第587話  意外と面倒くさい

 各自、明日の為にしっかりと休息を取る事にした俺達は、簡単な作戦というかフォーメーションの確認をしていた。


 基本的には、恐怖の大王戦と同じ方式で、皇都中のゾンビ擬きを殲滅する予定だったのだが…あれ?

『もしも~し! モフリーナ?』

 通信の呪法具で、モフリーナに訊き忘れていたことを確認した。

『はい、どうかされましたか?』

 うん、いつもの聞きなれたネコミミお姉さんの声だ。

『いやね…あのゾンビって、ダンジョンの蟲が寄生してるけど、モフリーナの領域で倒したら、もしかしてエネルギー回収できるの?』

『出来ませんよ』

 もしかしたら…程度だったから、駄目と言われても気落ちしないけど…どうして出来ないんだろ?

『そもそもあの蟲がダンジョン産ですし、エネルギーはあの蟲に吸い尽されてます。他のダンジョン産の蟲を私のダンジョンで倒しても、何も手に入りません。もしもそんな事がまかり通ってしまったら、ダンジョン同士での争いが起きてしまいます』

 あ、なるほどね。

『ですので、他のダンジョンの魔物とは戦いません』

 つまり、ラノベ的なダンジョン同士での戦争とかは、やっても無駄だからしないってスタンスなのね。

『そっか、了解した。忙しいのにつまらない事を聞いてごめんね』

『いえいえ。それよりも、トールヴァルド様のご領地の方々がダンジョンに持ち込んでこられた油ですが、そちらにお持ちするのは…明日の朝一番でよろしいでしょうか?』

 おう、そう言えばドワーフメイドさんに連絡して、油を大至急集めてダンジョンの入り口に運んでもらってたんだった。

『ああ、それで大丈夫。出来るだけ皇都の近くのダンジョン領域に持って行ってくれるとありがたいかな』

 遠くから油を運ぶのは面倒だ。

『はい、お任せください。では、明朝に油を持って戻ります』

『了解』


 ふう…これで必要な物資の目途は付いたな。

 我が家のメンバーが、あんな動きのとろいゾンビにどうこうされる訳も無いけど、とにかく皇都中を隈なく叩きに行かなきゃならないから、それが面倒だな。

『大河さん、何で一気に秘密兵器の神の一撃で殲滅しないんですか?』

 あ~…うん、そう思うよね。

『ええ。だって、サンライト・ハンマーとかミーティア・キャノンで一瞬で終わるじゃないですか。精霊さんの怒りの一撃でも、ダンジョンボスの超強力ブレスでもいいですけど、何も手間暇かけなくても良いと思うんですが?』

 だよねえ。

 でも、大きな問題があるんだよ。

『問題?』

 そ、問題。

 ダンジョンがあの皇都の地下にある事がな。

『それの何処に問題が?』

 えっとな…まずは、ダンジョンの強度が不明な事が問題。

 神の一撃は強力だけど、どんだけ調整したらダンジョンを壊さずゾンビを消せるか分からないんだよ。

『はぁ…?』

 んで、ダンジョンを壊さない様にゾンビだけを倒すのは、さっきサラがあげた様な攻撃だと難しいんだ。 

『なるほど…攻撃力があるのも考え物なのですね』

 まあな。


 んで、ゾンビとは言っても、まだ皇都の住民扱いというか、現在の皇都はゾンビの支配領域化らしいのも問題。

『ん? ゾンビが支配?』

 憶えてるか? あの蟲が皇都の住民のエネルギーを吸い尽したって事を。

『ええ、そりゃまあ…』

 つまり、皇都の住民のエネルギーは、あの蟲が持ってるって事なんだ。

『そう…なるのでしょうね?』

 人から蟲へとエネルギーは吸われて移ったんだが、同時に皇都の支配権も蟲に移った様に見えるよな。

 だって、ゾンビは蟲の支配下にあって、蟲はゾンビの腹の中にいるんだから。

『ええ。ダンジョン生まれの蟲が支配権を持ってるんだから、皇都はダンジョンの領域下にあるのでは?』

 ところが、そうじゃないんだよ。

『ふぇ?』

 モフリーナの分析では、蟲自体は支配権を持つ人に寄生し、ゾンビ化した。

『そうですね』

 蟲が人からエネルギーと共に吸った様に見える支配権だけど、実はあのゾンビ…厳密には、まだ分類上は人なんだそうだ。

 つまり、現在は人からゾンビへと、皇都の支配権が変わっただけなんだよ。

『なんで!?』

 俺も良く分からなかったんだが、どっかのラノベ的な鑑定とかのスキルがあれば、あのゾンビは、【ダンジョン産の蟲の幼虫が寄生した…皇都の人】 なんだと。

 俺達には生ける屍にしか見えないが、心臓も脳の一部も生きてるんだと。

 ダンジョンのルール的には、支配権を持っている人は、まだ死んでないらしいぞ。

『はぁ~? んじゃ、あのゾンビをモフリーナでもモフレンダでも、ダンジョンの養分にしちゃえば良いのでは?』

 俺もそう思って確認を取ったのだが、他のダンジョンの魔物は倒しても利益にならないし、そもそも戦わないらしい。

 モフリーナやモフレンダ的に、宿主が養分となり得る人であっても、腹の中に飼ってる蟲は他のダンジョン生まれの魔物。

 ゾンビを倒す=他のダンジョン生まれの魔物を倒すって事になりかね無くて、ダンジョンのルールに抵触する恐れがあるんだと。

『なるほどねえ…ダンジョンには、意外と面倒くさいルールがあるんですねえ』

 だなぁ。

 まあ、どういった線引きなのか、俺的には全く理解できないんだが。


『んで、結論は?』

 仕方が無いので、皇都中のあのゾンビをちまちま倒して、殲滅出来たらダンジョンを探して掘り起こす。

 その後、皇都の外までなんとかダンジョンを移して、それから皇都をこの世から消し去る。

 どこに蟲の卵とかあるか分からないから、塵一つ残さずな。

 まあ、助け出したダンジョンマスターが話を聞いてくれて、こちらに素直に従ってくれるのが大前提だけど。

『ふむふむ…助け出したダンジョンマスターが、あの蟲を消したり出来ないんですか?』

 出来るかどうか分からんからなあ…そんな不確定なものに賭けるなんて出来ん。

 確実な方法で始末をつけたいんだよ。

『な~るほど、ザ・ワ〇ルドですね』

 無理やり話にネタを入れようとすな!

 あ、それともう一つ。

『ほぇ?』

 あのゾンビが生きてるって事は内緒な。

 生きてるなんて知ったら、きっと嫁達も妹達も、全員が何とか治せないかとか言い出しかねないからな。

『あぁ…なるほど。でも、本当に治らないんですか?』

 モフレンダ曰く、間違いなく治らないらしい。

 だから、このまま黙って殲滅する。

『はぁ…』

 その方が、いい。

 俺だけが罪という重荷を背負えばいい。

『大河さん、男前ですね! ま、私は黙っておきますよ』

 頼んだぜ、相棒。

『あいあい』

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