第500話 色々と教えてあげる
応接室に戻った俺と父さんは、女性特有の甘ったるいような咽返るような匂いが充満する室内へと歩を進めた。
女性陣が群がる中心には、もちろんユリアちゃんがいた。
最近はちょっとお淑やかななレディーに一歩近づいたコルネちゃんが右側に、相変わらず若作…んん! 若く美しい母さんが左側に陣取ったソファーの周囲は、我が家の嫁達が集り、俺と父さんの入る隙間も無い。
いや、あの集団の中に飛び国勇気は流石に無いけど…俺も父さんも。
ってな事で、俺達はちょっと遠巻きに我が家の女性陣を眺めていた。
そんな俺達を母さんは目ざとく見つけ、という訳でもないだろう。
俺達が部屋へと入ってくるのを母さんはチラッと見ていたのだから、間違いなく知っていたはずだ。
そしてこの場で最も地位の高い侯爵夫人である自分が声を掛けるのが当然とばかりに、俺と父さんに向かって、
「そんな隅っこに居ないで、こちらにいらっしゃいな」
いや、母さん…そっちに入りたくないから、隅っこ暮らしをしてるのですけど。
しかし、俺達が母さんに逆らうなど出来ようはずもない。
嬉しそうにしながら(内心は嫌々だが)、母さんの側へと近づいた。
俺の嫁達は、サッと道を開けてくれ、あまつさえ母さんの向かいのソファーを開けてくれたので、父さんと腰かける事にした。
腰を落ち着けた俺達の様子を見ていた母さんは、ゆっくりと俺を見ながら、
「それじゃ、トールちゃん。ユリアーネちゃんのお役目に付いて話してちょうだいな」
俺は、この世に有無を言わせぬ笑顔と言う物がある事を、この時生れて初めて知った。
「ああ、うん。もちろんさ。ユリアちゃんはね、ネス様の巫女であるコルネちゃんの補助をするためにネス様が遣わした神子っていうお役目があるんだ。まあ、コルネちゃんと同じ巫女として祭事を執り行える様になるまでの見習いって感じだね。だからコルネちゃん同様に、ネス様から神具を賜ってて、もう渡してるよ。後で裏庭で見せてもらうから、楽しみにしてて」
いやあ、俺ってなかなか嘘が上手くない?
「なるほど…では当面はコルネリアちゃんの補助をしながら、巫女としての修行ですね?」
何やら納得した様に母さんが呟いた。
「そうだね。でもナディアが帰って来てからになるかな。今は海の遥か向こうにある、例の大陸に居るから。多分、数日で戻ってくると思うんで、それまでは一緒に過ごしてあげて」
俺と母さんの話を心配そうな顔で見つめるユリアちゃんだったが、俺の言葉を聞いてにこにこ笑顔になった。
コルネちゃんは、ユリアちゃんにギュッと抱きつき、
「それじゃ、お姉ちゃんが色々と教えてあげるね!」
元気よくユリアちゃんに告げると、再び室内に女性陣の黄色い声が飛び交った。
俺は仕事を口実に応接室を出ると、執務室へ。
そこに、サラとリリアさんを呼び出した。
程なくして2人がやって来たが、この2人に長い前置きは不要だ。
何たって、勝手に俺の頭の中を覗いてるんだから、余計なお喋りなんてする必要なんて無い。
早速本題へと進もう。
「2人共、王都から皆を連れて来てくれてありがとう」
だが、まずは労いだな。そこはきちんとしないと駄目な所。
サラもリリアさんも、ちょっと疲れた顔をしているが、頷いてくれた。
「さて、次に頼みたい事は、ダンジョン大陸へと赴いてもらう事だ。ダンジョン大陸での計画の大幅な前倒しをモフリーナに伝えるのと、ナディア達を連れ帰る。この2点が2人のミッションだ」
ダンディーなおっさん風に言ってみたが…俺じゃ貫目が足りないか。
「ナディア達をですか? それは何でまた?」
サラが不思議そうな顔してるが、そりゃあいつらはダンジョンの管理者じゃないんだから。
「そりゃ、モフリーナのお手伝いに残してきただけなんだから、当然だろう。出発は明日の午前中で、とんぼ返りで夜までに戻ってくれ」
「随分と急ですね」
怪訝な顔のリリアさん。
「ああ。2人は知らん顔してくれてるが、もちろん知ってるんだろ? 宣戦布告の事も」
お前らが知らんはずは無い! と、俺は確信している。
「ええ…」「はい、存じています」
やっぱりな…ならば、
「この宣戦布告には、管理局が絡んでいるんだろ?」
俺のいきなりの質問に、2人共目を思いっきり見開いたまま固まった。
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