第540話  あの人達は…?

「ふぃ~…やっと、きれいになったでち!」

 出てもいない汗を拭う仕草をしたもふりんが、薄暗い空間に浮かび上がる、島内の様子を移した無数のモニター画像を見ながら呟いた。

「あとは、ほごしたてんいしゃのこんごでちゅが…」

 そう言いつつ眺めるのは、トールが指示した保護対象に指定された転移者達が映ったモニター。

 その画面の中には、乳幼児から少年少女が、お世話スライムやゴブリン、コボルトと落ち着いた様子で映っていた。

 お世話係として造られたスライム・ゴブリン・コボルト達は、まるでアニメに出て来るように可愛らしく二頭身フォルムにデフォルメされており、知能もそこそこ高く設定されているため、子供の世話など何のその。

 しかもお世話ゴブリンには、人種と同成分の母乳を出すメスのゴブリンも配置されているので、モンスターが世話をしているはずなのだが、何故だかほんわかした保育園の様相を呈していた。

「ん~~~もんだいは、なさそうでちね」

 このまま成長すると転移して来た乳児たちは、ゴブリンを親だと認識してしまう可能性が高いのだが、それに気付かないのがもふりんだ。

 頭が良い様で、どこか抜けている。

「とりあえずは、おかたづけと…だんじょんをなおちまちょうかね。このままだと、ましたーに…おこられる…」

 ダンジョン大陸の中を綺麗に掃除(物理的に)したもふりんは、取りあえずイノセント型モンスターによって引き起こされた自然破壊の修復に取り掛かるのであった。


 その頃、本家本元のアルテアン領に高く聳えるダンジョン塔の地下深くでは、トールから頼まれていた魔石を量産すべく、日々モフリーナが奮闘していた。

 そんなある日の事、ダンジョン大陸より、もふりんから極小ではあるが大量に送られて来た。

 その魔石の量に驚き、出所をもふりんに確認したところ、イノセント型モンスターの最終手段を使ったらしいとわかった。

 保護対象以外を排除するために、大量の魔物で自爆特攻攻撃をしたのだと理解が出来たので、この大量の魔石の来歴は明確になったのだが、はっきりいって小さすぎて使い道が無いのだ。

 何せ蚊とか蠅とかの蟲型のモンスターに搭載されていた魔石なのだから、大きい分けが無い。

 具体的にはジャポニカ米の1/4程度の大きさである。

 もふりんが特攻を命じて出来た大量の魔石ではあるが、全て集めた所で5kg入りの白米よりも少ない。

 ダンジョン大陸ならいざ知らず、このダンジョンでは使い道が無いその魔石を、モフリーナは有効活用するために考えた。

 トールからは、大量の魔石を頼まれていたし、それを渡す事に何の問題も無い。 

 対価は用意すると言われたが、ダンジョン大陸での大量の転移者の魂を手に入れる事が出来たのだし、大陸改造の為にトールから移譲されたエネルギー量に比べれば、トールの欲する魔石の量など微々たるものである。

 むしろ、もっと貰って欲しいぐらいだ。

 魔石が不要なのであれば、この身体で支払いを…とか、トールの嫁達が聞いたら激怒する様な事まで、顔を赤くしもじもじ悶え乍ら考えているぐらいである。

 なので、この米粒よりも小さい魔石は、トールの為に有効活用できる新型のモンスターの核とする事に決めた。

 さて、大戦に向かったトールの為、一体どんなモンスターを造ろうか…深い思考の海に沈んで行くモフリーナであった。


 そんなモフリーナであったが、トールから渡されている通信の呪法具の呼び出し音が室内に響いた事で、現実に引き戻された。

 慌てて通信に出ると、当然ではあるが相手は、モフリーナが敬愛? 崇拝? しているトールヴァルドであった。

 短く深呼吸をしたあと、ゆっくりと呪法具を手にしたモフリーナは、落ち着いた声で、

「はい、モフリーナです」

 通信に出たのだが、返って来たトールからの言葉に、

「もちろんです! 今からでも大丈夫です! …え? あ、はい…そうですか…なるほど! では、あちらは…はい、はい…あ! そうですね。では、すぐにでもダンジョン大陸の改造に着手します! はい。では3日後のご連絡をお待ちしております」

 モフリーナの返答だけでは、内容をうかがい知る事は困難ではあるが、どうやらダンジョン大陸の更なる改造を行う様である。


 モフリーナが大陸に行くまでに、もふりんが大陸の惨状を復旧させる事が出来るのかどうか…怒りの拳骨を頭に落されないかが、とても気になるところだ。

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