第467話 夢だったのだろうか?
どうにも嫁達や屋敷の中の者達の動向が気になって仕方が無かったのではあるが、襲い来る睡魔に俺の薄弱な意思が勝てるはずも無く、軽食を摂った後は自室へとそそくさと引っ込んだ。
自室の扉の鍵をしっかりと閉めたのを確認したあと、嫁達の要望で造られた巨大なベッドにもぐり込んだ後の俺の意識は、徐々に遠のいていき、心地よいまどろみの中へと誘われるがまま目を閉じた。
次に俺が意識を取り戻したのは、まだ陽も陰る様子もない、時刻にして昼と夕刻の間といったところだろうか。
窓にはしっかりとカーテンが掛かっており、正確な外の時間はうかがい知れないが、隙間から差し込む光でそう感じた。
やはり、連日のダンジョン大陸での対応に無理があったのか? かなり疲れていたのだろう。夢を見た記憶も残っていない。
そう言えば、夢の記憶っていうのは、起きてから少し経つとだんだん消えて行ってしまうんだが、何故だろう?
確か前世で聞いた話では、海外の偉い作家さんは常にベッドサイドにメモ帳を用意していて、夢から覚めたらその夢の中であった事柄を逐一メモしてたとか何とか…それが有名な作品になったとも聞いたんだけど、あの作品って何だってんだろう?
そうだ、書類も溜まっているはずだし、人魚さんへの手配もしていない。
マチルダに全てを任せきるのも、少々心苦しい…起きて少しでも仕事を片付けるか。
ぼんやりとした意識の中、そんな取り留めも無い事を考えていた俺だが、なんとなく違和感を覚えた。
主に下半身に。
確か俺は…帰宅してすぐに風呂に入って軽く食事をとった後、ベッドに倒れ込むようにして眠った様な…扉にもしっかりと施錠した記憶は残っている。
だんだん思いだして来たぞ…確か俺は、薄暗い部屋の巨大なベッドのど真ん中で大の字で寝ていたはずだ。
こう言っちゃ何だが、俺は寝相は良い方だ。
知り合いは寝てる間に、シャツどころかパンツまで脱いでたなんて話も聞くが、今までの俺の経験でそれは無い。
だが、この違和感は何だ?
まるで素っ裸でシーツに包まれているかのようだ。
いや、違和感の正体は分かってるんだ…あえて触れない様にしていたんだが、ちゃんと分ってるんだ。
そう、俺は今…全裸だ。ベッドの中で全裸だ! って威張る程じゃないけど、何も着てないとしか思えない。
この胸や股間にサラッとあたるシーツの感触…素肌だよな。
ってことは、さっきから気にはなっていたが無視していたこのシーツの温もりの正体は…いや、これも予想は付いている。
多分、俺以外の全員が正確に予測していただろう…誰がとは言わないし、言えないが。
絶対にこのベッドに嫁達が、しかも素っ裸で乱入してるだろう!
いや、まだシーツは捲らない…捲ったら最後、絶対にあられもない全裸の女性の寝姿が目に入るだろう。
そして、その後…搾り取られる未来しか見えない、俺の悲しい未来予知能力。
どうするか…呼び出しが無いのであれば、このまま寝てしまおうか?
嫁達が起きるまで、寝てしまった方が俺的には幸せな未来が来るんじゃないだろうか。
まだ身じろぎすらしていないのだ。へへっ、お釈迦様でも気がつくめぇ!
って、違う違う! そうじゃ無くて、世の中の善と悪とを比べれば、恥ずかしながら悪が勝つ。神も仏もねぇものか。
いや、これでもない! これだと、浜の真砂は尽きるとも、尽きぬ恨みの数々を、晴らす仕事の裏稼業! とか言いそうだ。
俺は江戸時代の銭で恨みを晴らす必殺の人じゃないんだから!
そうじゃなくて、ああもう! 考えがグチャグチャで思いつかない! どうしたらいいんだ!
はっ! 天恵だ! やっぱ二度寝したらいいんじゃん!
そうだよ、全て忘れて後回しにして、寝ちゃえ! おやすみ~ご!
次に目が覚めた時、窓の外はすっかりと暗くなっていた。
また違和感を覚え、そっとシーツをめくってみる。
はて? 下着もパジャマもちゃんと着てるぞ?
しかも俺以外に寝た形跡もない。
入り口の無駄に豪華な扉も、しっかりと鍵がかかったまま…に見える。
あれは全部夢だったのだろうか? もの凄くリアルだった気がするけど?
ふと部屋の片隅に何か布きれが落ちているのが目に入り、俺はでっかいベッドをうんこらしょどっこいしょと這い出て近寄った。
そこにあったものは、嫁(ミレーラの物と思われる)のショーツが丸まって落ちていたのだった。
何でこんな物が…まさか、あれは夢では無かったのか?
俺はショーツ(ミレーラの物と思われる)を握りしめ、ただただ呆然と立ち尽くすのであった。
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