第621話  ズボンを履こう

 さてさて、それでは皇都をちゃっちゃと攻略しましょうかね。


 翌朝、いつもの様に? 夜明けと共にホワイト・オルター号の前に集合した。

 そして、ここで重大発表だ!

「では、予定をまたまた変更して皇都をさっさと攻略し、ダンジョンマスターを助け出しましょう。っと、その前に、父さん、母さん、サラ、リリアさん…前に」

 今までは留守番チームだった4人を呼び出す。

「今まではあの蟲による寄生問題があったため、皇都戦線は外れてもらっていましたが、太陽神様と月神様より神器をお借りいたしましたので、皆様に今回だけですが貸与いたします」

 父さんの目が見開かれ、母さんは表情こそ変わらないものの、目が期待で満ち満ちていた。

 サラとリリアさんは、何が起こるか知っているので、特にリアクション無し。

「まずは、船首の方へ…」

 そう言って、俺が飛行船の船首へと向かうと、皆がぞろぞろと着いて来た。

 飛行船の構造上、船首まで到着しても、飛行船本体の先端は見上げる程に高い。

「では…神々の聖なる力を今ここに…カモン・ウルスラグナ!」

 別に呼ばなくても、頭の中で指示すればいいんだけど、雰囲気ね、雰囲気。

 俺の声が響き渡ると、滑らかな曲線を描いていた飛行船の先端の左右がガチャン! と音を立てて開く。

 いつもなら、ここから太陽神と月神の巨大フィギュアがアームに支えられて出てくるんだが、本日はちょっと違う。

 全員が見守る中、アームに支えられて出てきたのは、軽自動車を縦にしたぐらいのボディーを持つ、高性能バトルスーツだ。

 それがまずは2体外に突き出されると、クレーンの様に釣り下げられて降ろされた。

 2体を降ろしたアームが収納されると、すぐにもう2体が表に出される。

 先の2体から少し離れた所にもう2体が降ろされ、合計4体の白をベースに各所が赤く塗られたウルスラグナが、朝日の降り注ぐ中、燦然と俺達を見下ろした。

 

「トール…これは…?」

 父さんが思わずと言った感じで、俺に訊ねる。

「これは、人外の膂力を持って敵を討つ、神器ウルスラグナ。父さん、母さん、サラにリリアさんは、変身できないから、神様よりお借りした、神の鎧だよ」

 ウルスラグナの1体に近づき、足の付け根に近い部分に引っ掛けられていたヘッドギアを手に取る。

「これを登場する4人には付けて貰います。操縦方法は、このヘッドギアが導いてくれるので、難しくは無いよ」

 俺は手にしていたヘッドギアを父さんに、ぽいっと投げ渡した。

 お約束通りのお手玉などする事も無く、父さんはしっかりとそれを受け取った。

「さあ、付けてみて」

「……」

 にこやかにそう言うと、父さんは恐る恐ると言った感じで、ゆっくりとそれを被った。

「!?」

 付けた途端、父さんが驚いた顔をしているが…多分、説明が始まったんだろうな。

「このヘッドセットは、被ると簡単な操作説明を脳に焼き付けるんだ。別に痛みは無いよ。そして…」

 父さんは、ウルスラグナを睨み、

「ハッチ・オープン」 

 昨夜の俺の様に、ウルスラグナに命じると、機体はゆっくりと膝を折った。

 機体の背部が左右にゆっくりと分かれ、コックピットが現れると、物も言わずに、父さんはウルスラグナに乗り込んだ。

 多分、今頃は起動準備中なんだろうな…って考えていると、武骨なヘルムのような頭部にあるカメラ・アイが、光り出した。

 う~~ん…カメラは光る必要ないよなあ…でも、格好いいから良しとしよう。

 次いで、ゆっくりとウルスラグナが立ち上がり、ぶぅぅぅぅん…と微かな駆動音が聞こえた。

 ん?? 音なんてするんだ…管理局の不思議動力だから、音なんてしないと思ってたし、昨日も聞こえなかったけどなあ。

 立ち上がったウルスラグナは、身体を左右に振ったり、手を上げ下げ、にぎにぎしたり、足をふみふみ、じたばた。

 やがて一通りの動作確認が出来たのか、父さんが右手を挙げて合図した…って、何の合図なんだろ?


 ここまでの一連の流れをじっと見つめていた母さんは、瞬間移動かと思う程の速度で俺の前にやって来て、

「トールちゃん、あれはあの人が動かしているのよね?」

 がっしりと両肩を掴んで、真剣な顔で俺に詰め寄る。

「う、うん…もちろん」

「お母さんも乗れるのよね? ね?」

 滅茶苦茶ガクガク揺らされた。

「も、も…ちろ…ん…だよ…」

 すると、ガクガクがピタッと止まり、

「そう…そうなのね…」

 何がそうなのか分からないが、母さんが遠い目をしながら、残るウルスラグナを見つめていた。

「それじゃ早速…「ちょっと待った!」…乗り…ナニカシラ、トールチャン?」

 いきなり引き留めたからか、振り返って俺を見る母さんの目が怖い…いや、逝っちゃってる…

「母さん、それドレスだよね? 取りあえず、ズボンを履こう」

 母さんのスカートを指さしてそう言うと、

「…確かにそうね。でも、トールちゃん、何で最初からズボンを履いて来るように言わなかったの?」

 いや、忘れててとか、驚かそうと思って…とか言える雰囲気じゃない。

「ごめんなさい! ついさっきなんですよ、神様からのお言葉があったのは! その証拠に、サラもリリアさんもメイド服でしょ?」

 2人はメイド服で乗り込むつもりだったんだろうか? 分ってたはずなのに…でも丁度いい。

「決して意地悪しようとかじゃないから! だから、着替えて来て、3人共!」

 俺の必死の説得? 言いわけ? に、何とか納得してくれた母さんは、お着換えに急いで戻る事になりました。

 もちろん、サラもリリアさんも、一緒に。


*新作始めました。


断罪の刃  闇を照らす陽の如く

https://kakuyomu.jp/works/16816927861644288297

 良かったら、読んでみてください。

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