第527話  やっと本題

 えっと、話を進めてもいいかな?


「皆様、とにかく落ち着いてください。この地図の扱いに関しては、ネス様のご意向もありますので、今回は神国にも渡します。何度も言いますが、これは決定事項です」

 俺にここまで言われたら、もう反論できない様で、一応は大人しくなった様だ。一応…ね。

「それでは、そろそろ本題に入っても良ろしいでしょうか?」

 なぜ俺の言葉に、全員が『へっ?』って顔してんだ?

 おいおい、まさか本当に忘れてたわけじゃ無いよな?

「アルテアン伯爵…いや、ここではトールヴァルド卿と言った方が良いか? それとも義弟と呼んだ方が良いだろうか?」

 何か、的外れな事を言い出したのは、誰あろう第三王子様であり、俺の義理のお兄さま。

 呼び方なんで、どうぞお好きに…とも言えないよなあ…呼び捨てが一番楽なんだけど…

「では、アルテアン卿で。それで、何か御座いましたでしょうか?」

「うむ、卿が先ほど言っていた、この戦に負けることは無いというのは、本当か?」

 あ、義理のお兄さまは覚えてたのね。

「ええ、本当です」

 黙って聞いていた王族+諸々の皆様が、ほう? と声を漏らす。

 うん、この人達は、やっぱ忘れてたか信じて無かったな?

「して、どの様な策を練ってきたのだ?」

 まあ、軍部をまとめる大臣さんなんだから、やっぱそれが気になるのね。

「ではご説明いたしましょう」

 うん、これでやっと本題に入れるぞ。


「少々長くなりますが、どうかお聞きください」

 周囲を見回しながら、俺は静かに語りだす。ちょっと、格好いい?

「まず、戦の勝敗を決めるのは何だと思われますか?」

 俺の誰にとも言えない問いかけに、

「戦力だろ」「もちろん戦術だ」「おい、そこは戦略だろう!」「いや違うぞ! それは運では無いか?」「何をいう、資金が全てだ」「いやいや、そうでは無く…」

 流石に一国を率いる王族というべきか、すぐさま色々な回答をしてくださる。

 だけどね…

「なる程、皆さんのご意見、いちいちご尤もです。確かに個であれ集団であれ、戦力も大事です。手にある戦力を上手く使うための戦略や戦術も大事ですし、運ももちろん大事です。それに戦力を支える為の資金力も、もちろん大切な要素です。しかし尤も大事なのは、情報です」

 皆は、俺の言葉に黙って耳を傾ける。

「皆様の仰った事柄は、戦において重要な要素ではありますが、それらを生かすも殺すも、情報次第です」


 そう、近代の戦争においての情報の重要性は、誰もが知る所。

 父さんの様な英雄が1人2人居た所で、数の暴力には勝てない。

 強力な兵器の前には手も足も出ない。

 情報を、敵より早く、多く、正確に手に入れ、それを効率的に利用すれば、敵をかく乱したり、ともすれば内側から瓦解させたりする事が出来る。

 戦の頭脳とも呼べる司令部が、この情報を上手く使う事が出来れば、数の差など大して気にもならない。

 もちろん、より強い戦力で上手い戦略に戦術を運用でき、それを支える莫大な資金をもって運が味方すれば、如何なる戦であろうとも負けることは無いのかもしれない。

 だが、この世界では、未だに騎士は戦では名乗りをあげて一騎打ちとか、時代錯誤な事を言ってるのだ。

 そりゃ、それで勝ったから、この戦はうちの勝~! とかならいいけど、そんな簡単な話じゃないだろう?

 それでいいなら、父さん1人で大体事が済む。

 俺や嫁達やユズユズ。なんならコルネちゃんやユリアちゃん単体だって、変身したら負けることは無いだろう。

 だが、今回はそんな甘い敵さんでは無いはずだ。

 そもそも占領した国の住民を戦力として軍に組み込んで、膨大な数にまで戦力を膨れ上がらせて来たんだ。

 もう、「や~や~我こそは~」なんて口上述べてる様な戦じゃないんだ。


「情報戦を制してこそ、戦の勝が見えてくるのです。そして、この地図が情報戦で敵を制する要となるのです」

 俺のちょっといい加減な説明だったけど、何となく情報の重要性が見えて来たかな?

「良いですか、この地図をよく見て下さい…えっと、この神国の先にある盆地です」

 俺は、おなじみの恐怖の大王と戦った盆地を指さしながら、皆の顔を見まわした。

「ここの盆地を囲む山脈は、まず大軍が越える事は出来ません。なので、敵は足止めを喰らっている訳です。では、何故足止めされているのでしょう? すでに通信の呪法具で、その情報は入って来てますよね?」

 ここで俺の情報という言葉に、全員がはっとした様な顔になった。

 そう、皆はすでに情報の重要性を、無意識に感じていたはずですよね?

「そうです。神国より通信の呪法具で、手に入れているはずです。どこよりも早く情報をね。そして、それはこの私にも伝わりました。通常よりも早い手段で」

 馬しか移動手段が無かった時には考えつかない様なスピードで、俺の所に情報はやって来た。

 それは偶然の産物であったかもしれない。

 たまたま俺がこの世界の地図を作りたいと考えて、実行していたから…つまり、運が味方したからかもしれない。

 ならば、それらを有効に使わないでどうするというのか。

「ですから、この様に対策を練る時間が取れたのです。もうお分かりですね、一刻も無駄に出来ないという事を」

 すでに地図を無料で云々で眉間に皺をよせていた人達では無く、この難局を乗り切る為に眼光鋭く、真面目な顔で俺の話に聞き入る王族の顔が、そこにはあった。

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