第590話 俺、完全、復活!
俺の心は深く傷ついた…それはそれは傷ついた…お家に帰って枕を濡らしたい…。
だが皇都突入メンバー達が、そんな傷つき落ち込んだ俺を、そっとしておいてくれるはずも無く…。
「さあ、トール様。行きましょう!」
元気にメリルがそう言うと、
「私の見立てでは、この皇都のゾンビを完全殲滅するまでには、少なくとも3日ほど掛かるかと」
「なる程な。では、3日間、斬って斬って斬りまくればいいのか?」
マチルダとイネスは妙に張り切って、俺の両手を取って引っ張ろうとする。
「伯爵様! さっと行って、ガンガンぶっ飛ばしましょう!」
「柚夏…張り切り過ぎは駄目だよ? そんなに意気込んだら、思わぬ落とし穴にはまるかもしれないからね」
「その時は、愛する妻をちゃんとフォローしてくれるんでしょう、柚希?」
「そりゃ、もちろんだけど…」
「柚希…」
「柚夏…」
馬鹿カップルは、時と場所を弁えず、いちゃいちゃ始めるし…けっ!
「おねえちゃん、あのふらふらしてるのを、えいやっ! って、けったらいいの?」
「そうよ、ユリアちゃん。でもね、お姉ちゃんの言う事をちゃんと聞かないと駄目よ?」
「は~い!」
そして、妹達は…妹達は…やっぱ最高に可愛いな! 天使じゃん! ダブル天使ちゃん、ここに降臨!
ああ…変身した二人も…尊い…
「トール様、お鼻の下が伸びてませんか?」
ミルシェちゃんの、微妙に呆れた様なニュアンス含みの言葉に、
「さっき…コルネさんとユリアさんに視線を向けてましたから…きっと変な…妄想を膨らませていたんだと…」
俺に対する、ミレーラの偏見に満ちた解説が辛い。
いや、待てよ? 変身してるのに、何で俺の鼻の下の長さが分かるんだ?
何で、俺の視線が分かるんだ?
「「表情が見えなくても、全部お見通しです!」」
一言もしゃべってないのに…妻達の謎能力が怖い…
こんな感じで、落ち込む暇も与えてくれないのだ。
しかも、ホワイト・オルター号の前では、巨乳ネコ耳ダンジョンマスターのモフリーナの揺れる巨峰をニタニタしながら見ていた父さんに、母さん必殺の垂直落下式ブレーンバスターが極まったり、それを見ていたモフリーナが呆れたり、モフレンダの目が何故か潤んでいたり。
今回、お留守番のブレンダーとクイーンが、頭から地面に突き刺さった父さんをつんつんしたり、その横では喜々として鞭(女王様仕様)を取り出して素振りを始めるリリアさんが居たり…あれ? サラは? あ、タラップに座って寝てる…。
我が家のメンバーは、どんな時でも新〇劇だなあ。
こんなだから、俺は落ち込む事も悩む事もあんまり出来ないんだよね。
悲しみも苦しさも怒りも、全部長く続かないのは、きっと家族のおかげだろう。
だからこそ、俺はこの世界で精神的に病んだりしないのかもしれないな。
うん、立ち直った! 俺、完全、復活!
ならば、やる事は1つだ。
「よし、出発だ!」
変身したメンバーと、妖精達を引き連れて、胸をはって皇都に向かって、俺は歩き出した。
『はあ…出発まで、時間かかりすぎ!』
…サラ、さっきまで寝て無かったか?
『そりゃ寝るでしょう。いつまでもグダグダと、何をやってるんだか』
ぐっ…
『大体、ウジウジと女々しいんですよ、大河さんは! 悩んだ所でヤル事は変わらんでしょうに!』
あ、はい…ごめんなさい。
『さっさとゾンビを片付けてこーい!』
はいっ! すぐに行ってきます!
サラに怒られた…
皇都に向かう俺が、チラッと背後を振りかえり見たのは、ユリアちゃん。
ユリアーネ・デ・アルテアンとなって、我が家に迎えた5人目の家族。
彼女は、実は特別な女の子。
ナディアたち妖精族の身体をベースに、恐怖の大王の因子を身に宿した転移者の遺伝子をハイブリッドした、この世で最も進化したボディーを持っている。
俺の中に渦巻く超巨大なエネルギー程ではないが、この世界の人とは比較にならない程のエネルギーをその身に宿し、変身などしなくとも、ナディア達妖精族同様にシールドを展開する事が出来る。
今は変身しなければ展開できないが…それでも訓練次第では、いつか出来るだろう。
もちろん、その全てのエネルギーを全開にしたら、周囲への被害がとんでもない事になるので、封印はしている。
封印はしているが、末恐ろしいボディーを創ったもんだ。
そもそも、元が恐怖の大王の因子を宿していて、なお普通に生活できるほどのメンタルの持ち主。
ゾンビどころか人を殴り倒したところで、その強いメンタルにはびくともしない。
俺にもそのメンタルを分けて欲しい。
いや、それよりも、ユリアちゃんの様に、俺もエネルギーを直接何かに使える様になりたい!
ガチャ玉を使うためにしか使えないエネルギーって何だよ!
局長! 俺ってチートキャラじゃ無かったのかよ!
『しつこいですねぇ…だったら、好きにエネルギー変換玉を使いまくって、色んな物を創りまくったらいいじゃないですか』
サラの言う様に、何でもかんでも創ってたら、この世界のバランスが崩れるだろうが!
『ヘタレなメンタルだけは、前世から引き継いでるんですね』
………。
そうだ! だったら、こんなのどうだろう?
『んん? どんなのですか?』
ごにょごにょごにょ…は、この世界にあるから、それを俺でも使える様に…
『ほう?』
んでもって、ごにょごにょごにょは、俺のイメージで…
『おぉ? なかなか面白いんじゃないですか?』
だろだろ? あ、でもどんな形がいいのかなあ…
『そこはホレ、獅子〇瞳とか』
マテコラ! 獅子座L7〇星からやってきた来た、正義の紅い巨人の指輪だよな?
それって絶対にレオ〇ングの事だよな!?
『きっとピンチになったら、双子の弟が助けに来てくれますよ?』
アス〇ラだよな? それは間違いなく、ア〇トラだよな?
『何でピンチの時だけなんでしょうねえ~? 普段から一緒に居ればピンチになんてならないのに…兄でさえ、普段はどこで何をしているのか知らないなんて、困った放蕩王子ですよねえ~』
いいんだよ! そういう設定なんだよ!
ドラマを盛り上げる為の演出なんだよ!
『でも、皆がそう思ってたから、あんまり盛り上がりませんでしたよね?』
……そ、そんなことは無い…ぞ?
『子供だましの演出に引っかかってたんですね…』
…………うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます