第481話 紳士なトール君
俺の幸福な時間は、もふりんの強引な引きはがし工作により、敢え無く潰えた。
ああ…妹の温もりを求めて、手が宙を彷徨ってしまう…ううう…目から溢れるのは、きっと男の夢の結晶なのだろう…
「おい、こら変態ペド野郎! 何が漢の夢の結晶か! 幼女を惜しむ変態の涙なだけだろうが!」
「サラも酷い事を言う。紳士なこの俺の、どこが変態だというのだ。これだから胸の寂しい奴は…」
きっと心も小さいに違いない。
「寂しかったら何だってんだ、この小児性愛者が! いい加減、その腐った性癖をなおせ! お前は日本のヲタクか!」
「ヲタクに失礼だろうが! YES! ロリータ NO! タッチを貫く、紳士なトール君に対して、不当に世俗の評価を貶める行為として、告訴するぞ!」
全く心外である! いや、これは人権の侵害だから、駄洒落か?
「あんた、さっきまで幼女抱きしめて、くんかくんか臭い嗅ぎまくるわ、抱きしめてさわさわしまくっとったじゃねーか! どこがNO! タッチの紳士だよ! 嘘ばっか吐くその口を縫ってやろうか!」
「はあ、ちみは何をそんなにヒステリックに怒っているのかね? もしや女性ホルモンのバランスでも崩れたのか?」
「誰が更年期か、この腐れ犯罪者が! もう怒った! リリア! 今こそ、ユリアちゃんに全てを話すのです!」
ちょ、おま…それはいけない! 俺のイメージが音を立てて崩れてしまうではないか!
「え? 嫌ですけど。せっかく目覚めさせた新人類という、貴重な研究サンプルの精神をかき乱してどうするんですか」
は? ユリアちゃんは、リリアさんの研究対象なの?
そういえば、リリアとユリアって似てるよな…どうでもいいけど。
「研究…サンプル? え、リリアってば、その幼女を解剖するの?」
なぜそうなる、サラよ。
「サラの頭なら、何時でも開頭して脳を手に取って見ますけど? 見た後はゴミ箱行きですが」
リリアさんも、大概鬼畜やな…。
「あの、みなさん。ユリアーナさんも落ち着いてきたことですし、そろそろお茶など如何でしょうか」
こんな大騒ぎの最中でも、マイペース(なのか?)なモフリーナ。
まさか、この言い争いの中に割って入ろうとするとは、その胆力に脱帽だ。
毒気を抜かれたのか、サラも渋々同意して、応接セットへと向かった。
すでにソファーには、ユリアちゃんともふりんが、仲良く並んでお菓子を頬張っていた。
俺達も歩いてソファーに向かうが、たまにもふりんのネコ耳を触りたそうに指をワキワキさせているのは、さすがコルネちゃんの妹という事か…いや、俺の性格か…。
ひと騒動あったが、まあこれで落ち着いて話も出来るというものだろう。
さて、ここでユリアーナ・デ・アルテアンに関するバックボーンを復習しておこう。
とは言っても、俺が考えてユリアちゃんに刷り込む…というか、記憶に書き込むというか、付け足すというか、とにかく抜けている記憶のパーツを埋める作業が、後日必要になるからなのだ。
今は記憶喪失という事にしているので、特に急ぐ必要も無いのだが、やはりこれは必ず後日しなければならない事。
ユリアちゃんの実物を目の前にして、色々とサイドストーリーとかも浮かんで来たんだが…一気に詰め込み過ぎても駄目だろう。
まずは、ユリアちゃんとアルテアン家の話から、少しずつして行こうかと思う。
しかし…本当にあの恐怖の大王の欠片を埋め込まれた大女と同じ精神なんだろうか?
まるで別人の様だ。
それだけリリアさんや管理局の技術がすごいって事なのか?
肉体ベースはコルネちゃんとナディアらしいから、アレと似てないのは当然として、性格がなあ…。
元々は、鋼鉄〇ーグの敵の大ボスそっくりだったんだが、変われば変わるもんだなあ。
いや、それは別にいいんだ。
あれが俺の妹とか言われても納得出来なかったし、ましてや恐怖の大王の欠片なんて、この世界に残しちゃ駄目なんだから、消えてもらっても当然なんだけど…あれ?
もしかして、同じ事を嫁達や両親にしたら…全員が新人類になっちゃうのか!?
「貴方もとうとうそこに気が付きましたか」
「リリアさん、もしかして…もしかする?」
これってもしかしなくてもヤバイんじゃね?
「そこは大丈夫ですよ。今回だけの特例的処置です。あのような高性能な身体をポンポン創られても困ります。なので、どうしても創造しなければならない場合は、私達を通して管理局の許可を取ってください。まあ今回は、奥様方にはネス様の御力で~とかゴリ押ししておくのが宜しいでしょう。出自も、ネス様の巫女であるコルネリア様を補助する神子としてこの世界に召されたとかで良いんじゃないでしょうかね」
なるほど…さすがやれば出来る女だな、リリアさん。
「どこぞの勉強出来ない子供みたいな言われ方には、少々言いたい事もありますが…」
「いや、それで行こう。あ、ついでなんだけど、例のパスワードって、まだ変更とか出来る?」
ちょっと良い事考えた。
「まだ装備を使用していませんし、貴方も渡してないのでしょう? 変更は可能ですよ」
ふむふむ…だったら、
「じゃね、…が…で、…を…したりは?」
「可能ですね。サラが少々血反吐を吐くかもしれませんが」
よし! それで行くぞ!
「すぐは可哀想だから、装備関連は帰ってからにしよう。変更の許可も貰う必要があるしね」
「…一応、サラを気遣ってはいたんですね…意外です」
…リリアさんは、俺を何だと思ってたんだろうか。一応、他人を気遣う事も出来る男、トール君ですよ?
「そですか…草」
めっちゃムカつく! いつか絶対に泣かせてやるからな!
「良い声で鳴きますから、是非ご賞味ください」
最後は、やっぱそっち系かよ! もう本当の本当に、こいつの相手ヤダーーー!
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