第568話  作戦の一部変更

「トールヴァルド様、モフリーナ只今参上いたしました」

 最初の村の門の外、第9番ダンジョンの主であるモフリーナは、俺の前で跪いていた。

「無理を言ってすまない。この地図で、この皇国までにある全ての土地を、一時的にモフリーナのダンジョン領域化して欲しい。出来る限りで良いし、無理はする必要はない。必要なエネルギーは、今すぐにでも渡す」

 するとモフリーナは、

「莫大なエネルギーが必要かと思いますが、それとてあの大陸をダンジョン化した時と比較すれば、呆れるほど少ないかと。そう、あの時がネス湖ほどのエネルギーだったとするならば、今回はほんのコップ数杯程度です」

 そんなものか…ならば、

「ではすぐにかかってくれ。出来れば村や国なんかの門の外に大きな領域を造ってくれ。救護者が領域に入れば、すぐに保護施設に転送して手当を。馬鹿な奴らが逃げ出そうとするならば、もふりんの元に送ってくれ。そうだな…一番、ハードなエリアに」

 討ち漏らしなぞする気も無いのだが、万が一という事もある。

 だが、もちろん逃がさない。

 ダンジョン大陸でモンスターの餌食になってもらおう。

「はい、了解いたしました。もふりんにも伝えておきます…ですが、トールヴァルド様…それはモフレンダにも手伝いを頼んでもよろしいでしょうか?」

 あの新しく出来たんだけど、6番目っていう不思議ダンジョン?

「ああ、構わないが…何かあるのか?」

「はい。これより先は、半分を彼女の領域としようかと。エネルギーを溜める事が出来れば、彼女のダンジョンも拡張できますし。今回は、すぐにエネルギーに変換してもよろしいのですよね?」

 あ、なるほど! そういう事か。

 どうせ殺すなら、ダンジョンのエネルギーに変えてしまえって事なのね。

「ああ、その通りだ。そうだな…どうせ殺すなら、ダンジョンの役に立ってもらおうか。モフレンダの件は了解した。エネルギーが必要ならば、モフリーナから融通してやってくれ。それでも足りない様なら、いつでも言ってくれたらいいからな」

「有難うございます。では、早速……」

 そう言って、空間に溶け込むように、モフリーナは消えた。 


 なるほど…ダンジョンとは上手くできている。

 一時的なプラス収支が欲しければ、ダンジョン内に迷い込んだ生物を殺せばいいし、長く細くプラス収支を欲するのであれば、生物を殺さず、長く居続けさせればいい。

 今回の様に、殺す事が確定している奴が居るのであれば、一時的にだが第6番ダンジョンの収入にしようとしているらしい。

 これって、リサイクル? 廃品利用? いや、廃品再生なのかな? 結局は、これも輪廻の輪システムの様なものなんだな。

 あんな奴らでも、ダンジョンの収入の為になるのであれば、生きた意味はあるのかもしれない。

 もっとも、その生も風前の灯だが。

 なにせ、この大陸中の激オコ精霊さん達が集まってきちゃったから。

 見た事も無い色をした精霊さんも多数見かけたけど、全員激怒してたから、まあ生きて明日を迎える事は出来ないだろうなあ…奴らは。

 ま、好き勝手したツケを払う時が来たんだと、諦めるしかないな。

 

 さて、この村のド畜生共は、どうなったかな?

「トール様、この村の外道265人の粛清は終了いたしました。保護した341人は、すでに船内でお母さま達による応急手当を受けた後、本陣まで移動する手はずになっております」

 えっと…メリルさん? 報告の仕方が、どっかの軍隊みたいだけど…

「このまま救護者を本陣まで後送いたしますか? それとも、あと2~3の村に粛清をいたしますか?」

 嫁達は、仮面で表情は見えないけれど、もの凄く畜生を叩き潰したいご様子。

 血に飢えた狼…もとい、嫁達。

 いやいや、俺だって同じ気持ちだぞ! ほんとだぞ!

「このまま、保護した人々は後送だ。今、モフリーナがこの先をダンジョン化している。完成すれば、俺達の移動は一瞬だ。ただ保護した人々や、本陣の人々にはモフリーナの力を知られたくない。だから、ホワイト・オルター号で、ガンガン後送しよう」

「了解しました! では、この後は如何いたしましょう?」

 もしかしてメリルって、怒ると軍隊風になるのかな?

「モフリーナより、ダンジョン領域化の完了の報告が入り次第、次の村の解放へと向かう。それまでは、暫し休息を命じる」

『はっ!』

 何だろう…うちの嫁達がどっかの兵隊さん達みたいになっちゃったよ…俺もだけど…


 その後、作戦の一部変更を、救護者を後送しているホワイト・オルター号に乗り込んでいる母さんやサラ達に、通信の呪法具を使って説明した。

 もちろん、我が家以外の人には完全に秘密の内容だ。

 その際、母さんからは、

『誰も居なくなったのであれば、その村は燃やしなさい。死体がゴロゴロしているならば、それを狙った獣や魔物が入り込んで棲みつかないとも限りませんから。必ず燃やし尽くしなさい』

 きつく言いつけられたので、精霊さんにお願いして、俺達が次の村に向かった後で、灰も残らない様に灼熱の劫火で燃やしてもらう事にした。


 そんなあれやこれやをしていると、モフリーナから念話が入った。

『ダンジョン領域化が完了いたしました』

 さてと、それじゃ第2ラウンド開始だな。

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