第498話  実はな…

 母さんを筆頭とした我が家の女衆の姦しい話し声を聞きつつ、父さんを俺の執務室へと連れだした。

 もちろん父さんが騎士達を連れて来た、本当の思惑を聞きだすためだ。


「で、父さん…あの騎士達は、もちろん護衛のためじゃないよね」

 もう、長い前置きは抜きで、ズバッと直球でいこう。

「一体、王都で何が起きてるの?」

 最初は驚いたような顔をしていた父さんだが、全てお見通しだぞ~っという雰囲気をプンプン匂わせている俺の言葉に、すぐに観念したかのような顔になり、ぼそぼそと話し始めた。

「お前には隠し事は出来ないな…実はな…」


 要約すると父さんの話は、こうだった。

 俺達がダンジョン大陸に関する事柄であれやこれやしている間に、どうも国交が無かった北の国から宣戦布告があったそうな。

 とは言っても、グーダイド王国は南と西を海に、北は山越えがほぼ不可能と言っても良い程の高い山々が聳え立ち、他国と隔絶されている、悲しいかなとっても小さな国。

 東は大河を隔てて旧神聖アーテリオス帝国(現 アーテリオス神国)があり、帝国以外が侵攻してくるのは非常に難しい状況。

 グーダイド王国は、小さい国とはいえ、国土は日本列島の本州に匹敵するのだが、その7割近くは森林や未開拓の土地。

 国民総数だって、500万人しかおらず、東京都の都民の1/3ぐらいしか居ない。

 食料自給率は確かに高いが、特に資源が豊富にあるわけでも無く、海があるとは言っても船舶が接岸できない様な断崖が多いので、利用価値も非常に小さい。

 人魚さん達がいる砂浜なんて利用価値が高そうなのだが、あの海底には人魚さん達の国がある為、近づく船舶は海中から穴を開けられて沈められるらしく、魔の海域とか言われているとか。

 とは言っても、グーダイド王国も1枚岩ではない。

 昔の日本の様に、小さな小さな国が乱立したり併呑されたりを、何度も繰り返している。

 父さんが過去に活躍したのも、この内乱に似た戦争時だったらしい。

 その戦争を最後に、グーダイド王国としてこの地を統一したらしいのだが…ま、それでも小さい国だ。

 つまり、過去の戦争のほとんど多くは帝国とのものか、内乱的なもの。

 その小さなグーダイド王国に、他国が宣戦布告してきたらしいのだが…


「それが連峰の向こうの国なの?」

「ああ。もう数百年近く文さえ交わしたことの無い国が、いきなり数か国を経由して書状を送りつけて来てな。封を切ると、宣戦布告だったという訳だ。陛下も意味が理解できなくて、頭を悩ませている」

 そりゃ話をした事が無いどころか、見た事も聞いた事も無い国が宣戦布告って言ってもなあ…

「いや、良い方が悪かったな。宣戦布告してきた国は、どうやら大規模な戦争を経て、巨大国家を樹立したらしい」

「なっ!?」

 山の向こうではでっかい戦争があって、どっかの国が統一しただと!?

「その国は、帝国にも書状を送りつけて来ていて、内容は同じく宣戦布告だったそうだ。これは陛下がべダム首長と通信して明らかになったわけだが…」

 おいおいおいおい! 

「つまりその国は、帝国を倒して支配下においてからグーダイド王国にも侵攻してくるって事?」

「うむ…そうだ」

 えらいこっちゃ! いや、待てよ…

「という事は、帝国が頑張っている内は、王国は大丈夫だと?」

「まあ、そう言う事になるな」

 ふむ…っと俺が考え込んでいると、

「ただ、帝国は近年友好国となった。ならば帝国の危機に王国が助力せぬわけには行かないだろう?」

「確かに…」

「なので、俺が部隊を率いて帝国軍と共に戦おうと思う」

 やっぱ、そうなるか。

「父さん、帝国軍がその敵とぶつかるのはいつ?」

「まだ数か月先だと思ってる。どうも帝国の先にある巨大な盆地…あれだ、あの例の恐怖の大王の居た盆地だ…あそこをう回するのに、かなりの時間が適ってるらしい」

 どうも父さんの話から、敵は山々を越えて盆地に入ったらしいが、まさかの不毛の土地。

 食料も水も補給できずに、かなり難儀しているという。

 あそこを経験した俺達なら、その苦難は簡単に想像できる。

 そもそもあそこの住人たちは地下に住んでたからな。地上を進むなんて無謀この上ない。脱水症状でも起こして脱落者続出するのが関の山だ。

「なるほど。ならまだ2ヶ月ほどは猶予があるって事かな?」

「ああ…早ければ2ヶ月と帝国側では見ているらしい。その辺も王国と帝国は敵よりも先んじているぞ」

 ん?

「何の話?」

「お前の造った蒸気自動車と通信呪法具のおかげで、我が国と帝国は情報戦では間違いなく侵略国よりも先を行ってるはずだからな」

 なるほど…そうか、あの技術は帝国までしか広まってないのか…ならば、

「だったら勝算は十分にあるし、トールヴァルド家も参戦する!」

「おお! 騎士達にはダンジョンで戦闘訓練と思って連れて来たんだが、お前が参戦してくれるなら心強い!」

 任せとけ!

「あ、いや戦闘訓練はしてて。あと、準備が色々あるから、3週間ほど欲しい…と、そういえば敵国の名前は?」

「ん? 言って無かったか? 敵の名前は、暗黒教ダークランド皇国。首魁の名はダース皇帝だ」

 暗黒教の皇国って…中二病かよ! しかも皇帝の名前、暗黒面に堕ちた人に似すぎだろ!

 いいよ、やってやるよ! 俺の本気を見せてやる!

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