第596話 あ、はい…
「僕達も、確かに見ました。あれはブ〇ブです!」
ユズキが、やたらと力強く主張した。
ブロ〇って、どっかで聞いた事ある名前だなあ…どこだっけ?
「もう、柚希! それじゃ分からないでしょ! あれは、赤いマシ〇マロマンなのよ!」
赤いマシュ〇ロマン?
「お2人共、固有名称を出されるのはよろしいのですが、それではまったく説明になっていません」
アームが困った様に注意をすると、
「あ、そうか…えっと、伯爵様。僕達が見たのは、真っ赤な超巨大なスライムっぽい生き物です」
ユズキの説明に、ユズカも頷き同意する。
「巨大スライム…なるほど、何となく読めて来たぞ」
皇都から逃げ出した住人は、そのスライムに捕食された可能性が高い。
中にはゾンビ化する前の人も居ただろう。
それらの人が捕食されて消化される前にゾンビ蟲が孵化して、何らかの方法で身を守り、やがてスライムを乗っ取った。
もしくは、直接ゾンビを捕食したのかももしれないが…とにかく、数万人は捕食したとみていいんじゃないだろうか、そいつは。
そしてどんどん巨大化した…って、
「巨大ってどれぐらいの大きさなんだ?」
思わず確認の為にユズキに聞いてみた。
「私は全部を見たわけではありませんが…少なくとも、トール様の御屋敷の敷地に匹敵する直径で、高さはお屋敷の鐘楼ぐらいはあるかと…地面に埋まってる部分があるなら、もっと大きいかもしれません」
メートルを使わないのは、この世界の人の為かな?
俺の屋敷の敷地の直径っていえば、少なくとも70~100mぐらいは有ったと思う。
屋敷で一番高い鐘楼と言えば、確か30m近かったはずだ。
遠方から見ただけだと、正確な大きさなんて測れないだろう。
ましてや、赤一色の不定形生物だと、尚更正確な大きさは把握できないと思う。
こりゃ、下手したらネス湖ぐらいのスライムを相手にする事になるかもしれんな。
「ところでユズキ…〇ロブって、宇宙から来た奴?」
小声でユズキに確認してみた。
「そうですよ、宇宙からの不〇物体です」
こいつ、よくこんなクッソ古い洋画を知ってるなあ…
「あのスティ〇ブ・マックイーンの出てる映画だろ? 俺もTVでしか見た事ないぞ…」
「いえ、僕がDVDで見たのは、それのリメイク版ですよ」
ユズキに、妙に細かい点を指摘された…いや、リメイクだと細かくは無いのか?
だが、それなら俺も指摘しよう。
「そうか、なるほどな…だが、ユズキよ…〇ロブはアメーバーだぞ?」
「!!!」
目を見開くユズキに追撃。
「スライムとは違うのだよ、スライムとは」
「えっと、伯爵様? スライムって、本当は生物じゃ無いですからね? 半固形のどろどろぬめぬめの物体の事ですからね?」
ん?
「だから生物を表すなら、スライムって表現は不適当で、アメーバーが正解ですからね? 例えでスライムと言っているだけで、スライムとは思ってませんよ?」
んん?
「まさか、時代はスライムだ! とか言ってないですよね? 玉ねぎ型のスライムが魔物として一躍世に出たのは、ドラ〇エですから、完全に空想上の生物ですよ? この世界には存在している様ですけど、不定形生物を何でもかんでもスライム扱いするのは駄目ですからね。注意してください」
……知らなんだ。
時代は! って、俺も言ってた気がする…。
「私は誰にでもわかりやすい表現として、スライムと言っているだけなんですよ?」
俺って、馬鹿だと思われてたのか…。
「概念としてのスライムであれば超万能に感じるでしょうが、そもそもゲームじゃないんですから、ビギナー向けのモンスターじゃないって事をよく考えて下さい。そもそもですね、魔物である時点で……」
「ごめんなさい! 生意気言ってました、許してください!」
ユズキ…スライムに恨みでもあるのか? ってか、マニアックすぎるだろ!
こいつに魔物を語らせるのは止めよう…
「まあ、理解してくれたのでしたら、良いです。大体、異世界物と言ったら、ゲーム世界の魔物や武器とかステータスだのを基準にした物ばかりで、イライラするんですよね。誰かの創作とか過去に流行った物を勝手に取り入れて好き勝手に敬語と丁寧語の使い分けすらできない奴が書いた駄文並べてるだけで書籍化とかコミカライズとかとどめにアニメ化だとかふざけんなと言いたくなりますよね。そう思うでしょ、伯爵様も!」
「あ、はい…」
どうしたんだ、ユズキの奴?
「追放されたら能力覚醒して無双しまくってハーレム作ってざまあとか都合よすぎでしょう! ですよね!?」
「う、うん…」
俺もそう思うけど…
俺のすぐ横までやって来たユズカが、何やら小声で耳打ちして来た。
「…伯爵さま、伯爵さま…柚希ね、日本にいた時、ネットに小説投稿してたの…」
「ん、何だユズカ…え、ユズキが投稿?」
おお、意外な事実。
「それで、ユズキは何かの賞の選考で落ちて、ベタな内容の小説が優秀賞とか取って書籍化されたのよ…」
「ああ、なるほど…それでアレか…」
「うん、アレなの…」
「読者は分かりやすいチーレム物か追放ざまあを求めてるから世の中そんなのであふれかえるんです! 僕は独自路線を追及するんです! 例え読者が1桁であろうとも、熱心に読んでくれる読者がいる限り!」
ユズキが天に向かって吠えていた。
いや、その気持ち、もの凄くわかるよ…わかるけど…。
ユズキ…不憫な子…。
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