するだけのね」

「あ! 前に聞いた気がします」

 ミルシェがそんな事を言う。

「言ったかな? 言ったかもしれないな。もちろん、各人のダンジョンからダンジョンへと転移させるわけだけど、中には質の悪いのもいるだろうから、そいつらに関しては各ダンジョンマスターの判断で、ぴちゅん! ってしてもらう予定だ」

『ぴちゅん?』

 ナニソレ? 的な顔で、皆が俺を見るから、

「こうだ!」

 右手を握り、親指を立てて…自分の首を左から右に…つまり、物理的にこの世とおさらばね。

『ああ、なるほど!』

 納得してくれた様で、よかったよかった。

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