第480話  むっふー!

 そんなこんなをしている内に、またも幼女ちゃんは眠りについた…様に見えるんだけど、目を瞑っただけかな?

「ああ、各部の試験と点検が終わった様ですね。特に異常は見られず、正常動作を確認出来た様です。それではホンバンです」

 なんか本番のニュアンスが変だった気がするけど…

「では、目覚めさせます。準備はよろしいですか? 特に貴方様! 間違っても、そうだな…こんなとき、やさしい女の子なら…だまって、やさしくキスするんじゃないか…とか言いださない様に」 

 俺は双子の兄貴かよ! いや、素晴らしい漫画だったよ? 全巻持ってたし。

 でも、

「言わねーよ!」

「そうですか? 幼児の裸を心待ちにしてた人の言葉とも思えませんが」

 うるせー! 心待ちになんてしてねーよ。

「では、最終起動パスワードを声紋認証します。【 お願い、一日でいいから私より長生きして 。もう一人じゃ生きていけそうにないから……】」

「マテコラ、オイ! お前はどこぞの管理人さんかよ! そりゃ名作だけど、名作だったけども! しかも無駄に声色似てるし!」

 なぜに一刻〇の管理人さんなんだよ! んじゃ俺は、好きじゃーーーー! って叫べばいいのか、オイ!  

「うるさいですねぇ。私が決めた認証方法に、いちいちケチ付けないください。そんな小さい事にこだわってると、鼻毛が伸びますよ」

 何故に鼻毛…確か前は禿げるだの毛が抜けるだのと言われ続けてきたが、ここに来て鼻毛とは…


 俺がリリアさんに文句を言おうとした正にその瞬間、幼女の目がゆっくりと開いていった。声紋認証いらねーじゃねーか!

 先ほどとは違い、明らかに意思の光が灯ったその瞳は、ゆっくりと俺の方へと向き、俺で視線が止まった。

「…おにいちゃん…?」

 おおおおおおおお! お兄ちゃんって言ったじゃあーりませんか!

「そうだよ、僕がお兄ちゃんだよ」

『僕!?』

 周囲が何やらうるさいが無視だ!

「おにいちゃん…なんでわたしねてるの?」

「うん、ちょっと頭を強く打っちゃってね。もうどこも痛い所はないかな?」

「…よくわかんない…でも、なんにもおもいだせないの…」

 あ、記憶とか消えてる事がいっぱいあるんだった。

「わ、わたしの…おなまえも…わすれ…ちゃ…った…ううううううう…」

 やべ! コレ泣く! 

「そっか、お名前も忘れちゃったか! きっと頭を強く打ったからだよ! 大丈夫、ちゃんとお兄ちゃんが覚えてるから! それに、ここの人達の名前も覚えてるだろ?」

「う…うん。おぼえてる…」

 目がうるうるしてるよ…

「ね、ちゃんと皆は覚えてるからさ、安心して。お名前は、ユリアちゃん。ユリアーナ・デ・アルテアンちゃんだよ」

 その瞬間、(新)ユリアちゃんの中の歯車がカチリとはまったのだろう。

 さっきリリアさんが言ってた様に、もしかしたら情報の中で名前だけブランクにしてるって言ってた部分に嵌ったのかもしれない。

「あ…そうだった…わたしはゆりあ…おにいちゃん、おもいだしたよ!」

 そう叫ぶと、ガバッと白い布を跳ねのけて、俺に飛びついて来た。

 ちぃ! 白いワンピース着てるのかよ! これ、もふりんのか? 余計な物を着せおってからに!

 まあ、そんな邪な気持ちを表に出すわけにもいかないので、ここはぐっと我慢して、優しくユリアちゃんを抱きしめた。

「父さんと母さんとコルネちゃんは、ちょっと遠くに行ってるから、来るまではお兄ちゃんと一緒に居ようね」

 

 父さん達はまだ王都を出たばっかりだからな。まだしばらく時間が掛かるだろう。

 それまでは、ネス湖の湖畔にある俺の屋敷で過ごしてもらうとしよう。

 一緒に居る間に、色々と教えなきゃなあ…あ、そうだ! 装備もあるんだった。

 確か、ユリアちゃんはすでに新人類といっても過言でない性能の身体を持ってるんだったよな。

 でもその能力を開放するのは、俺の創った装備を持って、俺のパスワードでの認証が必要だとか。

 その辺も上手く教えていかなきゃだめだな。

 ユリアちゃんを、ぎゅっと抱きしめつつ、そんな事を考えていると、

「聞きました、リリアさん。あのペド野郎は一緒に過ごす間に洗脳しようとしてます! 超危険人物です!」

「サラ、それは違います。手籠めにしようとしているのです」

「わーーーー! 変態接近警報発報だーーーーーー!」

「あの、お2人共…トールヴァルド様は、単にユリアーナさんに色々と教えようとしているのでは無いでしょうか?」

「ましたー、それはちがいまちゅ! ようじょをいつまでもだきしめてるでち! ただのへんたいでち!」

「もふりん、良く言った! あれは状況を利用して、幼女の肉体を弄び堪能しようとしているロリ野郎です!」

「そうです、サラの言う通りです。幼女の感触や温もり、呼吸や匂いまでも堪能している顔です! 見なさい、あのだらしなく伸びた鼻の下を! あれは完全にモザイク案件です!」

 言いたい放題だな…いや、今のこの温もりが続く間は許そう。

 俺の心は大海原よりも広く深いのだ。

 お兄ちゃんと言って抱きついてくれる妹が居るだけで満足なのだよ!

 むふふふふ!

『やっぱり変態だーーー!』

 むっふー! 余は満足じゃ!

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