第632話  可能なのじゃ!

「気色悪いやっちゃのぉ…」

 テスカトリポカを一目見たボーディが、思いっきり毒を吐いた。

 うん、俺もそう思う。あれは、夢にまで出てくる奴だ。

 夜中にトイレに行けなくなるぐらい、気色悪い。

 無数の目は、焦点が何処にあってるのか、何を見てるのか全然わからん。

「マジ、キショ!」

 サラの一言は、俺の心の声を代弁する物だ。


 その後、それぞれがテスカトリポカを見た感想を口々に述べると、アレの戦闘力について喧々諤々討論し始めた。

 まあ、あいつが結界を破れないってのは、元のヒルコの特性というか能力というか、それに準じているようだが。

「テスカトリポカは、ヒルコが凝縮された物とは違う様ですね」

 ナディアの分析では、こうだ。

 ヒルコとして持っていた体積と重量と比較すると、非常に小さくなっている。

 単に体積だけが小さくなり、重量はそのままという凝縮と違って、体積に従い重量も比例して減少している。

 それは足元の地面が人が立っている時と変わらず、足型に沈んだりしていない事で判断できる。

 無数の目は、それぞれが視界を有していると思われる。

 思考形態と傾向は現在では窺い知る事は出来ない。

 サラ曰く、神の力を取り込んでいる可能性があるという点については、一旦保留。

 物理的な攻撃力は、結界を破る事が出来ない(その様子が無い)事から、そう高くは無いと予想。

 何らかの不思議パワーで攻撃してくる可能性はあるが、その可能性と手段は現在は不明。

 取り込まれた寄生虫や人々はもはや分離は不可能と考えられる。

 よしんば切り離せたとして、寄生虫がどうなっているのか…更なる寄生をするのか…一切不明。

 こういった細かい観察と考察結果が、ナディアから告げられた。


「なる程のぉ…それで、お主はあ奴をどうしたいのじゃ?」

 黙ってナディアの話を聞いていたボーディが俺に訊ねる。

「ん? そりゃ、宇宙の彼方に放り出すか、灰燼に帰すまでよ」

 あんな奴に居座られたら、この星の未来なんて真っ暗闇だろ?

「ふむ…で、あるか。ならば、小難しく考える事もあるまい」

 ん?

「「「「「「ん(え)?」」」」」」

 俺同様、サラ、リリアさん、ナディア、アーデ、アーム、アーフェンが一斉にボーディを見た。

「小難しく…って、まさか簡単に倒せるのか?」

「簡単ではなかろうが、方法が無いわけでもないのぉ」

 真面目な顔で、ボーディは腕を組んで目を閉じる。

「貴女はアレに対処する方法を知っていると言うのですか?」

 思わずと言った感じで、リリアさんが語りかける。

「対処方法はあるのじゃ。とは言っても、完全に消滅させることは難しいがの。精々、数千年ほど封印するぐらいかのぉ」

「「「「「「「おぉ!」」」」」」」

 その言葉に、この場の全員が感嘆の声をあげた。

「いや、お主等…何でこんな簡単な事を思いつかんのじゃ?」

 クソ金髪ロリ女に馬鹿にされた…

「簡単…ですか?」

 ナディアが若干不満そうだ。

「そうじゃ、簡単じゃ。お主等は、あ奴を滅しようとするから難しいのじゃ。むしろ封じ込める方向で何故作戦を練らぬのか、妾には不思議でたまらぬ」

 まるでアホの子を見る様な目でナディアを見つめるボーディ。

 確かに言われてみれば、あいつを殺す事に必死になりすぎて、封印とか考えて無かった。

「妾の考えた作戦はこうじゃ。まず、あ奴を閉じ込めておる結界を、極限まで小さくする」

 ん~?

「小さくって、具体的には?」

「あ奴が身動きとれぬぐらいの大きさで良いのじゃ」

 って事は、直径1mぐらいまでの球体にすればOKかな?

「次に、あ奴のおる場所を妾の支配下に置くのじゃ」

 まあ、それは元々予定していた事だし、問題は無いかな。 

「そして、妾に十分なダンジョン拡張用のエネルギーを渡すのじゃ」

「ああ、別にそれは良いけど…どれぐらい必要なんだ?」

 俺のエネルギー全部とか言われたら困るけど…

「別にそんな大したエネルギーは必要ないから、そう警戒せんでも良い。精々、縦に細く長くダンジョンを1階層造るだけじゃからの」

 縦に長いダンジョン1階層? どういう事だ?

「わかり難いかのぉ…どう表現すればよいか…あ、そうじゃ! 井戸を思い浮かべてみい!」

 お、井戸…井戸か! なるほど、極端に天井が高い1階層の部屋って、そういう事か! 深井戸を造る…って、それがダンジョンになるのか?

「分ったみたいじゃな。そこにあ奴を封じた結界ごと落とすのじゃ!」

 深い井戸に落とすって、将来出てきたりしないかな? どっかの呪いのビデオみたいに…爪が剥がれて…思い出したくねぇ!

「底まで落としたら、妾が蓋をする。ダンジョンの壁という特殊な素材での」

 なるほど!

「なるほど、確かにそれなら封印は可能かもしれません」

 モフリーナもそう考えた様だ。

「可能なのかもではなく、可能なのじゃ! 妾のダンジョンは、地下迷路型じゃ。真下に伸ばす事も生きて出れ無くする事も造作無い事なのじゃ!」

 迷路型? 迷宮とは違うんだ…

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