第580話  男の性です

 まさか、予想だにしない場所に、ダンジョン入り口があった。

 

「お、汚水の下…ですか?」

 うん、モフリーナの考えている事もわかる。

 ばっちいよね。

「…あ…もしか…して…」

 モフレンダが喋った!

 俺が一瞬モフレンダに注目したと思ったら、またまたモフリーナの陰に隠れた。

 そして、モフリーナにまたもやゴニョゴニョ…

「え、本当ですか?」

 モフレンダの言葉に、驚くモフリーナ。

 何だ何だ?

 俺がじっと見ている事を思い出したのか、恥ずかしそうに咳ばらいを一つした後、

「トールヴァルド様。どうやら、その汚水の下にあるのは…最初のダンジョン…つまり、第一番ダンジョンの様です」

「へっ?」

 第一番? 一番最初に生れたダンジョン?

「私達の、兄姉にあたる存在が、ダンジョンマスターとして存在しているはずです」

 そう言うモフリーナの後ろから、顔半分だけ出したモフレンダが激しく頷く。

 おいおいおいおい! 

 モフレンダだけでなく、もう一人のダンジョンマスターかよ。

 次いで、モフレンダが、また何かこしょこしょとモフリーナに囁くと、モフリーナは意を決した様な顔で、俺に告げた。

「モフレンダが言うには、最古のダンジョンの様ですけれど、モフレンダのダンジョンの様に、また生れたままの姿のダンジョンなのではないかと」

 またっすか! モフレンダのダンジョンと同じ境遇っすか!

 この大陸で生き残ってるダンジョンの、半分が生れたままの姿でまったく活動してないってって…どうなのよ、管理局?

「お願いします。第一番ダンジョンのマスターを助けてあげて下さい」

 そりゃ、エネルギー回収の為に動いてないダンジョンが有るんだから、万年エネルギー欠乏症になってもおかしくないわな、管理局さんよ…

 さて、どうすっかなあ…。 


 この戦争でいきなり2人もダンジョンマスターの知り合いが出来るとか、どんなイベントなんだよ、この戦争は。

 ってか、助けるって、どうやって助けるの?

 汚水の中とか、入るの嫌なんだけど…俺。

 そもそも、顔だけじゃ無く名前すら知らないわけだし。

 あれ? もしかして…

「モフリーナは、その第一番ダンジョンのマスターの名前とか知ってるの?」

「いえ、知りません」

 駄目じゃん! 

 そのマスターが良い人…人なのか? どうか分かんないじゃん!

 知らない人を簡単に信用しちゃ、いけませんって習わなかったのか?

「それでも、同じ神によってこの地に遣わされた仲間である事には変わりません。人の手によって踏破されたのであれば、それは使命でもあるので仕方のない事ですが、どうやら違う様ですし。どうか、ダンジョンマスターとしての使命を果たさせるためにも、お手をお貸しください」

 あ、ダンジョンでエネルギーを得るのって、使命なんだ。

 俺がガチャ玉使うのと一緒って事か?

 そりゃまあ、ダンジョンの神様ってのも管理局員なんだし、形は違えどやる事は同じってか。

 どうすべかなあ…


「…駄目ですか?」

 くっ! それは反則だろう!

 モフリーナが、胸の前で手を組んで、潤んだ瞳で俺を見つめて…

 しかも、めっちゃ胸挟んでる!

 ただでさえ巨乳なのに、強調されまくってるぞ!

 あざとい! あまりにも、あざとい!

 でも、嫌いじゃない!

 背中に、鋼鉄製で先端が鋭い、もの凄くぶっとい針を突き付けられたような気がして振りかえると、嫁達が冷めた目で睨んでいた。

 いや、見てませんから! 巨乳なんて凝視してません…よ?

 これは男の性でして…ごめんなさい。

 きっと、同じ様に見てたんだろう。

 憐れ、父さんは、すでに母さんの卍固めを受けていた。

 しかもコルネちゃんとユリアちゃんの氷柱の視線付きで。

 

 嫁達と妹達が怖いので、さっさと会談を切り上げねば! 

「わ、わかった…何とかしよう」

 そう答えると、モフリーナは、パッと花が咲いたような笑顔になり、

「有難うございます! 有難うございます!」

 こめつきバッタみたいに、ペコペコ頭を何度も下げた。

 その度に揺れる巨大な双丘なんて、俺は見てません! 

 見てないったら見てないんです!

 あ、背中の針がちょっと刺さった気がする…

「ゴホンッ! まあ、その時には色々と頼む事もあるかと思うが、2人にも協力してもらうからな?」

 モフリーナとモフレンダ(顔半分だけ)は、コクコクと頷いた。


 モフリーナ達が去った後、またまたナディア達妖精族一同とサラとリリアさんとの秘密の打ち合わせ。

「んで、サラ。ダンジョンの神様は何て言ってるんだ?」

 気になるのは、第一番目のダンジョンのダンジョンマスター。

 なんか言い難いから、ファースト・チルドレンでいいかな?

「え~っと、特に返事が返ってきませんので、もう好きにして良いんじゃないでしょうか?」

「返答無しかよ! ってか、好きにしていいのかよ!」

 どんだけ放任主義なんだよ!

「いえ、ダンジョンを管理している神は、創ったら基本的には放置です。よっぽどエネルギー収集に貢献しない限り、ダンジョンは放っとかれます。モフリーナみたいに多大なる貢献をすれば、こっちからでも通信できる様ですけど」

 おう、なるほど。

 って事は、モフレンダと第一番ダンジョンのマスターは、ダンジョンマスター・レベル1って感じかな。レベルが上がれば、神と交信出来ますってか?

「圧倒的に社会経験が足りないのですよ。言ってみれば、万年ニートですし」

「リリアさん…毒舌すぎやしませんか?」

 いや、確かにそうなんだろうけど…何万年か引きこもってたかもしれないけど。

「それで、具体的にはどうやって助けるんですか?」

 う~~~ん。

「サラの質問に答える前に、あの蟲を何とかしたいんだけどなあ。出来れば本人に処理して貰いたいところだが…」

「私は、巣穴から無理にでも引きずりだす事を提案いたします」

「過激だな、リリアさん! 引きずり出すのは、蟲だよな? な?」

 巣穴って、あんた…蟻じゃないんだから。

 まさかダンジョンマスターを引っ張り出すの? 性根の入ったニートなのに?

 それに汚水の下に入り口あるんだろ? どうやって引っ張り出す?

 ん~もしもの時は、多少強引に行くとすると、ちょこっと問題が…

「もしもの時には、ちょっと強引な手を使うかもしれないから、ダンジョンの強度を、神様にでも確認しといてくれないかな?」

「了解しました。サラの脳を介して、確認しておきます」

 あ、またそれなのね。

「リリアー! また私の脳を勝手に…にぎゃーーーーーーーーーーー!」

 あ、もう始めちゃったんだ、リリアさん。


 静かな船内に、サラの絶叫が響き渡った。

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