第529話  長さの単位って翻訳できるの?

 俺が長城建造の予定地として、敵の撃退ポイントとして指さしたのは、神国を真北に進んで例の盆地をう回する1点。

 盆地を反時計回りにう回するのであれば、当然通る場所でもある。

 そしてその場所は、盆地を囲む山脈と、神国とその北西にある国との境界にもなっている山脈で挟まれた場所。

 平坦な土地とも言えないし、進軍するに適しているとも言えない横幅の土地が延々と続いている。

 左右には多少の樹々が有って、特段見晴らしが良いわけでも無いのだが、衛星写真とか地図とか無い敵さんにとっては、さぞや良い道に見える事だろう。

 ちなみに俺の計算では、この土地の幅は狭い場所で約10m程度で、拓けた場所では約200mで、それが盆地を周り込むように延々と300kmも続くのだ。

 まあ、頭の悪そうな敵さんなら、間違いなくこの道を進軍するだろう。

 なので、神国から10kmほど進んだ所にある山間の幅が100mほどのポイントに、長城というか防壁を築こうと思う。


「…いまからその様な防壁の建造を始めた所で、到底間に合うとも思わぬのじゃが…」

 ぽつりと漏らした陛下のお言葉、至極ごもっともです。

 普通に人力でそんな物造ってたら、何年かかるかわからんよな。

 しかーし! 俺には頼りになる仲間が居るのだ! 

 そう、精霊建設の面々だ!


 俺が子供の頃にあったスタンピードから、父さんの村を守ったあの防壁や、父さんの領地や神国に建造した大規模な地下都市。それに、俺と父さんの領地を繋ぐトンネルもそうだし、温泉掘削だけでなく、ネス湖すらあっという間に造りあげるその建造能力は、間違いなくこの世界最高である。

「お任せください。防壁自体は、魔法で1日で建造できます。防壁付近に兵達が休息を取る事が出来る宿舎や井戸などを造りあげるのに、2~3日といったところでしょうか」

『なっ!!??』

 王族の皆さん、びっくりしすぎて見開いた目から眼球が飛び出しそう。

 ただ…今後も良いように国に使われるのも嫌なので、釘だけは刺しておこう。

「今回は、ネス様より敵国の撃退を申しつけられておりますので、その御力をお貸しいただけるのです」

 やっぱ神様の不思議パワーで押し切るのがベストじゃないかな?

 それならネス様を熱心に進行している陛下だって、俺に無理じいは出来ないだろう。

 まあ、ついでだから…

「そして、ネス様は私に仰いました。敵も味方も無駄に兵を殺すな…と。そして、こうも仰いました。本当の敵を見極めよ…と」

 まあ、実際目にしたわけでも無いんだけど、強制されて敵軍に与している奴以外は、何らかの事情があるはず。

 身内や国を人質に取られて、嫌々参加しているのであれば、何とかしてやりたい。

 敵の本丸…つまりはダースとか言う暗黒面に落ちた様な名前の奴と、その取巻きぐらいを倒せば終わるんじゃね? っと、俺は考えているわけだ。


「ふむ…それは一理あるな…本当の敵か…」

 陛下が腕を組み目を瞑って考え込んだ。

「なる程…卿は、敵の首魁を討てというのですね…」

 第三王子様も、何やら思案中。

「ええ、そうですね。ですので、進軍をまずはこの長城にて食い止めます。長城の高さは長槍の15本分を予定しています。厚さは長槍3本分といったところでしょうか」

 翻訳があるんだったら、メートルとか使っても大丈夫な気がするけど…ポンド・ヤード法とか尺・貫法とかが基準だったら嫌だな。

 一応、この国で正式採用している槍の長さが2m程だから、これで分かるかな?


 もう17年もこの世界に生きてるけど、本当に色々と謎が多いよな。

 そもそもメートル原器が無いんだから、規格化された長さの単位があるのかどうかも不明なんだが…

 この世界では、国や部族や種族ごとに、かなり雰囲気で長さとか重さを決めてるみたいなんだ。

 だって、尋とか矢引きなんて単位を使ってる所もあるんだぜ?

 普通の人だったら聞きなれない単位だけど、ヒロとかジンって読むんだ。

 これは、両手を目いっぱい広げた長さだけど、人とか種族とかによって両手を広げた長さなんてまちまちだろ?

 だから、その時々の国王の身体が基準だとか。

 矢引きなんて、矢を引いたときの腕の長さなんだぞ? それこそ人それぞれだろうに…

 釣りの世界では未だに使われてる単位なんで、ごく一部の人は知ってる単位だけどね。

 関係ないけど、古代中国では尋の倍で常(ジョウ)になるらしく、尋常の語源だとか国語の先生に教わった記憶がある。

 重さなんて、国王が適当に拾って来た石を基準にしてるらしいし。

 税金だって、国から基準になる袋を支給されて、それを模して造られた麻袋に麦をめいっぱい詰め込んだのが税収の基本になってるらしいんだが、曖昧すぎて脱税の元になってるからな。

 貴族が好き勝手に袋を大きくしたりして、庶民から余分に勢を巻き上げてるクソ貴族が、それこそ山盛り居る。

 そんなクソ貴族は、きっと詰め込み方にもいちゃもんつけて、袋が破れるまで麦を入れさせるんだろう。

 そうさせないためにも、未来永劫通用するような、きちんとした長さと重さの基準を是非とも決めて頂きたいものだ。

 今まで散々甘い汁を吸って来た腐れ貴族は、反発する事間違いなしだろうがな。


 こんな風に、この世界では統一された長さと重さの基準が無い。

 なので、わかりやすく我が国の騎士が採用している長槍に例えてみたってわけだ。

「そこまで大きく頑丈にする必要があるのか?」

 王子様の疑問は、甚だご尤もですな。

 なので、俺もしっかり回答しましょう。

「ええ。絶対に破られない長城で敵を足止めして時間を稼ぎ、我が家のメンバーで敵の首魁を討つためです」

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