第497話  相変わらずの男女比率…

 我が家にやって来たユリアちゃんは、我が家のメンバーとの親睦を深める事になった。

 とは言っても、特に面倒なメンバーがいるわけでも無いはず…ユズカは微妙かもしれないけど。

 サラとリリアさんは、戻った翌日には王都に向けてホワイト・オルター号にて出発した。

 まあ、のんびり飛んだところで1日もあれば着くだろう。

 澄んだ湖から浮上し、空へと飛び立つホワイト・オルター号を見たユリアちゃんは、大興奮だった。

 絶対に載せて欲しいと半泣きでお願いされたので、近いうちに遊覧飛行でもしてあげようかと思ってる。

 屋敷にいる内は、嫁達と沢山おしゃべりしたりお菓子を食べたり、街を散策したりと、色んな経験を積んで欲しい所だ。

 面白い事に、記憶や経験のほとんどを持たないユリアちゃんではあるが、身近な人達の顔と名前、そして自分との関係性はきちんと記憶の片隅に残っていて理解も出来ている様だ。

 これは管理局の記憶情報操作が完璧だったという事なのだろうか? ちょっと俺では分からないな。

 まあ、便利だから特に気にする必要も無いか。

 基本的にコルネちゃんが出来る事や知っている人に関しては、そのままユリアちゃんも知っているという事になる様だ。

 反対にユリアちゃんを知らない俺達の方が混乱しそうだ。これは十分に気を付けなければならないな。

 そんな事を考えながら、俺も嫁達にまじってユリアちゃんとしっかりとコミュニケーションを取る事に専念した。



 さて、ユリアちゃんと一緒に帰宅してから数えて4日目の昼前に、父さん達が王都からやって来た。

 同行者は…うぉ! ちょっと多いな。父さん母さんコルネちゃん。王都のメイドさん(美女)数名と、ブレンダーにクイーンとノワール&くろちゃんといったお馴染の面々。

 そして、それに加えて、何故か王都の騎士団が1個小隊と思われる騎士さん達20名が一緒にやって来た。

 サラとリリアさんに事情を念話で訊ねてみたが、理由は父さんの護衛だそうだ。

 確かに侯爵ともなれば護衛も必要かもしれないが、あの脳筋チートの父さんが、黙ってあの人数の騎士を護衛として付けてくるだろうか?

 そもそも地上の旅ならいざ知らず、空の上を飛ぶのだから、獣との遭遇もまず無いし、昔狩ったワイバーンでも出現しようものなら、騎士なんざ何の役にも立たない。

 窓も無いカーゴルームに押し込められてるんだから、当然と言えば当然だ。

 これは間違いなく厄介ごとの…そう、何か事件の臭いがプンプンしますぞ!


 とは言っても、父さん達も基本的には一家団欒でユリアちゃんとの親睦をたっぷりと深めるためにやって来たのだから、まずは屋敷で寛いでもらいたい。

 騎士さん達には、温泉宿に20室確保出来たんで、父さんの呼び出しがあるまで温泉にでもつかっててもらいましょう。

 ついでに皆にちょっとだけお小遣いも出しちゃうぞ。騎士さん達、大喜び!

 これで骨抜きにされるがいい!

「トール…有り難いが、いいのか? 結構な金額になると思うが…もちろん俺も補填するつもりだが…」

 ふっ…父さん、何も理解してないな。

「いや、補填は不要だよ。仕事人間で普段金など使わない騎士達があぶく銭を手に入れた。そうすればどうなる?」

「使う?」

「正解。景気よく使いたくなるのが人情。そしてあぶく銭が尽きたら?」

「貯金を切り崩して、やはり使う…か」

「大正解! この際だから、みんなの溜めこんだお金を吐きだしてもらいましょう」

「そして税金としてまた戻って来る…か。お前、恐ろしい事を考えるな」

 父さんの頭の中は、色んな物事が高速でグルグル回っている事だろう。

 そもそも父さんが宿泊中の小遣いを渡さなくていいだけじゃなく、宿泊も食事も無料になっているんだ。騎士達も必要な費用が抑えられるとなれば、喜ばないはずが無い。その上、周囲は遊ぶところばかり。これでハッチャケ無いわけがないのだ。

「何を言う。優秀だと言ってくれ」

 獲らぬ狸の皮算用とも言うけどね。


 ま、いつも父さんに良くしてくれる騎士さん達に渡す小遣いぐらい惜しくない。

 え、マチルダ…どうしたの? 何々…ほう、これは…全部で日本円にして300万ぐらいか…ちょっと多すぎたかな?

 カジノに連絡して、騎士達が来たら毟り取れと言っておいて。

 イカサマも全力全開で。な~に、見つからなきゃいいのさ!

「「ふっふっふっふっふっふっふ…」」

 マチルダと2人、父さんから見えない所で悪い顔で笑ってたのは内緒だ。

 

 ところで、母さんや可愛い可愛いコルネちゃんは…

「ユリアーネちゃん、私がウルリーカ・デ・アルテアンです。あなたのお母さんですよ」

「おかあさま?」

「か、かわいい! コルネの小さい時に瓜二つだわ!」

 まあ、コルネちゃんをイメージしましたので…そっくりです。

「ずるいです、お母さま! ユリアちゃん、私はコルネリア。あなたのお姉さんよ」

「こるねおねえさま?」

「きゃーーーーーーー! お姉さまって! ユリアちゃんって天使ですか!」

 コルネちゃん、ユリアちゃんは天使じゃ無く、君を補助する神子なんだけど…

 ここで父さんが登場! タイミング見計らってただろ?

「うぉっほん! 私が当主のヴァルナル・デ・アルテアンだ。グーダイド王国より侯爵位を頂いている。トールヴァルドとコルネリアの父であり、ユリアーネ…君の父でもある」

 父さん、緊張してんのか? 固い! 固すぎるぞ!

「おとうさま?」

「!!!!!!!!」

 父さん、一瞬で顔が真っ赤。めっちゃ嬉しいんだろ? モロばれてるぞ。


 ブレンダーやクイーン達の紹介も終わり、その後はやっぱり家族にもみくちゃにされたユリアちゃん。

 彼女も嬉しそうだから、まあ良いんだけどさ。

 今まで知識としてしか知らなかった家族の実物を目の前にして、色々と彼女の中でも化学反応が起こってるのかもしれない。

 そうこうしているうちに、嫁達もその輪に突撃して、もう我が家の応接間は大騒ぎ。

 この応接室には我が家の家族10人だけなのだが…男は俺と父さんだけ…残りは全部女…相変わらず男女比率に大きな偏りがあるなあ。

 いつの間にか父さんはユリアちゃんを囲む輪から弾き出されていた。

 うん、まあ…当然かな。 

 前世で友人が、『男親なんてものは、存在を覚えて貰えてて、家族が暮らせる金を家に入れるだけの存在で丁度いい』と言っていたのを何故か思い出したよ。

 父さんを見ていると。

 そもそも父親なんてものは、その内『お父さんの下着と一緒に洗濯しないで!』とか言われる存在になるんだよ…とも言ってたなあ。

 

 そんな惨めな…もとい、情けない…でもない、哀愁漂う背中の父さんに、俺は声を掛けた。

「父さん、話があるんだけど、ちょっといい?」

 俺を振りかえった父さんの瞳は、ちょっと潤んでいた。

 あの輪に入りたかったんかーーい!

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