第462話  説明いたします

 また何かごにょごよ話しをしてるなあ…何だろう?

 もう、そっちに行っても良い?

「大河さ~ん! こっち来てくださ~い!」

 サラが遠くで俺を呼んだよな。

 よし、いくか! と、勢いをつけて立ち上がろうとすると、目の前にはもふりんが。 

「もうきてもだいじょうぶでち! おまたせしたのでち!」

 めっちゃ可愛いネコ耳をピコピコさせ、尻尾ふりふり立っていた。

 あ、抱きしめても良いですか? ネコ耳もふっても構いません? しっぽナデナデしてもOKだよね?

 両手をワキワキさせようとした途端、

「またおかんがはしりまちた! まちゅたー、たちけてくだちゃい!」

 ぴゅーーー! と漫画の様な効果音を残してモフリーナの所へと、もふりんは走り去ってしまった。

 何故わかったのだろう…あ、そうか! ネコは構い過ぎたら逃げるって何かで読んだことがある。きっとそれに違いない!

「おかおがこわかったからでち!」

 どうやら違ったらしい。ってか、顔が怖いって…ちょっと自信喪失。

 まあ、いいや。

「よっこいしょういちっ…と!」

 隅っこで固まった間接と筋肉をほぐす様に、立ち上がりざまぐるぐると腕や肩を回してみた。

 うん、全然こって無かったです。

「どこのおっさんですかーーーーー!」 

 遠くに聞こえるサラのツッコミが的確で、ちょっと嬉しい。


 さて、並んだベッドに寝かされて、色々な機械と繋がれている新旧の火御華ボディー。どちらにも、まるで手術の時の様な白い布が首から下に掛けられていた。

 布一枚だけだと、微妙な女性らしい凹凸が見えるんだけど…サラもリリアさんも、モフリーナももふりんも何も言わない。

 どうやら、直接見るので無ければ、問題ないらしい。まあ、欲情する事も無いけどね。

 さて、大きな旧型ボディーの方は、見るからに呼吸をしている。

 精神体を抜きだしたのは理解したんだが、生きてていいんだろうか?


「では術後ではありますが、もういちど術式について説明いたします」

 どっから取り出したのか、メイド服の上から白衣を着用しているリリアさんが、これまたどこかから取り出した伊達眼鏡の鼻の部分をクイッ! と押し上げながら語り出した。

 こういう時に、いらんツッコミをすると却って話しが長くなるのを、俺は知ってるぞ。

「まず、恐怖の大王の欠片によって精神操作が行われつつあった旧火御華の体の中より精神の大部分を抜き出しました。この時に心臓の拍動を制御する刺激伝導系や、呼吸を制御する各部の呼吸調節系統や独立した内臓系など内因的に周期活動を制御する大部分の器官制御系統に関しては、フィルターを掛けて恐怖の大王の欠片を含めた部分のみを分割して残しました」

 …全然、わかりましぇん。

「これにより、恐怖の大王の欠片を内包した器官制御系統を持つ旧ボディーは、生物として辛うじて生きているだけの状態となっています。対して抜き出した精神体と新ボディーにはその部分が欠如しておりますので、管理局のデータベースよりコピーしてすでに転写しております」

 つまりは、生きてゆく上で問題ないって事でいいのかな?

「そして抜き出した精神体等は、元々の記憶の大部分が広い範囲で破壊されており、修復は不可能な状態でした。なので、新しい情報を記憶として植え付けました。新火御華が目を覚ました時、記憶に違和感を覚える事はまず無いでしょう」

 …うん、それでいいんじゃないかな。どうやったか分からんけど。

「記憶自体にも大幅に手を加えましたが、違和感が残ることも無いはずです。ただスタート時の精神年齢は7歳に固定しておりますので、それ以前の、記憶や経験、知識といった蓄積もありませんので、あくまでも情報だけになってしまいますが」

 それは仕方ないよね。

「うん、仕方ない…で、記憶の改変って…」

「貴方様のご希望通りに改変したわけではありません。あんなシスコンでロリコンな要求は、管理局によって却下されましたので、いたって普通の…そう、コルネリア様の記憶情報に準拠した形となっております」

 ちぇっ…いいじゃん、俺の希望通りにしてくれたって…

「何か、ご不満でも?」

「ある訳ないだろう。それこそ俺の望んだ形だよ、うん」

 めっちゃ白い目で睨むなぁ…リリアさん。

「まあ、貴方様の考えなんて、この際どうでもいいです。新ボディーには名前がありませんので、目覚めた時にでも付けてあげてください」

「俺が名前を? あ、うん。了解した。家族とも相談してつけるよ」

 嫁~ずとコルネちゃん、あとはうちの両親とも相談かな。

「問題は旧ボディーですが、どうします? 溶かしますか?」

「サラの時みたいに溶かすのかよ! 怖いな、おい!」

 確かにあの時は直視できない悍ましい最後だった気がする…思い出したくも無い。

「いえ。実は、現在は肉体的に旧火御華ボディーが生きていると恐怖の大王は認識していますが、そのうち精神体が存在しない事に気付きますよ?」

 あ、そっか。さっさと処分なきゃダメって事か…んじゃ、

「それじゃ、局長に多重ブラックホールに送り込んでもらうとか?」

「それでも構いません。ただし、生きたままになりますが?」

 ぐっ…それは人として、どうなんだろうか…

「まあ、心は完全に消失しているので、何の反応も無い生きたラブドールですが」

「ちょっとは例えを考えろよ、このドエロ!」

「考えろとドエロをかけたんですね? 座布団一枚!」

 もう、こいつイヤだ… 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る